千葉県・鴨川シーワールドで生活する生き物たちの出産・子育てを、飼育員が詳しく解説! 今回は、「ゴマフアザラシ」の子育てについてです。シーワールドのゴマフアザラシ「ネル」は、うまれた後、母親からお乳をもらうことができませんでした。母親の代わりに、飼育員が行った育児とは。
ママから育児をバトンタッチ
大きな目が特徴のこちらのゴマフアザラシは、2015年2月に鴨川シーワールドで誕生したメスの子どもです。父親の「ハル」と母親の「モネ」から1文字ずつ取り、「ネル」と名付けられました。
ネルは、シーワールドでは初の人工保育で育ったゴマフアザラシです。母親のモネは、初めての出産だったためか、出産後、ネルに関心を示しませんでした。親子を他の施設に移して様子を見ましたが、モネはネルから逃げるばかりで、お乳を与える気配がありません。そのため、出産翌日から親子を分離し、係員が母親の代わりにミルクを与えるようになりました。
ミルクを与え始めた頃は、係員を怖がることなく近づいてきて、手や指をくわえて吸うような動きをすることもありました。しかし、哺乳瓶をくわえさせると嫌がり、すぐに放してしまいます。そのため、カテーテルを使い、直接、胃にミルクを流し込みました。
飼育員の努力で、自力でミルクが飲めるように
このあと、哺乳瓶の乳首の大きさを変えたり、ミルクの出る穴の大きさを調節したりするなど、試行錯誤を繰り返したところ、うまれてから4日目に、ようやく自力で哺乳瓶からミルクを飲めるようになりました。哺乳の時間が近づくと、扉の前で大きな声で鳴き、飼育員が入室すると勢いよく追いかけてくる姿は、非常にかわいらしかったです。
哺乳は1日3回。700~1,200mlのミルクを飲んで成長しました。
イワシを捕まえ、餌付けに成功!
赤ちゃんの特徴であるフワフワとした白い新生児毛は、うまれてから9日目で抜け始め、32日目で全て抜け落ち、親と同じゴマ模様になりました。そして、14日目からは離乳に向けて餌付けを始めました。初めは、餌の魚をくわえて遊ぶだけで、なかなか食べようとしませんでしたが、33日目に初めて、生きたイワシを水中で捕まえて食べました。
その後、解凍した魚も、飼育員の手元から徐々に食べられるようになり、今では1日に冷凍のアジやシシャモ、ニシンなどを3kgほど食べています。うまれた時に7.8kgだった体重は、現在54.5kgに。元気に成長しています。
シーワールドの「アシカ・アザラシの海」エリアで、他のアザラシやアシカたちと一緒に生活しているネル。人工保育を行っていたためか人に慣れていて、ガラス越しにお客さまと遊ぶ姿がよく見られます。みなさんもぜひ、ネルと遊んでみてはいかがでしょうか。
筆者プロフィール: 森岡 天
鴨川シーワールド海獣展示三課所属。2011年の入社で、主にアシカ・アザラシなどの鰭脚類、ペンギン・ペリカンなどの鳥類を担当している。アシカトレーナー歴は4年。