セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏がビジネスの最前線で活躍する人たちを招いて対談する「中野晴啓世界一周の旅」。ワールドインベスターズTVで動画を閲覧することができる。今回はビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授と対談した「中国経済編」の第2回。日本企業の株を買い進めているといわれる中国マネーに関する、"意外な見方"を紹介したい。

中国の巨大な外貨準備を活用し、日本株式に投資

中野 : 皆さん、こんにちは。中野晴啓世界一周の旅。今日は中国シリーズの2回目です。ゲストは、ビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授です。2回目もよろしくお願いします。

田代 : よろしくお願いします。

ビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授

中野 : 前回は、中国経済の実態について語っていただきましたけれど、今日は中国という巨大な経済が生み出すマネー、その力、あるいはそれが世界にどういう影響を与えるかなどについて、聞きたいと思います。ここに『週刊現代』という僕も大好きな週刊誌があります、笑。田代さんの特集が出ていまして、中国に買われていた日本企業、驚きの50社その実名という特集をしています。この記事について少しお話を伺いたいと思うのですが、これはどういう話ですか。

田代 : 簡単に言うと、数年前から日本の大企業、上場企業の大株主トップ10の中に、SSBT OD05何とかかんとかという、口座名がずらっと出てくるわけです。これは正体不明だった。オーストラリアのシドニーに住所があるのですが、総額でいえば現在3兆円を超える日本企業の株式を保有している。

中野 : 3兆円!

田代 : 時価総額でね。

中野 : その実体は何ですか?

田代 : 実体はもともとこれは中国の金だろうと言われていたのですが、今回とうとう今年1月7日に中国側の報道で、実はこれは中国投資有限責任公司、チャイナインベストメントコーポレーション(CIC)、すなわち、中国の巨大な外貨準備を有効活用し戦略投資するための機関が行っているということを中国側メディアが一斉に認めたのです。

中野 : ソブリン・ウェルスですね。

田代 : 現在45兆円ぐらいの規模で、名義を変えて日本企業の株式に投資しています。

中国に買われていた日本企業について、話が進められた

一番買われているのは「全日空」、「オリエンタルランド」「パナソニック」続く

中野 : かなり分散して多くの銘柄にお金が投資されているわけですね。ここに特集されているのは上位50社ですが、僕もびっくりしたのですが、「全日空」という日本の航空会社がぶっちぎりで買い進められている。

田代 : 最新の状況でいうと、去年の9末時点で173の日本企業の株式を合計時価総額で3兆406億円保有しているわけです。その中で去年の3月から9月に尖閣事件を挟んで、保有株式数が増えた順に並べてみると、一番買われているのは「全日空」です。何と株式保有数が50%以上増えています。2番目が東京ディズニーランドを経営している「オリエンタルランド」、3番目が「パナソニック」。

中野 : これは意外ですね。

田代 : ソニー、シャープの株式は持っているのですが、この保有株式数は減らしています。パナソニックの株式は34.55%、6カ月で増やしていますね。

中野 : 日本人の機関投資家が売りまくっていた株を。

田代 : 実は買っていた。ここから見ないとたとえばパナソニックの株価の動きもわからなくなってくる。もっと驚くべきは、これは見えているだけで、多分上位10傑に入っていない水準もあるだろうし、あと名義を変えている場合も考えられる。

中野 : 当然やりますね。

田代 : 3兆円どころではなくて、もっと大きい金額を中国は日本の株式市場に入れている。

田代氏は、3兆円どころではなくて、もっと大きい金額を中国は日本の株式市場に入れていると指摘した

中野 : 5%ルールに抵触しないようにうまくコントロールしているわけですね。

田代 : と思います、当然。外国からの投資の場合は通常のことですが、中国の場合は長期投資です。短期でこれを転売している痕跡はない。

中野 : 持ちっぱなし。

田代 : 今回次第に長く持つ株とそうでない銘柄が分かれてきた。この50社は尖閣事件を挟んでもなお急速に買い進んだ会社が並んでいるわけです。理由などは書いていますが、重要なのは既に日本の金融市場においてもチャイナマネーは実際に働いている。現在、J-REITの価格が上昇しているのも、相当に中国からのお金が入っていると言われている。

中野 : CICといわれるファンド自体が実際どこから生まれてきているお金ですか。

田代 : 中国の外貨準備から2000億ドルを拠出してつくった機関です。

中野 : そのうちの日本株に投資している比率はどれぐらいとイメージすればいいですか。

田代 : 恐らく全体のうちの半分から3分の1が株式投資に向かっていると考えられます。

日本企業の持っている技術、ノウハウ、ブランド、国際的販路などに関心

中野 : 日本に対してものすごいエクスポージャーをとっているということですね。なぜですか。

田代 : それは日本企業の株価ではなくて、日本企業の持っている技術、ノウハウ、ブランド、国際的販路、グローバルビジネスを経営する能力、そのすべてに対して彼らは関心を持っている。

中野 : いってみれば大株主ではないですから、経済的リターンを得るだけの投資に見えますけれども。

田代 : それだと理解できない会社も入っている、パナソニックのように。そういう点からもここを集中して取り上げたのですが、ぜひご関心のある人はネット上で後からでも購読できますので、どうぞご覧になってみてください。

中野 : これが示すものは、中国がこれから日本に対してお金の力で何をしてくるかと考えたらいいですか。

田代 : 中国の発展にとって重要なものを持っている企業に対して、その株式を買ってくるわけです。社債ではなくて。

中国の投資の意味について、話が盛り上がった

中野 : それはいわゆるM&A的にがぶっと飲み込まれてしまうような買い方なのか、それともそうじゃないのか。

田代 : M&Aをやって意味があるのは、中国企業が十分に成長してからです。現状では日本企業でなければ困るわけです。その点からすれば、次第に経営に参加する。そのうちHaier(ハイアール)が三洋の白物家電部分、あるいはLenovo(レノボ)がNECのパソコン部門を買収したように、日本側が持っていても仕方ないという部分を、手放す部分を受け取っていく形に入っていくはずです。

チャイナマネーを活用、日本経済の次のステージというものをつくっていく

中野 : 考え方によっては、日本の株式市場はチャイナマネーで下支えされていって成長していくのではないですか。

田代 : そのように日本側も努力すべきですね。

中野氏は、考え方によっては、日本の株式市場はチャイナマネーで下支えされていって成長していくのではないか、と述べた

中野 : 逆に、呼び込んでもいいんだと。僕らにとって意外な話ですね。買われてしまうことがとても嫌なことのようにとらえられてしまうのですが。

田代 : "長期安定株主"として考えて、逆に我々は中国政府によってこれだけ株式を買ってもらえる企業なんですからと言って中国企業に対して切り込んでいく。

中野 : これは目からウロコでしたね。中国のお金はワルみたいなイメージがありますが、チャイナマネーを活用して我々自身の経済の次のステージというものをつくっていくことが日本人に逆に求められている。そういう観点から日本株を見ていきましょう。あるいは日本株だけではなく、世界の株式市場に中国のチャイナマネーが動いていますから、そういうものを抜きにしてはグローバル投資は語れないですね。本当に勉強になりました。3回目はもっとびっくりするような話が期待できると思います。またよろしくお願いします。ありがとうございました。