睡眠不足に伴う健康被害は以前より指摘されており、ご存じの方も多いだろう。睡眠時間が不足すると、頭がボーっとして記憶力が低下するほか、ニキビやしわなどのスキントラブル、便秘、肩こり、腰痛、免疫力の低下、アレルギー症状の悪化、月経異常などのトラブルに悩まされるようになる。
また、睡眠時間が短くなるほど糖尿病やガンの発病率が高まるなど、疾患の発症リスクとなることを示す研究も多々発表されている。
そんな中、「睡眠時間が不足すると太りやすい」ということを聞いたことがある人も多いのではないだろうか? 一見、睡眠時間と体重は関係がないように思われるが、寝不足がどのように影響するのか、その原因に迫る。
寝不足で食欲に影響するホルモンバランスが変化
食欲に関係するホルモンは多数あるが、その代表例として満腹ホルモン「レプチン」と空腹ホルモン「グレリン」がある。
レプチンは満腹中枢を刺激して食欲を抑制する作用があり、自律神経などを介してエネルギー代謝の更新に作用するホルモンである。ギリシャ語で「やせる」という意味を持つ「レプトス」に由来するが、まさにやせを促すホルモンである。一方のグレリンは、空腹で体内のエネルギーが不足するときに分泌される食欲を刺激するホルモンである。
睡眠不足や睡眠障害がある人は、そうでない人と比べてレプチンの血中濃度が少なく、グレリンの血中濃度は高いことが明らかにされている。つまり睡眠時間が短い人はそうでない人よりも食欲を感じやすく、食べ過ぎになりやすいということだ。
レム睡眠が不足すると甘いものが欲しくなる
睡眠不足になると、高カロリーの「太りやすい」食べ物が欲しくなることも以前より知られている。ただ、なぜそうなるのか、そのメカニズムについては明らかになっていなかった。筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構はこのメカニズムについて究明し、脳の「前頭前皮質」という部分が関係していることを2016年12月に発表した。
ヒトの睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を90分周期で繰り返している。研究チームの実験では、このレム睡眠が不足したマウスは、ショ糖(砂糖)や脂質といったいわゆる「太りやすい」食べ物の摂取量が増えた。その一方で、脳の前頭前皮質の活動を抑制したマウスは、レム睡眠が不足してもショ糖の摂取量が増えなかった。
睡眠不足になると高カロリーのものを食べたくなる欲求は前頭前皮質によってコントロールされており、レム睡眠と前頭前皮質、太りやすい食べ物を好むといった食物の嗜好性が直接関係しているということが実験により明らかになったのだ。つまりレム睡眠が不足すると、甘いものや脂っぽいものを食べたくなるのである。
自身に適した睡眠時間確保の道を探る
現代人の睡眠時間が以前よりも短くなっていることが指摘されてから久しいが、昨今では短い睡眠時間でも効率よく疲れが取れるよう、睡眠の質を高めるためのさまざまな取り組みが行われている。ショートスリーパーという言葉をよく耳にするようになったが、どうしたらショートスリーパーになれるのか、その方法を紹介するサイトなども存在する。
より快適な睡眠を得るために、あるいは睡眠不足による弊害を防ぐために、いずれも必要なことかもしれない。だが、睡眠不足を補完するための方法を模索するのではなく、健康を維持するために不可欠な、その人に適した睡眠時間を確保する方法を今一度見直す必要があるのではないだろうか。
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記事監修: UHC
東京日本橋にあるベンチャー企業のユナイテッド・ヘルスコミュニケーション(通称UHC)。健康増進アプリ「Wity(ウィティ)」を開発する一方、大手製薬企業のコンテンツ開発を担うなど幅広く活動。社員は心理学、看護学、ロボット工学などの研究者・専門職が多数を占める。皆個性が強く不思議な空気感が漂うが、今日も仲良くお仕事中。