今夏の電力需要を抑えるため、企業に節電が求められる中、その対応策として、"クールビズ"をさらに発展させた"節電ビズ"が実施されている。ポロシャツ・チノパン、さらにサンダルまでOKという企業もあるが、特に会社の指示がない場合は、"節電ビズ"はどこまで許されるのか? 『知って得する モテる男のマナー講座』の著者、宗像智子氏に聞いた。
宗像氏は神戸の出身で、研修コンサルティングの会社を経て、コンサルタントとして独立、2010年2月に株式会社「MOMO Style」を立ち上げた。企業や病院のマナー研修やコールセンターのコンサルティング、営業研修、顧客満足度を上げるための研修など、多岐にわたる研修・コンサルティングを行っている。2010年4月には、ポッドキャストの人気番組を文庫化した初の著書『知って得する モテる男のマナー講座』を出版。マナー研修の第一線で活躍している。
「顧客と会う部署」と「会わない部署」で違い
"節電ビズ"を各企業が実施する上で、Tシャツ・ジーパンはだめでも、ポロシャツ・チノパンはOKという会社も増えている。ここで重要になるのは、「顧客に会う部署」か「会わない部署」かということだ。例えば、宗像氏も研修に行くコールセンターでは、一切顧客と会わない。そういう場合は、コールセンターによってはポロシャツもOKという場合もある。また、女性の制服廃止という流れもあり、顧客に会わない場合は、そうした流れに沿った服装になる。
「信頼関係ができている人と会う場合」と「初めて会う場合」との違い
さらに言えるのは、「初めて会う人」や「目上の人」と会う場合と、付き合いも長くてお互い「どうもどうも」、というような仲の人と会う場合との違いだ。後者の場合は、ネクタイやジャケットは必要ないかもしれないが、初めて会う前者の場合であれば、「その時だけでも、ネクタイにジャケットを着てもいいのではないでしょうか」(宗像氏)。
「ビルに入る前までは、ジャケットを脱いでいてもいいのです。10分前に着いて、ちょっと汗をひかせて上着を着るとか、ネクタイを結ぶとかすれば、相手に好ましい姿勢を示すことができます」(同)。そこで相手から「上着を脱いでください」と言われれば、「失礼します」と言って脱げばいいのだ。
「この服装でいいのか?」と「?」が浮かんだらやめる
宗像氏によれば、マナーとは、「思いやり」を体で表現するもの。例えば、電車の中が暑くて窓を開けたい場合、いきなり、周りに何の言葉もかけず、「ガッ」と開けてしまうのは、配慮が足りない。「開けてもいいですか」と一声かけるだけで、随分違ってくるものだ。日本人はとかく、「黙っていても分かってくれるだろう」と考えがちだが、宗像氏は「思いやりは言葉にしたり、態度で表さないと相手に伝わらない」と考える。
そういう意味では、マナーに関し、「ルール」や「決め事」であるという考えもあるが、「気遣い」こそマナーの原点だ。宗像氏は、社内や取引先での服装に「これでいいのかな?」と「?」マークが付いたら、その服装はやめたほうがいいとアドバイスする。「自分が相手の立場だったら、どう感じるかな」ということを基準に、「やめたほうがいいかも」と頭に浮かんだら、その服装はやめたほうがいいという。
ロッカーにスーツを置いておく
社内でポロシャツ、チノパンなどが認められていて、なおかつ頻繁ではないが、顧客に会うといった場合、対処法がある。ロッカーにスーツを置いておけばいいのだ。例えば、コールセンターの所長さんなどは、普段はカジュアルな服装で仕事をしていても、顧客からクレームがあったら、飛んで行かなければならない。そのために常時スーツをロッカーに置いておいて、そうした場合に対処するのだ。
汗かきの人の"暑い夏"の対処術
夏の暑い盛り、汗かきの人も、服装には苦労する。上着のシャツなどが体にベッタリと張り付いてしまい、周りの人があまり近づきたくならないような状態になることもあるだろう。そんな場合の対処法としては、まず上着の下に下着を必ず着用するといった方法のほか、会社に着いてから着るための予備の服を用意しておくことといい。予備の服としては、上着だけでなく下着も用意しておくと、さらに気持ちよく仕事ができる。
また、ハンカチも、自分が使うためのものと、顧客の前で使うものを分けて用意しておくといいだろう。例えば、実際に汗をふくためには使いやすいタオルハンカチを用意し、顧客の前では、ちゃんとアイロンのかかったハンカチを使うといった具合だ。宗像氏によれば、「トップセールスマンはハンカチを必ず使い分けている」という。少し耳の痛い話だが、それが現実というものだろう。
満員電車に乗るときの"意外な対処法"とは?
では、節電で車内の空調が「弱冷房」などであることにより、以前の夏よりも一層暑さが増すことが予想される満員電車の車内では、どう対処すればよいのだろうか? 満員電車というからには、ハンカチを取り出して汗をふきふきすることも、うちわをパタパタ動かす事もできない。とにかく、誰にも動いてほしくない空間なのだ。
そうした場合の、"意外な対処法"がある。「体をまずひんやりさせてから、乗るといいでしょう」(宗像氏)。つまり、汗ダラダラで駆け込んで満員電車に乗るのではなく、電車を1本待つくらいの余裕をもって、駅のホームに来る過程で出た汗をウェットティッシュでふくなどすればいい。宗像氏によれば、「できる男は走らない」「エレガントな女性も走らない」。駆け込み乗車をするのは、節電下の電車通勤にとって、ご法度といえそうだ。
気配りを示す「一言」があるかないかで大きな差
マナーの話なので、少し堅い感じにもなったが、「マナーは思いやりを体で表現するもの」という原点を意識すれば、そんなに難しく考える必要もないのかもしれない。満員電車で窓を開ける際に、「周りへの一言」が大切であると述べたが、これは"節電ビズ"を実施する上で、かなり有効な対処法なのだ。
取引先がバシッとスーツできめてきた場合、こちらがノーネクタイ、ノージャケットなら、一言、「自分は今クールビズを実践中でして、申し訳ございません」と言えば、相手は理解してくれるだろう。
マナーの本などでは、「タクシーは奥の席が上座」「食事の席も奥が上座」と書かれているが、この場合も、お客さまがたまたま足を怪我されていたり、女性がミニスカートをはいていて、奥の席をオススメするのが難しい場合などは、「お先に失礼します」と一言述べて自分が奥に座り、相手が乗り降りしやすい位置に座ることを促すこともある。その一言があることで、「この人はマナーを理解しつつ、あえて私に配慮してくれたのだ」と思ってくれる。
また、食事の席で手前側の席のほうが夜景が見えていい場合なども、「よろしければこちらからの夜景がきれいですので、こちらにお座りください」と言えば、さきほどのタクシーの場合と同様、「マナーを分かった上で、こちらを尊重してくれているのだ」ということが相手に伝わるのだ。
そう考えると、"節電ビズ"を実施する上では、「取引先や社内の同僚がどう考えるか」を常に意識しつつ、思いやりをもって対応していくことが重要になるのだろう。