食品添加物というと、発がん性があるのではなどの悪いイメージがあり、子どもにはできるだけ食べさせたくないと思っている人が多いかもしれない。しかし、無添加の食品だけで毎日の食事を作るのは、なかなか大変なこと。子どもの食事を作るうえで、食品添加物はどの程度気にするべきなのだろうか。
日本獣医生命科学大学応用生命科学部で食品安全学を教える吉田充先生に話を聞いた。
"安全なものがある"ではなく"安全な量がある"
食品添加物は、どの程度気にする必要があるのだろうか。吉田先生は「日本において、普通の食生活を送っている限り、食品添加物で健康を害することはないと考えられます」と答えた。
もちろん、"過剰な摂取"は体に有害だが、それは食品添加物に限った話ではない。「一般の食品でも食べ過ぎると調子が悪くなりますよね。天然物か合成化合物かは関係ありません。"安全なものがある"ではなく、"安全な量がある"と考えてください」と吉田先生。塩や醤油をとりすぎれば高血圧に、砂糖をとりすぎれば糖尿病になりやすいといった具合に、重要なのは、その"量"なのだ。
国の安全性基準を逸脱するのは難しい
それでは、食品添加物の摂取量については、どのように考えるべきなのだろうか。吉田先生によれば、日本で普通の食生活をおくっている限り、過剰に摂取しすぎる可能性はほとんどないのだという。
その根拠となるのが、厚生労働省が毎年実施している「マーケットバスケット方式による年齢層別食品添加物の一日摂取量の調査」だ。全国のスーパーマーケットなどで、調味料や肉・魚、野菜や菓子類などの加工食品を購入し、その中に含まれる食品添加物を分析している。
平成26年度の調査では、1~6歳児の食べる量を考慮すると、添加物の推定一日総摂取量は、保存料として使われる安息香酸が「一日摂取許容量」(病気など有害影響がでない最大量に100分の1をかけた値)の1.35%、着色料は多いもので0.13%など、どの値も許容量を大幅に下回る結果となっている。
少なくとも、国が定めた安全性の基準を逸脱することは、難しいと考えていいようだ。
"天然の添加物の方が安心"とは限らない
また「添加物は、化学合成品より天然物由来の物の方がいい」という声もよく聞くが、吉田先生はこれについても、「フグやキノコの毒素だって天然物。天然物が安心とは限りません」とくぎを刺した。
例えば、2004年に発がん性が発覚し、使用禁止となった「アカネ色素」は天然物由来の添加物だ。現在の食品衛生法では、食品添加物としての使用が認められるには、天然物でも安全性に関する試験データを厚生労働省に提出し、それに関する内閣府食品安全委員会のリスク評価を必要としている。
1995年の法改正以前に、試験なしで使用が認められた天然物由来の添加物についても安全性に関する試験が順次進められているそうだ。
また、ハムやソーセージの発色剤に使われる亜硝酸ナトリウムは、嫌われがちな食品添加物だが、ホウレンソウやチンゲンサイに含まれる硝酸塩も、口の中の微生物の働きによって、亜硝酸ナトリウムに変化する。
「化学物質としては全く同じで、性質も一緒。むしろ食品添加物より摂取量が多いのですが、だからといって栄養豊富なホウレンソウを食べないというのは、良くないですよね」と吉田先生。ちなみに亜硝酸ナトリウムには、サルモネラ菌や黄色ブドウ球菌の繁殖を抑える効果もある。
「子どもに食べさせるものだから」と思うあまり、必要以上に"無添加"や"合成添加物不使用"の文字に反応しすぎていないか。あらためて考えてみても良いかもしれない。
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吉田充先生 プロフィール
日本獣医生命科学大学応用生命科学部食品科学科 食品安全学教授。農学博士。専門は生物生産化学・生物有機化学、食品科学。食品安全学教室では、多くの食の安全に関する問題の中からテーマを設定し研究活動を行っている。