東京都はこのほど、「体育的活動における安全対策検討委員会」を設置。運動会で行われる組体操や騎馬戦競技などの安全対策について、3月までに報告書をまとめる見込みだ。検討にあたるのは、学校のトラブル事案に詳しい日本女子大学の坂田仰教授、体育の授業研究を行っている江戸川区立西葛西小学校の山下靖雄校長、それに東京都小学校PTA協議会の小野関和海会長ら11名。初の開催となった1月22日の協議の内容をご紹介する。
小学校の組体操による骨折事故、1年間で158件
同委員会は、2015年に大阪府の中学校で起きた組体操の事故を受けて設置された。運動会で行われた組体操の巨大ピラミッドが崩れ、生徒が骨折するなどのけがをしたものだ。東京都では都内の学校においても類似の事故が多数発生していることから、組体操をはじめとする運動会での競技を中心に、安全指導や対策に向けた基本的考え方をまとめるとしている。
実際に、都内ではどれだけの事故が起きているのだろうか。日本スポーツ振興センターの統計によれば、平成26年度に「組体操」において発生した事故件数は、高等学校では19件と少ないものの、中学校では146件、小学校では563件にものぼる。中でも小学校での事故件数のうち、児童が骨折したケースは158件となっている。
さらに同センターが平成21年度の災害共済給付データにより統計を出したところ、都内の小学校において、運動会で起きた事故の件数は931件。競技の内容としても「組体操」や「騎馬戦」が上位に入っている。
考えるべきは安全を守るための「準備」と「体制」
この現状を受けて坂田教授は、「組体操などの体育的な活動は、心身の調和的発達を図る教育的な効果を有している」と意義を説明。一方、「学校は児童・生徒の安全を確保するために必要な措置を講じる義務がある」として、「その調和点をどこに見出していくのかを検討しなければいけない」と問題提起した。
このあと、協議のポイントを示すために紹介したのが、組体操事故に関する裁判事例だ。
1つめの事例としてあげたのは、平成15年5月に都内の小学校で起きた5人1組で行う組体操の事故だ。練習を行っていた際、当時6年生の女子児童が、組体操から転落し、前歯3本を折ったというもの。裁判所は「各役の児童に対し適切な指示を与え…(中略)…段階的な練習を行うなど、児童らの安全を確保しつつ、同技の完成度を高めていけるよう配慮すべき義務を負っていたというべきである」として学校側の責任を認めた。
これについて坂田教授は、「ステップ・バイ・ステップで基礎からきちんと段階を追って練習を進めることが大切だとわかる」と指摘。その上で、「昭和の時代は『さあ、やってみよう』と言ってすぐに練習を始めればよかったかもしれないが、今は子どもたちの習熟度や能力を見極めながら、徐々に技の完成度を高めていくような指導が必要になっている」と分析した。
さらに、平成19年9月に愛知県の小学校で発生した4段ピラミッドの組体操事故についても紹介。練習中に最上位から落下した当時6年生の男子児童が、左上腕骨を骨折した事案の裁判だ。こちらも判決で学校側の賠償責任が認められ、「状況を把握して組み立てを途中でやめさせていれば、原告は、本件4段ピラミッドから転落することはなかったものと認められるし、本件4段ピラミッドの付近に教員を配置していれば、落下する原告を受け止めたりすることによって、本件負傷を防ぐことができたものと認められる」としている。
裁判所は「教員の複数配置」を要求している。坂田教授は、「全体の状況をみる教員と、ピラミッドのそばにいて、危険が生じたときに支えたり安全確認ができたりする教員が必要」と提言。そして、これらの裁判事例から「児童・生徒の安全を守るための事前の準備ができていたか、競技に内在する危険に対応できるだけの体制が組めていたかどうかが非常に大事になってくる」とポイントをまとめた。
坂田教授の提案を受けた各委員の意見については、後編でご紹介する。