日本の電子機器はどうすれば強くなれるのか

電子機器の開発には、半導体(LSI)、パッケージング(Packaging)、プリント基板(Board)、受動部品(Passive)といったさまざまな電子部品を組み合わせる必要があるが、半導体プロセスの微細化によるデバイスの高性能化といった動きがある一方、電子機器の小型化、バッテリ搭載機器の場合はバッテリの長寿命化などといったニーズも日々高まっている。また、その設計・製造の形態も、かつての「垂直統合(IDM)」から、現在は、さまざまな分野に特化した企業とパートナーシップを締結し、そうしたパートナーとの「水平分業」により、より高度な機器開発を実現しようという、ビジネスモデルへと変化してきた。

かつてのIDM時代、ほぼすべての作業が社内で実現されていたことあり、すり合わせ技術をいかんなく発揮し、世界を席巻してきた日本の家電・電子機器メーカーであるが、こと水平分業全盛の時代においては、パートナーから提供される情報の粒度や精度、フォーマットにばらつきがあることから、そうして培ってきた設計技術を活かすことが困難な状況となっていた。

電子情報技術産業協会(JEITA)は、そうした状況を鑑み、半導体、パッケージ、プリント基板などの電子機器開発に必要な部品のデータ情報リストやフォーマットを一元化することで、設計技術で再び日本が勝負できるようになることを目指してLPB(LSI・Package・Board)相互設計ワーキンググループ(LPB-WG)を2010年に正式WGとして立ち上げて以降、標準化に向けた活動などを進めてきており、2015年にはIEEE標準(IEEE 2401-2015)となったほか、2016年にもIEC国際標準(IEC 63055)として制定・発行されるなど、世界的な標準へと進化しつつある。

基板上のあらゆる部品データの共通活用を可能とするLPB

そんなLPBの考え方としては、各社の競争領域である設計コンテンツ層である「コンテンツ」の下流にモデルデータ層「ビヘイビア」、そしてその下流にIEC 63055/IEEE 2401としても規定される相互設計用情報の層「アブストラクト」といった3層構造で構成され、LPB-WGでは、このアブストラクトの部分の機能拡充などに取り組んできた。もう少し、取り組み内容を詳細に述べるとすると、どのような端子やモデルを使うと、デバイスを表現することが可能になるか、といった部分であり、半導体、パッケージ、プリント基板などのメーカーからは、その基礎となるモデルが提供される必要がある。

  • LPBの考え方

    LPBの考え方は各コンポーネントの情報を3層に分け、各社の競争領域には触れずに、相互設計のための情報のみを活用(すり合わせ)し、市場に対するアドバンテージを得やすくするというものとなる

同WGの主査を務める東芝デバイス&ストレージの福場義憲氏によると、「欲を言えば、従来のLSI、パッケージ、プリント基板のみならず、基板上に実装されるすべての部品データがモデルとして提供されることが理想。それにより、シミュレーションを行う際の情報が正確になればなるほど、短TAT(Turn Around Time)化と高品質化をはかることができ、競争力を増すことができるようになる」とのことで、今般、新たに受動部品のデータをライブラリとして村田製作所が提供することとなったという。

  • LPBフォーマットの活用効果
  • LPBフォーマットの活用効果
  • LPBフォーマットの活用効果
  • LPBフォーマットを活用することで、開発期間の短縮やエコシステムの形成など、さまざまな効果を得ることが可能になる

「村田製作所がLPBの考えに賛同してくれたことで、例えばシステムメーカーなどは、同社のコンデンサを開発の検討段階から使用することができるようになり、そのまま量産に展開したり、カスタム化に向けた協議を進めるといった、早めのアプローチをとることができるようになる。今後、村田製作所の加入を皮切りに、コンデンサに限らず、他の受動部品を扱うメーカーなどにも参加を促して行きたい」(同氏)とのことで、そうしたソケットやコネクタまで含めた標準フォーマットにて設計シミュレーションを行うことで、パワーインテグリティやシグナルインテグリティの問題なども含めて、開発の指針を素早く打ち出せるようになることを強調する。

また、各部品サプライヤが、標準化された部品ライブラリを提供してくれたとしても、それをEDAツールにそのまま入れてすぐに使えるかというと、実はそうではないという。というのも、ユーザー側は、自社の設計仕様などに応じて、サプライヤからのIDに、どこにその部品を配置するかといった配置データ(コンデンサのCxといった表記や抵抗器のRx、ダイオードのDxなどはその典型と言える)を組み合わせたりさせた上で、EDAで読み込むといったことを行う必要がある。そこでLPB-WGでは、チップコンデンサやインダクタなどの配置データ「C-Format」を各社の製造ルールなどに併せて変更することなどを可能とする「CFormat HUB(C-HUB)」の開発も行っている。

  • LPBフォーマットの構成ファイル

    LPBフォーマットは5種類のファイルで構成されているす

  • C-HUBの概要

    C-HUBの概要。これにより、製造ルールに基づいた記述などに変換することが可能となる

「C-HUBを介することで、各社の製造データに基づいた状態で、村田製作所の提供する部品データをANSYS(アンシス)やMentor Graphicsのツールに読み込ませることが可能となったが、これはJEITAというどこか1社に寄らないつなぎを作る組織があったためにできた取り組み。村田製作所の皆さんに、ライブラリを作ってもらっても、それが問題ない、ということを保証するための書式サポートや、そうして生成されたデータが正しく読み込めるのか、といった検証などの作業はJEITAという存在があったからできたと考えている。このC-HUBの取り組みも含めてだが、JEITAでは、より多くのメンバーに活用してもらうことを目指してLPB DESIGN KITというデザインキットという試作済みで、これを活用する形での設計の流れを作り出すことができたと思っている」(同)とのことで、今後は、JEITAに参加することで、そういう設計に対するメリットを享受し、他社に先行して開発を進めることが可能になるとする。「我々としては、より多くのメーカーに参加してもらいたいと思っているし、JEITAには入れないけど、活用したい、という人たちに向けてもオープンソースの形で公開して、なんらかの形での支援をしたい」(同)としており、すでにデザインキットのコードは、Gitlabにて公開済み(要ユーザー登録)とする。

  • LPBデザインキット 2017の概要

    LPBデザインキット 2017の概要

村田製作所のコンデンサを皮切りに、今後、多くの受動部品や電子部品がLPBフォーマットに対応する可能性がでてきた。そうすると、LPBのPは現在、Packageだが、これがPassiveの意味を持つようになる可能性も出てきたこととなる。

世界に広がるLPBの輪

村田製作所の参画に加え、LPBは世界を巻き込む形で近年、動きを加速させている。その1つがCadence Design Systemsの参画。同社のプリント基板設計におけるパワーインテグリティ、シグナルインテグリティのサインオフ検証を加速する「Sigrity」の2017年版にて、LPBフォーマットのインポートに正式対応したとのことで、これによりEDA/シミュレーションツールとしては、Cadence、Mentor、ANSYS、そして図研といった大手がメンバーに名を連ねたこととなり、相当数の設計エンジニアが何らかの形でLPBフォーマットにアクセスしやすい環境が構築されたこととなる。

  • CadenceのSigrity 2017がLPBをサポート
  • CadenceのSigrity 2017がLPBをサポート
  • Cadence Design Systemsの「Sigrity」が2017年版にてLPBフォーマットのインポートに正式対応した

また、IEEE 2401-2015として標準化されたLPBフォーマットだが、当時のフォーマットはv2.2であり、現状のv3.0以降への更新が求められることとなる。そのためLPB-WGでは、2020年の改訂に向けて、IEEEでの改訂活動を盛り込んだv3.1を2018年中に策定し、それを元に、2019年中のIEEE Std 2401-2020としての承認、2020年の早い段階での発行を目指すとする。

  • LPBフォーマットの国際標準改訂に向けたロードマップ
  • LPBフォーマットの国際標準改訂に向けたロードマップ
  • LPBフォーマットの国際標準改訂に向けたロードマップ

さらに、現状LPBがカバーしているのはアブストラクトの層であるが、JEITAとしてはモデルにもつながる話であることから、半導体部会においてモデルを扱うWGを設立しようという動きがでているほか、2018年4月には世界に向けてLPB-WGへの参加を呼びかけることを目指すキックオフミーティングを開催する予定だという。すでにSi2(Silicon Integration Initiative)との連携が動き出しているほか、IBIS Open Forumとも連携を進めており、4月のキックオフミーティングには、こうした他の団体からの参加も予定されているということだ。

このほか、設計環境の変化、例えば設計情報をクラウドで処理するということも徐々に始まってきているが、そうしたときのセキュリティの担保の手法や、手薄な開発の上流との連携に向けた上流-下流連携WGの設立に向けた協議なども進めていく方針だという。

同氏は、こうした取り組みについて、「日本のものづくりも変わらなければならない。JEITAという組織がやるのであれば、全体のアーキテクチャを作ってもらいたい、という話もあり、そうしたグランドデザインを考えていく必要があると思っている」という考えのもとの行動であり、どちらかといえば、ユーザーを巻き込む形で、どういったシステムを作りたいのか、という点を大切にし、精度の高いモデルの実現なども目指して、商社なども巻き込むなど、新たなアプローチも含め、幅広いユーザーへの普及を目指していきたいとしていた。