ゲーム機やスマホ、タブレットなどでゲームをしたことがない小学生は、ほとんどいないのではないだろうか。少し前のデータではあるが、平成23年に内閣府が発表した『青少年のゲーム機等の利用環境実態調査』によれば、「なんらかのゲーム機の所有率」は、小学生で93.6%にも及んでいる。
子育てする親として気になるのは、ゲームが子どもに与える影響だ。脳への影響や、人格形成上で問題となる要素はあるのだろうか。メディアと人との関わりを研究しているお茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科の坂元章教授に、子どもの成長とゲームとの関係性について聞いてみた。
ゲームのストーリーが、人格形成に影響を及ぼすという説も
初めに、ゲームが脳に与える影響についてはどうだろうか。坂元教授によれば「科学的にはまだ分かっていないことばかり」であり、「脳を活性化する」という意見の人もいれば、「活性化はしない」という説もあるそうだ。
例えばアクションゲームやシューティングゲームなどの場合、ゲームをしている最中は、視聴覚を司る脳の後ろの部分が比較的活性化されるといわれている。一方で、思考に使われる脳の前の部分は、ゲーム中、あまり刺激されない。このように、ゲーム中は脳の中でも限られた部分が活動していることなどから、評価が分かれるのだという。
ただ、「脳の活性化には、適度な運動も有用」と坂元教授。いずれにしても、ゲーム中は体を動かすことがほとんどないので、ゲームだけでなく体を動かす遊びもするなど、バランスを心がけることが大切だ。
人格形成への影響については、「ゲームをするとそのストーリーの影響を受ける場合がある」ということが、これまでの数々の研究から分かってきたらしい。暴力シーンが含まれるゲームをすると子どもの攻撃性が高まり、人を助けるようなゲームをしていれば人助けをするようになる、という研究データもあるそうだ。もちろん、暴力的な内容のゲームをしたからといって、すぐに暴力をふるうようになったり、犯罪をおかしたりするわけではない。
コミュニケーション能力・社会性の低下は実証されていない
またゲームをすることによって、コミュニケーション能力や社会性が低下するのではないかと心配する人も多いが、実証はされていないとのこと。もともと社会的に不適応な子どもほど、ゲームにハマる傾向があるという研究結果も出ている。ゲームが原因で社会性が低下する可能性は低く、これに関してはあまり懸念する必要はないと言えそうだ。
そして、ゲームと集中力との関係性については、少し注意が必要だ。ゲームはとても集中しやすいもののひとつ。簡単に集中できるもの(=ゲーム)に慣れてしまい、そうでないものに対しては集中しにくくなるという説があるそうだ。また、そもそも物事に集中するのが得意ではない人がゲームにハマりやすく、もともと注意散漫、注意欠損の傾向のある人は、依存的になりやすいというデータも出ている。
依存性が高いオンラインゲームは要注意
そんな中で、子どもにゲームを与える際、最も気をつけたいのは「依存」なのだという。ゲーム機を使う従来的なゲームについては、親がある程度ルールを整えたり、付き合い方を指導したりすれば、通常はさほど心配はないとのこと。しかし気をつけたいのは、スマホやタブレット、パソコンを使ったオンラインゲームだ。
オンラインゲームは、ゲームとしての面白さだけでなく、ネット上で人とコミュニケーションできる楽しさがある。さらに自分が中断してもゲーム自体は進行するので、「見ていないうちに何が起こっているんだろう」と気が気でなくなったり、「共同でやっている仲間に迷惑がかかる」と心配になったりして、なかなか抜け出せない構造になっており、依存性が高いのだそうだ。
依存性があるものというのは、やればやるほど依存度が増してしまう。依存が高まるとゲームに費やす時間が増え、そうするとさらに依存が高まる、という無限ループに陥りかねない。
ゲームは当たり前の存在に、過度に遮断しすぎないで
とはいえ、「ゲームそのものは、与えてはならないというものではない」と坂元教授は説明する。本人がやりたがっているのにシャットアウトしすぎると、子どもにとって大きなストレスになる。かえって固執させる原因にもなりかねず、そうなると親の目が届かないところでエスカレートしすぎることもあるので、過度に遮断しすぎないよう気をつけたい。
またゲーム機やソフトの貸し借りなどによる友だちとのトラブルを心配する親も多いが、こういったケンカは、ゲームだから起きてしまうのではなく、昔からありがちなこと。借りたらすぐ返すよう教えたり、貸し借りは最初からさせないようにしたりするなど、親がその都度アドバイスしていきたい。
ゲーム中の子どもの暴言(「死ね」「殺す」など)も同様。ゲームに限らず、子どもは外でいろいろな言葉を覚えてくるものだ。この場合も、そのたびに「人を嫌な気持ちにさせる言葉は使っちゃだめだよ」などと教えていくことが大切になる。
ソフトやアプリを厳選すれば、ゲーム遊びは気分転換やリラックスにもなる。「使い方さえ間違えなければ、昔からある"遊び"と大して変わらない」と坂元教授。現代の子どもたちは、生まれた時からネット環境が身近にある"デジタルネイティブ"世代なので、ゲームのようにアナログではない遊びと当たり前に付き合っていくのは、今の時代の自然な姿だ。親としては、見守りながらゲームとの付き合い方を教えて、成長とともに自分の意志でコントロールできるよう導いていきたい。
坂元章教授 プロフィール
お茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科教授。専門分野は社会心理学、情報教育。「メディアと人との関わり」を研究課題とし、「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」による保護者啓発の研究とりまとめにも座長として協力。日本シミュレーション&ゲーミング学会理事、特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)理事も務める。著書は『テレビゲームと子どもの心――子どもたちは狂暴化していくのか?』(メタモル出版)など多数。