歯周病は歯だけの問題ではない

妊娠を境に、女性の身体にはさまざまな変化・痛みが生じるもの。中には「事前に知っておけば良かった」ということもあるだろう。歯科医師の倉治ななえ先生に、妊娠前に知っておきたいことをうかがったところ、第一声が「歯周病は早産等のリスクになる」とのことだった。そこで、妊娠と歯周病にはどんな関係があるのか、倉治先生にうかがった。

血液に流れて子宮・胎児に影響

「歯周病が早産などのリスクになることは、母子健康手帳内の全国共通となる省令様式で明記されています。これは2012年に追加された文言ですが、学会の中では以前から指摘されていたことでした」と倉治先生は言う。

歯周病が早産や低体重児出産を引き起こすメカニズムを簡単に説明すると、妊婦が歯周病になると歯周組織の破壊が通常よりも速いスピードで進行する。すると、歯周病菌がもたらすサイトカインなどの炎症関連物質が過剰に生成され、血管の中に入り込み、血液とともに運ばれる。この炎症関連物質は子宮を収縮させるホルモンに酷似していることから、早産等を引き起こす原因になるという。

実際、妊婦の飲酒によって早産のリスクは約3倍になるとされているが、歯を支えている歯槽骨まで破壊される歯周炎を患っていると、早産のリスクは約7倍にもなるとされている。

加えて、妊娠は歯周病が悪化しやすい環境でもある。妊娠中は「女性ホルモン」と称されるエストロゲンやプロゲステロンなどが高まるが、このエストロゲンは歯周病菌の栄養となって増殖する。また、ホルモンバランスが崩れると唾液の分泌量が減ってしまい、妊婦はドライマウスになりやすい。唾液には食べカスを洗い流すほか、唾液中に含まれる抗菌物質で歯周病菌など細菌の増殖を予防する働きがあるため、十分に唾液が分泌されない状況では、歯周病菌の増殖をうながしてしまうことにもなる。

歯周病対策で今からできる3つのこと

実際、妊娠してからも歯科医師に相談しながらむし歯や歯周病治療をすることはできるが、理想的なことは妊娠前にむし歯や歯周病を治すこと。自分でできる対策として、倉治先生は「適切な歯磨きをすること」「フロスを使用すること」「キシリトールをかむこと」を推奨している。

「適切な歯磨きをすること」とは、フッ素入りの歯磨き剤を15歳以上なら歯ブラシの上に2cm程度使用し、ブラッシングをすること。なるべくフッ素を口腔内に残すためにもすすぎは1回だけにとどめたい。また、歯磨き剤は歯のエナメル質を守るために、低研磨性のものを選ぶことも大切になる。歯ブラシだけでは落とせない汚れは、「フロスを使用すること」で歯と歯と隙間までしっかりフロッシングをするようにしよう。

これらより、もっと気軽にできる対策が「キシリトールをかむこと」だ。キシリトールはむし歯の元となる「酸」を作らない甘味料であり、さらに歯周病菌やむし歯菌の塊である歯垢(プラーク)の生成を阻害し、キシリトール自身の爽やかな甘味が唾液の分泌を促してくれる。

キシリトールには目安となる摂取量あり、1日「1g・5分・5回」が推奨されている。この"キシリトール習慣"を身につけていれば、3カ月で効果がではじめ、2年でむし歯の悪玉菌であるミュータンス菌がなくなると倉治先生は言う。

妊娠中はさまざまな問題が生じるもの。事前にできる対策を日々心がけておくことが大切になるだろう。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

記事監修: 倉治ななえ

歯学博士。日本歯科大学附属病院臨床教授、日本フィンランドむし歯予防研究会副会長、日本アンチエイジング歯科学会理事(認定医)、東京都大田区学校保健会副会長。「クラジ歯科」(現在院長)と「テクノポートデンタルクリニック」を開設。著書として『魔法の口もと美人スティック』(学研パブリッシング)、『むし歯・歯周病の最新知識と予防法』(日東書院)など。また、「Drななえの予防歯科」を通じて、はじめての歯磨きから予防歯科まで、歯のケア情報を発信している。