声は私たちが他人と意思疎通を図るうえで重要な役割を果たしている。もしも声を発することができなかったら、自分の考えや意見を主張するのに苦労し、いざというときに周囲にSOSを求めるのも難しくなってしまうだろう。そんな大切な声がある日突然、失われるかもしれないとしたらどうだろうか――。
去る7月末、アイドルグループ・Juice=Juiceの宮本佳林さんが機能性発声障害による治療のため、当面の間休養することが所属事務所の公式サイト上で発表された。このあまり聞き慣れない機能性発声障害という病気に罹ると、最悪の場合は声を失う可能性があるという。今回は耳鼻咽喉科専門医の三塚沙希医師に機能性発声障害の原因や治療法などをうかがった。
――機能性発声障害とはどのような症状が出る病気なのでしょうか。
声を出すときにかすれてしまう、いわゆる「嗄声(させい)」という症状が出現します。症状は突然起きることが典型的です。ささやき声程度の会話は可能ですが、症状がひどい場合には声が出なくなってしまい、失声(しっせい)という状態になります。
――原因としては何が考えられるのでしょうか。
機能性発声障害は、舌や喉の筋肉が緊張してしまうことで声が詰まる「筋緊張性発声障害」、声変わりが順調にいかないことなどによる「変声障害」、そして精神的な原因に端を発する「心因性発声障害」に分類できます。
――興味深いですね。「ストレス社会」と比喩される現代社会においては、特に心因性発声障害は私たちの誰もが突然陥りそうな気がします。もう少し詳しく教えてもらえますでしょうか。
精神的、心因的な関与により症状が出現しますね。精神的外傷とは例えば「叱責」「驚愕」「悲嘆」などが挙げられ、その他に心理的葛藤でも起こります。心因性発声障害では声帯ポリープや声帯結節、声帯炎などの明らかな病気はなく、いわゆる器質的異常がありません。男女間での罹患率を比較すると、女性に多いと言われています。思春期から30歳前後が好発年齢になりますが、小児にでも発症します。
――小児の場合は、親からの厳しい叱責なども発病のトリガーとなりそうですね。発病の年齢を問わず、声を発しにくかったり、失ったりしたらQOLに多大な影響を及ぼすことは必至です。心因性発声障害はどのように治療をしていくのでしょうか。
心因性反応が発声機能の障害を呈した結果であるため、発声訓練と精神学的アプローチの組み合わせが有効です。
音声治療では発声の原理を説明し、声帯に異常がないことを患者自身に理解していただきながら喉頭ファイバースコープなどで確認して発声してもらいます。咳などをする訓練をして音が出ることを納得させてみたり、裏声や吸気発声で母音発声を試したりして声が出ることを自覚させます。また、発声時の自分の喉頭の感覚を認めてもらうこともします。
一方で、心因性発声障害を患う人は他の心因性症状を持つ場合も少なくありません。そこで、精神的なアプローチとして精神科医にも協力してもらい、精神科による診断・治療も同時に進めていきます。その際、環境の改善も重要な治療の一つとなってきます。場合によっては、精神症状を落ち着かせるために鎮静薬や睡眠薬を使用することもあります。
――もしも機能性発声障害と思しき症状を呈するようになったら、どうしたらよいのでしょうか。
声が出しづらいなどの症状を認めたら、必ず病院に受診することをおすすめします。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 三塚沙希(ミツカ・サキ)
日本大学医学部卒業。
慶応義塾大学耳鼻咽喉科教室入局の後、東京都済生会中央病院・国立成育医療研究センター・山王病院に出向。2017年3月、白金台にエムズクリニック白金を開院。
En女医会所属。
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。