話を戻すと、やはりNFCを使って、車両の情報を携帯電話に表示する事も可能だし(Photo08,09)、逆にたとえばレンタカーの貸し出し時とか自宅を出発前とかに、鍵の中にPCなどからNFC経由で目的地情報を格納しておき、車に乗ったらKEyLink経由でその情報をカーナビにロードすることで、直ちに目的地の検索が可能、なんていう可能性も示された。

Photo08,09:これはアプリケーション例。燃料残量とか走行距離、ドアロックの状態、現在から可能な行動距離、これまでの運転時間とか平均速度/燃費などがまとめて表示されている。ほかにもタイヤの空気圧とかバッテリー電圧/オイル残量など、これまでだとカーディーラーなどで専用ツールでまとめてダウンロードしていた様な各種メンテナンス情報を携帯電話で表示させることも可能としている

KEyLink自体はそんなわけで、単にNFCでの通信が可能という以上のものではないが、省電力性や今後増えてくるNFC搭載機器(主に携帯電話)との親和性が高い点を売りにしており、これを本格的に普及させてゆきたい事を明らかにした(Photo10)。

Photo10:ただ、こうしたことをするとなると、NFCのStackも必要になるから、従来の8bit MCUではメモリ量と性能の両面でちょっと足りなくなる。確認したところ、NCF2970は16bit MCUを搭載しており、Flash Memoryも32KBほどだとか。初期のキーレスエントリ用MCUがおおむね8bitでFlash 1KBほどだったことを考えると、ずいぶん複雑になってきたものである

ちなみに会場では実際に動作デモも行われた(Photo11~13)ほか、UHFベースの双方向キーレスエントリなども展示されていた(Photo14,15)。

Photo11:奥の大きなものは車載側のNFCトランスポンダで、左上のものはNFCリーダ。手前一番左が、車のキーレスエントリのガワの中に今回のKEyLinkのエントリを組み込んだサンプルその右2つがNFCリーダーを搭載した携帯電話で、一番右にあるのがスケルトンケースに組み込んだKEyLinkのエントリである

Photo12:NFCの動作サンプル。NFCのアンテナは、本来はPCBに組み込む形だが、今回は銅線をコイル状に巻いたものを使っている。中央右の38pinのパッケージがNCF2970、その左にあるのはイモビライザと通信するためのUHFのRFだそうである

Photo13:携帯の背面にあるNFCアンテナにキーレスエントリ(右側)を近づけると、携帯がNFC経由で情報を読み取ってそれを表示するというデモ

双方向は何をするのか? という一例として示されたのはイモビライザとの連動で、たとえば異常を検知すると通常車載のアラームが大音量で鳴り響くわけだが、これにあわせてキーの側でブザーを鳴らすといった機能を持っている。イモビライザの進化の一例というわけだ。

Photo14:通常キーレスエントリは(KEyLinkの話は別にすると)キー→自動車の一方向の通信であるが、これは双方向通信が可能になっている

Photo15:こちらがその双方向通信キーレスエントリの動作サンプル。おおむねNCF2970と同じサイズのパッケージ

そんなわけでキーレスエントリにやけに熱の入った製品展開が行われているわけだが、これは単にNFCを普及させるという以上に、NXPのオートモーティブ部門の重要なコンポーネントでもあるからだ。NXPは現在オートモーティブ向け半導体メーカーとしては世界で5番目のポジションに居るが、同社の主戦場は当然ヨーロッパ/アメリカであり、日本におけるプレセンスはそれほど高くない。といっても、今回のキーレスエントリとかカーラジオ、及び磁気抵抗センサなどでは業界No.1~No.3のポジションを確保してはいる。

日本のマーケットに限った場合、2009年度は業界9位だったのが、こうしたキーレスエントリやカーラジオなどの提供で2010年には業界5位まで浮かんできている。メインとなるECUなどに食い込めない状態での5位はかなり健闘しているとも言えるが、逆にこの先、更にシェアをあげてゆこうとすると、ルネサス エレクトロニクスなどと真っ向勝負するか、もしくはルネサスなどが及んでいない部分での売り上げを更に伸ばしてゆくかのどちらかになる。

主戦場がヨーロッパ/アメリカなどである以上、国内マーケット向けにルネサスと競合する製品を投入してゆくための開発リソースを新たに割くのは(特に国内の自動車のマーケットが縮小傾向の昨今では)難しく、であれば競合しない部分の売り上げを伸ばしてゆくのがメインということになる。今回の製品はこうした趣旨に沿ったものであり、キーレスエントリ関連で他社の追従を許さないような製品ポートフォリオを構築して、国内自動車メーカー向けのシェアを伸ばそうというのが戦略の1つでもある。そうした観点で見ると、NFC+キーレスエントリというのはNXPにとって短期的に重要な戦略製品であるというのが理解いただけるかと思う(長期的にはC2Xに代表される次世代ITS関連が大きな比重を占めるかと思うが、こちらに関しては津田氏のレポートを参照されたい)。