全22作品がそろった2016年の秋ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、全作品の初回放送をウォッチ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていく。

別記事(秋ドラマ22作、傾向分析&オススメ5作発表! 「各局の戦略丸かぶり」の中で光る"幸福なファンタジー")において、秋ドラマの主な傾向を [1]各局の戦略が丸かぶり [2]リアリティ無視のお仕事ドラマ [3]シリアスの中で輝く幸福感 の3つと分析。

おすすめドラマとして、『黒い十人の女』(日本テレビ系読売テレビ 木曜23時59分)、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系 火曜22時)、『運命に、似た恋』(NHK 金曜22時)、『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK 土曜22時)、『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ系 21時)の5本を選んだ。

本記事では、それらの作品を含む、今クール全作品のひと言コメントと採点(3点満点)を紹介していく。

桐谷健太

『カインとアベル』 月曜21時~ フジテレビ系

出演者:山田涼介、桐谷健太、倉科カナほか
寸評:恋愛より主人公の内面に焦点を当てた展開に意外性はあるが、テンポよく進むビジネスシーンの展開にご都合主義が見られる。脚本も演出も山田の魅力を引き出すべく逆算されているため、ファン以外の視聴者は苦しいか。年上女性に恋する姿は月9らしい初々しさも。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】

島崎遥香

『警視庁 ナシゴレン課』 月曜24時15分~ テレビ朝日系

出演者:島崎遥香、古田新太、勝村政信ほか
寸評:「会議室で事件解決」「25歳の女デカ長」というコンセプトは、「深夜だからこれくらいやろう」という前向きさ。ただ、ワンシチュエーションも、現役アイドルのヒロインも、「ハマるかハマらないか」極論となる。個性的な脇役と島崎が噛み合えばいいが、空回りの感も。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

吉田羊

『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』 火曜21時~ フジテレビ系

出演者:吉田羊、相武紗季、吉岡里帆、伊藤蘭ほか
寸評:『救命病棟24時』『ナースのお仕事』らを輩出した火曜21時に戻ってきた医療モノ。ポイントは、絶体絶命からの生還劇が盛り上がるかどうか。『ドクターX』との比較上、手術シーンが少ないなどの不利があるのも含め、演出の力量が問われる。女医たちの役作りにも注目。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

新垣結衣

『逃げるは恥だが役に立つ』 火曜22時~ TBS系

出演者:新垣結衣、星野源、石田ゆり子ほか
寸評:“契約結婚”というテーマそのものは平凡だが、全編を通して流れる穏やかなムードは特筆に値する。キャスティングも、恋のスピードも、無理せず過剰にならず、ほどよいさじ加減で、もどかしさの漂う関係性は恋愛ドラマの王道。石田、古田新太ら、助演の貢献度も高い。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

石原さとみ

『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』 水曜21時~ 日本テレビ系

出演者:石原さとみ、菅田将暉、岸谷五朗ほか
寸評:『重版出来!』のように下積みから描かず、校閲の醍醐味を切り取ったシーンもないため、仕事面での感動やカタルシスは少なく、「あくまで石原を愛でるドラマ」という印象。ただ、静止画を多く取り入れた演出は新鮮で、バラエティーとアニメからの影響を感じさせる。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

柄本佑

『コック警部の晩餐会』 水曜0時10分~ TBS系

出演者:柄本佑、小島瑠璃子、えなりかずきほか
寸評:コンセプトから、キャスト、クライマックスまで、すべてに渡っていい意味でのB級感が漂い、視聴者の間口は広い。刑事が犯人逮捕のために、晩餐会を開くシーンはドラマというより喜劇舞台のよう。小島はここでいい演技を見せて、次の出演作につなげたいところ。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】

米倉涼子

『ドクターX~外科医・大門未知子~』 木曜21時~ テレビ朝日系

出演者:米倉涼子、岸部一徳、西田敏行ほか
寸評:プライムの連ドラで唯一視聴率20%を獲れるシリーズだけに、「定番を見せることが重要」であり、変更点はほぼなし。「巨大医療組織vsフリーランスの女医」という図式も薄くなり、患者の時事性と大門の華麗な手術シーン、ベテラン俳優の追加で、豪快に乗り切っている。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

天海祐希

『Chef~三ツ星の給食~』 木曜22時~ フジテレビ系

出演者:天海祐希、小泉孝太郎、遠藤憲一ほか
寸評:三ツ星シェフの食中毒騒動や、給食の仕事に就くまでのプロットが苦しく、演出家とキャストに負担がかかっている。なかでも天海のヒロイン像はいつも通りで、10数年前から変わらないのは、制作サイドの偏見かもしれない。給食室の芸達者なメンバーには大いに期待。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

船越英一郎

『黒い十人の女』 木曜23時59分~ 日本テレビ系

出演者:船越英一郎、成海璃子、水野美紀ほか
寸評:人間の悪意とかわいらしさを切り取るバカリズムの脚本が絶妙。連ドラ2作目にして、著しい進化を見せている。「十人の女」を描き分ける演出も明快で、飲食物をかけ合うシーンを含め、見せ場もたっぷり。終盤に向けて、どこまで壊れていくのか、楽しみは尽きない。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

市川海老蔵

『石川五右衛門』 金曜20時~ テレビ東京系

出演者:市川海老蔵、國村隼、比嘉愛未ほか
寸評:“海老蔵歌舞伎”の世界観そのままに、存在感やセリフ回しなどで、さすがの座長ぶりを見せている。殺陣や美術などでNHKの時代劇より劣るのは仕方ないが、視聴者を楽しませるサービス精神はたっぷり。茶々役の比嘉は、『真田丸』の同役とは異なる美しさを放つ。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

原田知世

『運命に、似た恋』 金曜22時~ NHK系

出演者:原田知世、斎藤工、奥田瑛二ほか
寸評:『ドラマ10』らしい大人の恋物語で、脚本の北川悦吏子も、同枠で実績のある原田と斎藤もフィット。「運命」「境遇の差」などのキーワードが恋心を加速させつつも、スローな展開で引きつける。回を追うごとに女の顔を見せる原田と、山口紗弥加の悪女ぶりが作品の象徴。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

菅野美穂

『砂の塔~知りすぎた隣人』 金曜22時~ TBS系

出演者:菅野美穂、岩田剛典、松嶋菜々子ほか
寸評:オリジナルだが、そのムードは『金曜ドラマ』の湊かなえ作品と酷似。監視カメラや体操教室、合コンや不倫シーンなどのツッコミどころが多いのは、制作側がネットでの盛り上がりを狙っているためか。「タワマンあるある」はそれなりにリアルな反面、目新しさはない。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

清水富美加

『家政婦のミタゾノ』 金曜23時15分~ テレビ朝日系

出演者:松岡昌宏、清水富美加、余貴美子ほか
寸評:松岡の女装以上に、『半沢直樹』『下町ロケット』などを手がけた八津弘幸の脚本は要注目。家事のテクニックを絡めた演出などの抜け感も心地いい。今後も『家族ゲーム』のノリでいくのか、別の一面を見せるのか。「『ミタ』のパクリ」なんて声もあるが、本家はテレ朝。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

山田孝之

『勇者ヨシヒコと導かれし七人』 金曜24時12分~ テレビ東京系

出演者:山田孝之、木南晴夏、宅麻伸ほか
寸評:4年ぶりでもヨシヒコの世界観は良くも悪くも健在。アンチメジャーのコンセプトで、失笑を誘う流れは変わらないが、時代の流れは早い。脚本・演出の福田雄一自身も進化しているだけに、さらなる変化を期待したいところ。この人ならシリーズの予定調和をぶっ壊すかも。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

武井咲

『忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣~』 土曜18時10分~ NHK

出演者:武井咲、福士誠治、三田佳子ほか
寸評:『土曜時代劇』の実質的な第一弾だけあって全20回放送の大作。大河ドラマが技巧派で、コミカルさを交えている分、当作の凛とした気配が際立つ。淡い恋模様から一転、討ち入りの激しい展開は目を見張るものがあり、その後の描き方も楽しみ。武井の代表作になるか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

唐沢寿明

『THE LAST COP/ラストコップ』 土曜21時~ 日本テレビ系

出演者:唐沢寿明、窪田正孝、和久井映見ほか
寸評:単純明快&説明不要の老若男女が楽しめるドタバタ痛快作。唐沢と窪田だからこそ成立するかけ合いやアクションは、それだけで貴重と言える。「突き抜けるならここまでやり切る」のお手本であり、土曜21時の放送に最適。鑑識役の伊藤沙莉がまたも怪演を見せている。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

阿部寛

『スニッファー 嗅覚捜査官』 土曜22時~ NHK

出演者:阿部寛、香川照之、井川遥ほか
寸評:原作は世界的ヒット作だが、それに負けない演出の技量が光る。重さの中に繊細さや美しさを感じさせる映像はNHKならでは。『ロンググッドバイ』よりテンポとトーンを抑えるなど、視聴者ニーズを嗅ぎ取った感もある。阿部と香川のコンビに何か言うのは野暮だろう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

中村蒼

『潜入捜査アイドル・刑事ダンス』 土曜0時20分~ テレビ東京系

出演者:中村蒼、大東駿介、野間口徹ほか
寸評:「テレビ番組や芸能界の小ネタを集めて、サブカル的な角度から笑い飛ばす」コンセプトは、いかにもテレビ東京風味。脱力してクスクス笑えるところはあるが、前時代的な感も否めない。今後はアイドルイジリを徹底し、風刺にまで落とし込めたら面白くなりそう。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

田辺誠一

『とげ 小市民 倉永晴之の逆襲』 土曜23時40分~ フジテレビ系

出演者:田辺誠一、西田尚美、鹿賀丈史ほか
寸評:主人公がひたすら理不尽な仕打ちを受け続けるストレスフルな展開は異例……と思いきや、同枠は昼ドラを手がけた東海テレビの制作。とかく視聴者ニーズを“爽快感”のみで決めつける現在のドラマ界では貴重と言える。ただし、その分カタルシスがもっとほしいところ。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

織田裕二

『IQ246 ~華麗なる事件簿~』 日曜21時~ TBS系

出演者:織田裕二、ディーン・フジオカ、土屋太鳳、中谷美紀ほか
寸評:織田の演技に難色を示す声も多いが、好き嫌いを除けば完成度は標準仕様。視聴率を獲るための工夫が随所に施され、木村監督の小ネタが好きな人はたまらないだろう。ただ倒叙型の作品だけに、IQ246を生かす難解な謎解きと、『古畑任三郎』と同等の大物ゲストが必要。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

玉木宏

『キャリア ~掟破りの警察署長~』 日曜21時~ フジテレビ系

出演者:玉木宏、高嶋政宏、瀧本美織ほか
寸評:「平成版、遠山の金さん」というコンセプトから、中高年向けであることがハッキリ。「身分を隠して街をふらふらして、逮捕シーンで警察手帳をかざす」という展開は既視感が強く、「なぜ謎が解けたのか?」の理由も説得力に欠ける。玉木のさわやかな演技が救いに。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

沢村一樹

『レンタル救世主』 日曜22時30分~ 日本テレビ系

出演者:沢村一樹、藤井流星、志田未来ほか
寸評:沢村が主演と思いきや、目立つのは、藤井の“ルチャ”風アクション、志田のつぶやきラップと泣き顔ブス、稲葉友の女装など、脇役のキャラ。レンタル救世主としての依頼も平凡だが、それ以上に沢村が単なるお人好しなのと、「ハズレなし」の勝地涼が輝かないのが残念。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。