京都の風景に欠かせないものの一つに、鴨川をはじめとする川がある。今回は、鴨川、高瀬川、白川という京都市街を流れる3つの川をたどりながら、京情緒あふれる街並みを散歩してみよう。川沿いの景色と風物を楽しんだ後は、先斗町の京町家を改装したレストランを訪れ、鴨川沿いで食事としゃれこんでみたい。

京都の風景に"川"は欠かせない

市役所前から木屋町通へ、高瀬舟の往時を思う

今回の京都散歩は、京都市営地下鉄東西線の「京都市役所前」駅から出発しよう。駅を出ると目に入る京都市役所は、昭和2(1927)年に完工。かなり歴史を感じる建物だ。

市役所前から京都の目抜き通りである御池通を東へ少し行くと、鴨川に架かる御池大橋が見えてくる。京都で川といえばまず鴨川が思い浮かぶが、鴨川に沿うようにしてもう一本、高瀬川という小さな川が流れているのをご存じだろうか。

高瀬川は、江戸時代のはじめに豪商・角倉了以(すみのくらりょうい)が起工した全長10km余りの運河である。京都の二条から南流し、伏見で宇治川(下流で淀川となる)に合流する。この運河によって、京都は商業の中心都市である大阪と結びつき、大いに繁栄したのだ。

さて、先ほどの御池大橋の手前から、木屋町通という細道を北に向かおう。この道に沿って流れる細い流れが高瀬川だ。木屋町通を200mほど行くと、日本銀行京都支店の裏手あたりに、小型の船が1艘(そう)浮かんでいる。ここは、「高瀬川一之船入(たかせがわいちのふないり)」跡。大正時代に高瀬川の水運が途絶えるまで、高瀬舟に積まれた荷物のあげおろしを行った場所だ。浮かぶ船は、往時の高瀬舟を再現したものである。

「高瀬川一之船入(たかせがわいちのふないり)」跡に再現された高瀬舟

森鴎外の小説『高瀬舟』は、「高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。」という書き出しではじまる。盛時には百数十艘が高瀬川を行き来し、大阪などからの物資を京都に運び入れたという。

荷を積んだ高瀬舟が、曳き手たちの「ほーい、ほーい」という掛け声とともに、京都を目指して流れをさかのぼった様子が目に浮かぶようだ。

先斗町で極上和牛ステーキに舌鼓

高瀬舟を見たら、一度木屋町通を引き返して御池通との交差点まで戻り、さらに南へと歩いて行こう。三条通に突き当たれば、もう一筋東側、鴨川沿いの道を歩くことにする。この鴨川と木屋町通に挟まれた細い道が、「先斗町(ぽんとちょう)」だ。ポルトガル語で「先」を意味する「ポント」が名前の由来ともいわれている。三条から四条までの道沿いに飲食店やバーが軒を連ねる、京都有数の繁華街である。

町家を改装した飲食店やバーが軒を連ねる先斗町

木屋町通へ抜けられない路地の入り口には、「× 通り抜けできまへん」の看板が掲げられている

先斗町の路地は、隣の木屋町通へ通り抜けできる路地と通り抜けできない路地が混在している。そのため、おもしろいことに、

通り抜けできる路地の入り口には
「→ 通り抜けできます」

通り抜けできない路地の入り口には
「× 通り抜けできまへん」

という看板が路地ごとに掲げられているのだ。この看板がないと、地元の人でも行き止まりの路地に迷い込んでしまうのかもしれない。

さて、今回目指すのは、先斗町の四条に近い場所に位置するレストラン「先斗町 ことし」だ。同店の店舗は築100余年の京町家だが、当初はフレンチレストランとしてオープンしたこともあり、内装はシックかつモダンにリノベーションされている。

シックかつモダンな「先斗町 ことし」の店内

同店の提供メニューは、京都ポーク、京野菜、豆腐、湯葉など京都らしい素材と、和と洋の調理法を取り入れた創作料理を中心にそろえている。また、同店では、鴨川の河畔にしつらえられたテラス席「納涼床」で涼やかな風に吹かれながら料理を楽しむこともできる。2015年では、ディナーは5月1日から9月30日まで、ランチは5月と9月にのみ「納涼床」を開放した。

時期によっては「納涼床」での食事も楽しめる

「ことし」を訪れたらぜひ味わいたいのが、特選三梨(みつなし)牛の岩焼ステーキだ。三梨牛は、秋田県湯沢市で年間約250頭しか生産されていない黒毛和牛。その中でも、最上級A5ランクの肉を「角閃岩」のプレートでじっくり焼きながら仕上げる極上ステーキは、なんともいえない贅沢な味覚である。

この和牛ステーキ、ディナーだとやはり相応の値段になるが、ランチなら三梨牛、京都ポーク、地鶏、エビの「岩焼盛合せ」をメインとするコースで3,600円(税別)と、比較的手軽な値段で楽しめる。昼の先斗町に立ち寄った際は、ぜひ試していただきたい一品だ。

ランチの 「岩焼コース」のメインディッシュ・三梨牛、京都ポーク、地鶏、エビの「岩焼盛合せ」

●infomation
先斗町 ことし
京都市中京区先斗町通四条上ル4丁目松本町163
定休日: 不定休
営業時間: 昼: 11:30~15:00(LO14:00、土・日曜日および祝日は~15:30・LO14:30)、夜: 17:00~24:00(LO23:00)

白川沿い・祇園新橋の風情に思わずため息

「ことし」を後にしたら、先斗町を南へ進もう。四条通という大通りに突き当たるので、これを東に進み、鴨川に架かる四条大橋を渡る。やがて、正面には京都の人々に「祇園さん」として親しまれる八坂神社が見えてくるが、今回は八坂神社には立ち寄らず、「よーじや」の角から花見小路通を北に入っていこう。

花見小路通も、四条通を挟んだ南側は歴史ある建物が多いが、北側のこの辺りはごく普通の商店街とオフィス街といった雰囲気だ。しかし、四条通から200mほど進み、新橋通との交差点で左に目を向けると、思わずため息をつきたくなるような風景が目の前に広がる。

白川の流れに沿うように植えられた柳と桜。白川に架かる風情ある「巽橋」。そして、伎芸上達にご利益があるとされ、舞妓(まいこ)・芸妓(げいこ)の信仰を集める辰巳大明神の小さな社。これらが相まって、「これぞ京都! 」ともいうべき情緒を醸し出している。

白川に架かる「巽橋」

辰巳大明神は、伎芸上達にご利益があるとされている

この一画は「祇園新橋」といい、伝統的な祇園の紅殻格子(べんがらごうし)をあしらった家が数多く残る、「伝統的建造物群特別保存地区」にも指定された区域なのだ。また、日が落ちると家々や店先の提灯(ちょうちん)に明かりがともり、これもまた風情がある。祇園新橋を散歩するなら、夕暮れ時もおすすめだ。

提灯に明かりがともる夕暮れ時の「祗園新橋」

今回は、極上和牛ステーキに舌鼓を打ちつつ、高瀬川から先斗町、そして祇園周辺をめぐる散歩道を紹介した。「京都市役所」駅から出発し、半日もあれば3つの川と川沿いの街並みを十分に楽しめるルートだ。川の流れひとつにも特別な情緒を感じるのが、京都という街の魅力ではないだろうか。

※記事中の情報・価格は2015年9月時点のもの

著者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。