「薬を飲んでくれない!」これは猫医療で最も頻繁に遭遇するトラブルの1つです。猫は思慮深い動物なので得体の知れないものは飲み込みません。特に苦みや酸味は毒物や腐敗物などの有害物質を知らせる味であり、動物に不快で嫌な味を引き起こします。無理に飲ませると蟹のように泡をブクブク出してしまい二度と近寄らせてくれなくなることも。

今回は、猫に薬を飲ませるにはどうすればいいのか、基本から解説します。

投薬の基本

・狭いところで投薬を行う

猫はスペースがあると逃げようとしますので、2畳ぐらいの小部屋で投薬をすると良いです。また、少し高さがあるテーブル等に乗せて投薬を行うと飛び降りるときに一瞬躊躇するので逃げられにくくなります。猫は逃げようとすると人間よりも身体能力が高いので抑えられません。逃げる気を起こさせないような、隠れるスペースがない場所で行うのがコツです。

・2人で協力

1人で投薬するよりも断然楽になります。多くの薬は1日1回~2回なので、同居人や家族と時間を合わせて投薬しましょう。猫を抑えることを保定といいます。保定のコツは背中を抑えること。ありがちな失敗としては前足を抑えること。四肢を抑えると猫は必ず抵抗するので触らないようにしましょう。パンチを繰り出す猫の場合は上からタオルで包むよう肩を抑えると良いでしょう。

図1

図2

上を向かせる:最も大事なコツです。薬の剤形に関わらず猫が下を向いているとこぼれ落ちてしまいます。猫の頬骨を持ち(図1)、75度の角度で上を向かせましょう(図2)。猫の首は人の腕と同じぐらいの太さがありますので結構力強いです。

錠剤の悩み

・分割された薬だと断面が丸出しで猫が嫌がります!

図3

図4

できるだけ舌の付け根に錠剤を落とすことです。舌根に投薬することが出来れば味わう間もなく飲み込みことができます(図3)。そのためには顔を上に向ける事、口をしっかり開くことが大切です。口は下顎の犬歯の間に中指をかけると開けやすいです(図4)。

図5

それでも味わってしまう場合はカプセルに包むと良いでしょう。カプセルは薬局に売っていますし、動物病院に頼めば包んでくれるでしょう。出来るだけ小さいカプセルにいれましょう(図5)。また錠剤を飲ませた後はスポイトや注射器でお水を飲ませてあげましょう。

散剤の悩み

・そのまま口にいれるとクシャミや咳で吹き飛ばします!

散剤は水に溶いて飲ませましょう。そのまま飲ませると気道に入る危険があります。散剤のコツは少量の水で溶くことです。水の量が多いと猫が飲むのがしんどくなり嫌がります。水の量は散剤によりますが0.5~1mlを目安にして下さい。

また、ウェットフードに混ぜて食べてくれればいいですが、多くの猫には匂いでばれます。薬の部分だけ綺麗に食べ残されるでしょう。食事に混ぜるのであればおにぎりの具のように完全に薬を囲いましょう。

投薬用のピルポケットという製品があります。猫用でも少し大きいので、半分に割って使ってもいいです。猫はドライフード程の大きさであれば丸呑みしても大丈夫なのでピルポケットに包んだ散剤を錠剤のように投薬すると、苦みが伝わる前に飲み込んでくれる猫もいます。

溶かす液体をシロップにすると飲み込みが良くなる事も。猫は甘みを感じない、といわれますが実際猫にシロップを舐めさせると美味しいそうに舐めます。もちろん糖分のあげすぎは良くないので、投薬のアシストとして使いましょう。

液体の薬の悩み

・甘い薬なら飲めるけど…苦そうなのは無理

最近、液体状の動物薬の種類が増えてきています。猫が好む味や匂いになっているので、錠剤や散剤が困難な猫でも液体薬なら飲めること猫も多いです。しかし、人用の液体状薬にはかなり苦いものもあります。液体は味を隠すのが難しいので、錠剤か散剤に変えてもらいましょう。今後さらに猫用の飲みやすい液体の薬が増えるといいですね。

その他 コツ、代替法

(1)錠形を変える

ここまで何度か話に出ていますが、錠形を変えると投薬の問題が解消することがあります。どの錠形が猫にとって飲みやすいかは一概には言えず、様々な方法を順番に試していくことになります。私の感覚では 動物用液体薬>錠剤>散剤>人用液体薬 という順で飲みやすいかなと思っています。

(2)薬を変えてもらう

薬の中でも苦い薬、そうでもない薬があります。例えばメトロニダゾールという抗生物質は薬の中でも屈指の苦さです。非常に良い薬ですが飲めなければ猫にとって価値がありません。薬によっては替えが効かない薬もありますが、飲みやすい薬がないか、また動物薬の方が美味しく作られていますので、動物薬がないか聞いてみましょう。

抗生物質やステロイド系抗炎症薬には、一度注射を打てば数週間効果が持続するものもあります。長期間作用する薬であれば自宅で投薬するストレスから解放されます。しかし耐性菌や副作用の問題がありますので、かかりつけの獣医師の判断に従って下さい。

(3)投薬機を使う

棒の先端に薬を挟み、口の中に落とす動物用の投薬機(ピルガン等)があります。噛み付いてきて危険な猫の投薬を安全に行えます。上手く使えば口の奥に薬を置いてくることができます。操作にコツがいるのと、咬みちぎられる欠片を誤飲するリスクがあるのが欠点です。

まとめ

猫の投薬は奥が深いです。中には獣医師であっても、投薬不可能な猫もいます。猫と飼い主さんが怪我をすることもありますので、あまり抵抗する猫には無理に薬を飲ませることはやめましょう。薬は猫を治すためのもの、投薬ストレスで体調が悪化しては元も子もありません。

最初から誰もが上手くできるとは限りません。コツを掴んでお互いストレスを感じることなく短時間で投薬できるよう、色々と工夫してみましょう。

■著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。