政策分析ネットワークはこのほど、「経営者が語る、長時間労働・少子化からの脱却」と題した緊急政策シンポジウムを開催。カルビーの松本晃 代表取締役会長兼CEO、大和証券グループ本社の鈴木茂晴 取締役会長、三越伊勢丹ホールディングスの大西洋代表取締役社長が、それぞれの企業で行われている長時間労働脱却の取り組みとその意義について語った。

あしき労働慣行が日本をダメにしている

カルビー 松本晃 代表取締役会長兼CEO

はじめに講演したのは、カルビーの松本会長。「長時間労働というあしき労働慣行が日本をダメにしている」と訴えた。社員は早い時間に退社できれば、自己研さんに励んだり、家族との時間を大切にしたりすることで、魅力的な人間になっていく。「魅力的な人間を増やさないと会社はよくならない。社員が魅力的な人間になるような環境をしっかりと作り、制度を整えなければならない」と語った。

また「会社や上司が部下の時間を奪ってはならない」として、その最たる例である"会議"は不要だと主張。会議がなくなればメモや資料がいらなくなるとして、同社では会議室をなくしたという。「昔は時間に比例して成果が出たので、長く働くのは悪くなかった。しかし今、大部分の仕事はそうでなくなった」と松本会長。「会社が求めているのは成果。労働時間を増やすことは全く求めていない」と厳しい言葉を投げかけた。

社員の働き方を持続可能に

大和証券グループ本社の鈴木茂晴 取締役会長

また社員の19時退社を徹底している大和証券グループ本社の鈴木茂晴 取締役会長は「企業が持続的に発展するには、社員の働き方も持続可能でなければならない」と主張。年休取得の推進や、子どもの卒業式などに休むことができる「キッズセレモニー休暇」なども導入しているという。「19時退社を導入してから自己研さんに励む人が増えた」とのこと。社員がインプットの機会を増やすことでサービスの質も高まり、会社にとって大きなプラスになっているそうだ。

加えて、「たとえ制度があっても、(制度の利用を)言い出しにくく使いにくいというのは制度がないのと一緒」と指摘。実際に制度が利用されているか、制度利用が言い出しにくい雰囲気になっていないかチェックしているという。

三越伊勢丹ホールディングスの大西洋代表取締役社長

さらに、三越伊勢丹ホールディングスの大西社長も「働く従業員が最高の環境で働けなければ、お客さまにご満足いただいたり、感動していただいたりできるわけがない」と長時間労働是正の意義を語った。同社は他の百貨店に先んじて、営業時間の短縮や定休日の導入、正月2日の休業を実施。業界内の競争がある中で先進的な取組みを実行した立場であるからか、長時間労働の是正には「36協定の上限やインターバルなど政府の設定が必要」とも訴えた。

「これから消費を上げていくためには、サービスの量ではなく質が大切だ」と大西社長。一部の職種では、売り上げの歩合制を導入したり、フレックス制度を導入することで時間外労働を減らしたりしていて、成果を出しているそうだ。

トップだけでなく部下からも働きかけを

フォーラムでは、「どのように合意形成して、社員の働き方を変えていったのか」という質問に対して、カルビーの松本会長が「働き方改革はコツコツやっても変わらない」とトップが責任を持って実行することの重要性を語った。また大和証券の鈴木会長も「トップの人が本気で革命的にやらないと難しい」と主張している。

一方で部下であっても「長時間労働を改善したいという思いを持った人が集まって直接トップと話をすることだってできる。働き方について考えることのプライオリティが高くない経営者にとっては、真剣に考える機会になるかもしれない」と松本会長(カルビー)。さまざまな立場の人が働きかけていくことも重要といえるだろう。

長時間労働是正に取り組む大手企業は増えつつある。日本でどのように広がりを見せるのか。今後の動きが注目される。