6月10日、蘭NXP Semiconductorsは、車載向けのキーレスエントリ向けにNFCを利用した新しい「KEyLink」という技術と、これを搭載したNCF2970(KEyLink Lite)の量産開始を発表した。同日NXPセミコンダクターズジャパンは同社にてオートモーティブ事業部の技術説明会を開催しており、この説明会の中でもKEyLinkの解説が行われたので、これをご紹介したい(Photo01)。

Photo01:KEyLinkの説明を行ったNXPセミコンダクターズジャパン オートモーティブ事業部 マーケティング部 部長の林則彦氏

まず最初に説明されたのが、キーレスエントリに至る流れである。自動車のキーはまずメカニカルキーが登場し、ついでイモビライザが登場する。これはセキュリティを高めるという方向の進化であるが、これに加えて赤外線やUHFを使ったリモートキーレスエントリが登場、更にキーを操作しなくても開錠とかエンジン始動が可能なパッシブエントリーに進み、更にハイエンドはディスプレイキーとかが登場しているが、今回登場するKEyLinkはその先のものとなる(Photo02)。

Photo02:多機能化があまり進まないのは、1つにはキーの電池寿命に2年~5年が求められる(2年、というのは車検のたびにボタン電池をディーラーで交換する、ということから来ているようだ)ためで、これを満たすためにはあまり多くの機能を搭載するわけには行かないという事情もある

現在の安全性を維持しつつ、よりコネクティビティを高めたキー、というのが所謂Future Keyの方向性となるのだが(Photo03)、たとえばUSBに代表されるメカニカルコンタクト系はむしろ利便性を損ねるし、Bluetoothは電池寿命の観点で要求を満たせないとしている(Photo04)。そこでKEyLinkでは、既存のキーレスエントリにNFCを組み合わせる、という形でのアプローチをとった(Photo05)。

Photo03:キーの多機能化、は間違いなく求められる方向性の1つ。同社は2011年2月にMWC(Mobile Wireless Congress)で、携帯電話でエンジンが掛けられるコンセプトカーを出展したが、あれはあくまでも技術コンセプトの話で、長期供給保障とか、どんな携帯電話でも対応できるのか、などの問題を考えると現実問題としてキーはなくならないとしている、あれはあくまでも技術コンセプトの話で、長期供給保障とか、どんな携帯電話でも対応できるのか、などの問題を考えると現実問題としてキーはなくならないとしている

Photo04:Bluetoothは実際に自動車メーカーから要求があったとの事。ただしボタン電池1個で2年の電池寿命は「とてもではないが実現できない」(林氏)とのことだった

Photo05:NFCの場合、相手側から電力も一緒に供給してもらえるので、通信に必要となる電力は0である。なので、既存のキーレスエントリに組み込んでも電池寿命に影響は無いとか

もっともKEyLinkは、あくまで既存のキーレスエントリに追加される形であり、イモビライザとの通信は既存のUHF帯の通信で行われる。これを確実にするため、コントローラは内部をファイアウォールで2つに分け、NFCの通信とイモビライザとの通信を分離して管理しているという。ではKEyLinkで何が可能になるか、という一例がこちらである(Photo06)。

Photo06:日本でも郊外型ショッピングモールではそろそろ駐車場が巨大になってきて、こうした機能が必要になりそうな感じである。かつてLasVegasのMGM Grandの駐車場で1時間以上自分のレンタカーを探した経験のある筆者には、実に便利な機能に思える

これは何か? というと、車のエンジンを切ってキーを抜くタイミングで、車側のコントローラがその時点での位置情報をKEyLink経由でキー側に移しておくというものだ(Photo07)。

Photo07:どうでもいいが、流石にiPAQ+GPSレシーバーはないだろうと思う。iPAQで使えるNFC I/Fも無いと思うし。今回唯一突込みを入れたかった点である

もちろん駐車場が小さいとか自分の車の場所をパーフェクトに覚えているのなら問題は無いが、もし迷った場合はNFC経由で携帯電話その他を使い、車の駐車位置情報を確認できるという仕組みである。

これについてはちょっと補足が必要だろう。NXPはNFCの普及にかなり積極的であり、単にさまざまな関連製品をリリースするだけでなく、NFC ForumのBoardやSponsor Memberも勤めており、2011年2月にはAndroid 2.2.3向けにソフトウェアスタックを提供した事を発表するなどの活動も行っている。言ってみればNXPは全社的にNFCにコミットしており、今回の製品もそうした一環と捉えることも出来る。