コンピュータの進化が「2045年問題」を引き起こす?

人工知能の反乱といえば、映画「2001年宇宙の旅」の宇宙船ディスカバリー号の管理用コンピュータの「HAL9000」、ターミネーター・シリーズの人類を抹殺しようとする「スカイネット」などを思い浮かべる人が多いかと思うが、ともかく、「何をするかわからない人工知能」が誕生してしまうわけで、「人類は地球にとっていらないから抹殺しよう」という、人類以外の生物にとってのメリットを考えた判断を下してしまう可能性だって出てくるのである。

そもそも、なぜ2045年という年なのかというと、話はそんなに難しくはない。コンピュータの処理速度などが着実に進歩しているからで、このままでいくと、現在の「計算能力が高いだけ」のノイマン型コンピュータであったとしても、人間の脳をシミュレートできる可能性が出てくるからだ。

もちろん、集積回路の小型化・集積化、プロセスの微細化など、物理的な限界も唱えられている現状なので、コンピュータの処理速度が一定期間ごとに指数関数的に増大し続ける「ムーアの法則」が当てはまり続けるのかというと、もちろんそれはわからない。

当たり前だが、極端なことをいえば原子よりも小さい集積回路などは作れないので、物理的な限界は絶対にあるわけだが、2020年ぐらいまでは法則が当てはまり続けるだろうという意見である。さらに、量子コンピュータなど、現在の仕組みのコンピュータから格段に性能を飛躍できる従来とは異なるコンセプトのコンピュータの開発も進んでいるのはご存じの通り。実現は当分先と思われていた量子コンピュータであっても、すでにカナダのD-Wave Systems(画像3)が開発(本当の量子コンピュータかどうかの議論は未だ続いているが)し、NASAやGoogleに販売していることが知られており、まだまだコンピュータの進化は止まりそうもない。

画像4。D-Wave Systemsの量子コンピュータ(公式Webサイトより抜粋)

ともかく、ムーアの法則が今後も維持されると仮定すると、コンピュータの処理速度は、スーパーコンピュータの性能ランキングであるTOP500の2014年6月版の第1位が中国National University of Defense Technologyの「Tianhe-2(Milky Way-2/天河2号)」(画像5)で33.8627PFlopsとなっており、日本を含めた各国が目指している次世代のエクサ級が実現されるであろうと考えられている2023年ころのスパコンなら、「初期の脳シミュレーターを稼働できる」とするのが、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のヘンリー・マークラム博士だ。同博士は、EUの予算を得て、約130の大学などが参加して行われている「Human Brain Project(HBP:ヒト脳プロジェクト)」の責任者である(画像6)。

画像5(左):Tianhe-2(Milky Way-2/天河2号)。画像6(右):Human Brain Projectの公式Webサイト

しかし、理化学研究所(理研) 脳科学総合研究センターセンター長で、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏(画像7)によれば、脳でわかっていることはマウスなど実験動物を含めたほ乳類全体でもわずか数%で、ヒトに限ったら遙かに下がるとしているので、今後10年間でそんな簡単に脳をシミュレートできるのかどうかは微妙な気がするのだが、もしシミュレーションを完璧に行えるようになれば、HBPによって意識が芽生えてしまってもおかしくないというわけだ。

そんな世界の状況の中で、日本人には強い人工知能の誕生というと、絵空事のようなイメージが強く、研究者の中には取り合わない人もいる。が、欧米では真剣に論じられているわけで、この映画「トランセンデンス」(画像8)も、そんな強い人工知能の誕生が描かれる物語となっている。そして意識を持った人工知能は人類に対して、さらには地球に対して、どういう選択をするのか、というストーリーが展開していくのだ。

画像7(左):理研BSIのセンター長を務める利根川進博士。画像8(右):トランセンデンスのポスター