生成AIの誕生でソフトウェア開発のアプローチは大きく変化し、開発組織の在り方にも大きな変化が求められるようになっている。ITエンジニア向け情報サービスを提供するファインディは、開発組織を可視化する経営支援サービス「Findy Team+」において、AI時代に対応した開発組織を評価する新機軸「開発資本」を提唱、策定プロジェクトを立ち上げたことを5月19日に発表した。同社が提案する「開発資本」とはどのようなものかレポートする。

  • AI時代の「開発資本」AI時代の開発組織を、企業価値を支える経営資産へ

    AI時代の「開発資本」AI時代の開発組織を、企業価値を支える経営資産へ

AIをフル活用する新しい開発スタイルに対応する組織を評価するには、新しい評価基準が必要となる、それが「開発資本」

生成AIや大規模言語モデル(LLM)をソフトウェア開発の全工程で活用し、生産性を向上させるAI駆動開発という新しい開発スタイルにより、ソフトウェアの開発はより高速になり、企業はより効果的にAIを活用するための方法を模索している。ITエンジニア情報プラットフォームを提供するファインディは、経営者向けに開発組織を分析し、「AI利用レポート」「AI効果レポート」や「DevOps分析」「サイクルタイム分析」などのツールで可視化するサービス「Findy Team+」を提供してきた。

人材の確保や売上向上、顧客満足度に至るまで大きな影響を与えるものとして、経営者の観点から開発組織を従来の生産性指標とは別の"企業の競争力を支える経営資産"として捉える同社。今回、新たにソフトウェア開発力を経営資産と捉える「開発資本」という概念を提唱し、その概要を説明する記者発表会を開催した。ファインディ 執行役員Findy Team+事業·Findy Insights事業担当 西澤 恭介氏が「開発資本」の概念についての背景と内容の解説する。

  • ファインディ 執行役員Findy Team+事業·Findy Insights事業担当 西澤 恭介氏

    ファインディ 執行役員Findy Team+事業·Findy Insights事業担当 西澤 恭介氏

同社では、今回の発表に合わせて「Findy Team+」のタグラインを、「経営と開発現場をつなぐAI戦略支援SaaS」から「経営と開発現場をつなぐAI時代の開発資本プラットフォーム」へと変更し、今後同サービスの新しい指標として活用していくことを明言するなど、プロジェクトに力を入れている。「開発資本」とはどのようなものか見てみよう。

開発組織をソフトウェアを通じて価値を生み続けるための資本を捉える「開発資本」

西澤氏は、現在の開発プロセスは主に、「調査」「要件整理」「設計」「実装」「レビュー」「テスト」「リリース」「運用」といった流れとなるが、その全領域においてAIは活用されているのが現状であるにもかかわらず、その成果物は組織の状態によって大きな差が出てくる。コスト面に関しても、従来のツール導入費やライセンス費などの使い放題から、AIを活用したトークン量という従量制に変化していると言及、経営課題も「何を導入したか」ではなく、「何にどれだけ使い」「何が増減したか」に移るようになると予測を述べた。

  • AIは開発プロセス全体に広がっている(資料より)

    AIは開発プロセス全体に広がっている(資料より)

西澤氏は、このような状況において開発組織の力を測る基準も変更する必要があることを強調する。同氏は、新たな基準としてAIがもたらす成果をより引き出しやすい組織、つまり「AI活用のための権限や監査、知識の共有ができているかどうか」を評価する指標が必要であることを強調している。また、AIに関しては投資の効果も現状の枠組みでは効果を測りにくいと語る。

  • AI投資は効果を測りにくい(資料より)

    AI投資は効果を測りにくい(資料より)

AIを導入することで作業効率が上がり余力が生まれるが、その余力分は事業成果や品質改善へ使われることになる。これは新規事業や新規顧客の獲得、新サービスの開発などのように直接的な投資でないためわかりづらい。AIの投資効果は、もたらされた相乗的な効果やリスクの加減、新価値創造の内容などから経営的視点で判断しなければ、正確な所は見えない。そこで同氏が主張するのが、開発組織をソフトウェアを通じて価値を生み続けるための資本とみなし、その組織に蓄積された能力・知識・基盤を「開発資本」と定義し、それを新たなAI投資の評価基準としていく考えだ。

  • 開発組織を「開発資本」として捉える(資料より)

    開発組織を「開発資本」として捉える(資料より)

西澤氏は、「人的資本が人材の能力・経験の部分を扱い、知的資本が知識やノウハウを扱うのと同じように「開発資本」はソフトウェア開発を通じて価値を生み出す力のことを指す用語になれば」と思いを語った。同氏は「開発資本」を経営の観点から可視化していく意義についても触れ、特に開発投資の判断精度を高めること、品質·統制リスクを早期に把握すること、AI活用を組織能力として拡張すること、事業変化への対応力を高めることの4つが重要な指標となると説明する。

  • 開発資本を可視化する経営上の意義(資料より)

    開発資本を可視化する経営上の意義(資料より)

4つの重要指標

一つ目の開発投資の判断精度を高めるとは、経営サイドと開発サイドが同じ視点で「開発資本」の状態を把握して不足や偏り、負債を整理し投資領域と優先順位を判断していくことだ。開発投資というものは継続的に行っていく必要があるが、よく言われる短期的な売上に貢献しない変更のしやすさを高める投資や、AIを組織で活用するための基盤整備費、品質やリスク低減のための投資は、低く評価されがちだ。それぞれの内容を正確に把握して適切な優先順位をつけていく必要があるのだ。

  • 開発投資の判断精度を高める(報道資料より)

    開発投資の判断精度を高める(報道資料より)

2つ目が品質·統制リスクを早期に把握しやすくなることだ。AI時代は、早期開発、早期リリースが当然となるので、品質面でのリスクの発生や、権限・承認・監査などの統制部分で問題の多発が予想される。顕在化しやすいこれらのリスクを、開発資本の偏りや不足から早期に把握することが可能になる。

  • 品質·統制リスクを早期に把握する(報道資料より)

    品質·統制リスクを早期に把握する(報道資料より)

3つ目がAI活用を個人の工夫という属人レベルから、組織として情報の共有、組織での情報活用など、組織としてAIの成果を再現できる組織能力として拡張するための基盤の理解だ。

4つ目が事業変化への対応力を高める効果が期待できることだ。「開発資本」への理解が、企業のケイパビリティ(Capability:組織として発揮される強み)向上へと繋がり、顧客価値提供、事業仮説検証、新規事業、成長機会への対応といった事業アウトカム(Outcome:成果)となっていくというものだ。次は、その「開発資本」を理解するための3つの軸となる「Speed」「Quality」「Control」を見ていこう。

  • 事業変化への対応力を高める(資料より)

    事業変化への対応力を高める(資料より)

AI時代の「開発資本」を支える3つの観測軸「Speed」×「Quality」×「Control」

西澤氏は、AI時代の「開発資本」の観測軸として、「Speed」×「Quality」×「Control」を唱える。それぞれ「Speed」は速く作り、リリースし、学びを得るか、「Quality」はコンスタントに価値を届けられるか、「Control」は変更や変化を予測し制御できるかを示している。

  • 開発資本を3つの軸で観測する(資料より)

    開発資本を3つの軸で観測する(資料より)

生産性を評価する指標には、GoogleのDORA(DevOps Research and Assessment)が提唱するDevOpsの成功を測る4つの指標「Four Keys」が使われている。それは、デプロイの頻度の多さ、変更リードタイムの所要時間の短さ、変更障害率の低さ、サービス復元時間の短さで示され、ソフトウェア開発チームのパフォーマンスを示すものだ。

  • エリート DevOps チームであることを Four Keys プロジェクトで確認する<a href="https://cloud.google.com/blog/ja/products/gcp/using-the-four-keys-to-measure-your-devops-performance" target="_blank">(公式Webサイト)</a>

    エリート DevOps チームであることを Four Keys プロジェクトで確認する(公式Webサイト)

それに対して、「開発資本」は「Four Keys」の領域を「Speed」と「Quality」で計測し、AI時代に特に重要な領域となるAI生成物の品質や権限・監査、判断の再現性とコンテキスト整備などを「Control」として追加観測する。では、具体的に「開発資本」の「Speed」「Quality」「Control」の計測ポイントを見ていきたい。

  • AI時代は統制・文脈・協働の観測が重要になる(資料より)

    AI時代は統制・文脈・協働の観測が重要になる(資料より)

「開発資本」における「Speed」は、単なる実行速度でなく、変更と学習のサイクルの速さを見ていく指標だ。これは、実装だけでなく、レビューやCI(Continuous Integration:継続的インテグレーション)も含めて変更を形にするまでの速さである「作る速さ」、変更を大きく溜めずに、小さく区切って素早く届けられているかを表す「出す速さ」、出した変更の結果を観測し、次の判断につなげるまでの速さを表す「学ぶ速さ」で測定を行う。これらを分析することで、どこで作業が詰まっているかを知ることができる。

  • Speedは価値提供までの流れを捉える(資料より)

    Speedは価値提供までの流れを捉える(資料より)

「Quality」は、作り直しや差し戻しがなく、開発を推進できる状態を測定するもので、進めた変更が無駄になりにくい「手戻り(rework)」の少なさや、リリース後に障害や緊急修正がなく、安定して届けられているかを見る「本番品質」、現在の改善が将来の変更を困難にする負債となっていないかを評価する「継続的な保守性」を測定する。これを分析することで、最も多い手戻りが、どこで発生しているかを突き止めることができる。

  • Qualityは速く変え続けるための品質を捉える(資料より)

    Qualityは速く変え続けるための品質を捉える(資料より)

3つ目の「Control」は特に重要で、AIを活用した開発において速度を上げながら変更・検証・複雑さを制御できているかを判断する指標だ。変更の影響範囲を絞り、小さく独立した単位で扱えるかを見る「構造の制御」、検証·承認·ロールバックを制御できているかを見る「プロセスの制御」、依存関係や状態の組み合わせが増えすぎず、変更結果を読みやすいかを見る「複雑性の制御」など。西澤氏は、この部分について「業務を管理するという面より、人とAIが関わる開発を、安全かつ高い再現性でチームとして制御できているかを評価するもの」と強調している。

  • Controlは人とAIの開発を安全に進める力を捉える(資料より)

    Controlは人とAIの開発を安全に進める力を捉える(資料より)

「開発資本」プロジェクトの今後の展開

西澤氏は今後の予定について、「開発資本」の評価値を実務で使える形にしていくために協力企業と連携しながら、実データと運用実績をもとにして検証を進めていくことを言及。「開発資本」の検証プロジェクトに協力する企業は、KDDI、SmartHR、DMM.com、パーソルキャリアの4社。西澤氏は、それぞれ違う分野で活躍している企業の検証を行うことでより偏りのない指標としていきたいと抱負を述べた。

  • 今後の展開(資料より)

    今後の展開(資料より)

今後のスケジュールに関しては、「開発資本」スコアのアルファ版提供を6月末にリリース、次いで9月の末にベータ版をリリースし、12月8日に開催される開発生産性向上に取り組む優れたエンジニア組織を称える表彰イベント「Findy Team+ Award」で指標をもとにした表彰を行いたいと当面の目標について語った。

  • Findy Team+ Awardで優れた取り組みを表彰します(資料より)

    Findy Team+ Awardで優れた取り組みを表彰します(資料より)

生成AIを活用したAI駆動開発は、開発の速度と生産性を一気に高め、今後開発組織のスタンダードとなることが予想されている。このような状況下においては開発組織の機能や位置づけも大きく変化していくのは当然の流れだろう。同社の新しい評価基準「開発資本」の策定はそれに先鞭を付けるもので注目度は高い。同社のプロジェクトの先行きを今後も注目していきたい。