アメリカン・エキスプレス・アカデミー 2011 NPOリーダーのためのリーダーシップ育成プログラムが3~5日の3日間、都内で開催された。同プログラムは、国内のNPOやNGOで働く次世代の若手リーダーを対象に、事業を推進する上で必要なリーダーシップ能力や、それを有効に発揮するためのビジネス・スキルを向上させることが目的。一橋大学イノベーション研究センター長・教授である米倉誠一郎氏の監修の下、二泊三日で講義、グループワーク、フィールドワークが行われた。

今回のプログラムでは、GOLD代表の建部博子氏、アミタホールディングス代表取締役会長兼社長の熊野英介氏、日本理化学工業取締役会長の大山泰弘氏らを講師に迎え、公益組織を運営する上で求められるリーダーシップや、リーダーシップを支えるビジネス・スキルについて学んだ。

本稿では、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc 個人事業部門 新規カード営業/企画 山中秀樹副社長の講義「バナナの売り方 カードの売り方」について紹介する。

顧客は何を基準にモノを購入するのか

はじめに、山中氏は「顧客が自発的に購入を希望する商品」と「そうではない商品」について取り上げ、「後者の場合は、お客様はニーズを自覚していない場合が多く、説明して売り込まないと売れない」とした上で、バナナの叩き売り、そしてアメリカン・エキスプレスのカードとの共通項を指摘。「カードが欲しくて買うという人は皆無。だからニーズを喚起させるにはそれなりのやり方がある」と話した。

その上で、「お客様が何を基準に商品を購入するかを知るべきだ」と山中氏。購入する基準として、値段 / デザイン / セールス / 機能 / サービス / ブランドの6つを例として挙げた。山中氏は「消費者として商品を買う立場として基準値がある。買う人が何を基準に買おうとしているかを最初に頭においておくことが必要」と強調した。そして、商品を購入する際には、消費者は商品を購入するのではなく、商品がもたらす価値を購入していると指摘。機能 / 経験 / 安心 / 満足を挙げ、「たとえば、カーナビなら目的地に早く到着できるという機能、経験ならディズニーランドで大切な人と思い出を作ることなど、買い手側にとって最も大事な価値は何かを知ることが、どうやって商品を売るかという時の重要なポイントになる」と語った。

真のニーズを把握する。反論はむしろチャンス!

続いて、山中氏は消費者が自発的に欲しがらない商品を売る際の、具体的な手法を紹介した。まずは、自分を受け入れてもらうために、「相手と共通の話題を持つ」「相手との距離をつめる」「相手をポジティブにする」ことを示した。相手を知るには担当者の名前や共通の話題、エンドユーザーを知ることで距離を縮められるが、街頭で商品を売る場合の手法としては「~ですね?」「~ですよね?」「~ではないですか?」と簡単な問いかけをすることで参加意識を高めることが有効だとした。「たとえば『ご出張ですか?』と尋ねると、違えばそれでおしまいだが、本当に出張だと『そうだよ』と帰ってくる。相手のことを知るためには相手がネガティブにならないようにすることが大事」と話した。

また、山中氏は、「お客様が積極的に欲しがらない商品を売るにはワンチャンスできまる」と話し、「いいなと思いましたね」「今、本当は困ったなと思いましたね」と相手の心を読んだり、相手の感情を言い当てることで本音を確認できる話し方を勧めた。

次のステップとして、相手を理解し、話を前に進める「進展」の段階では、ニーズを探求することを強調。「ダイエットしたいという人がいるとする。痩せるはニーズではない。たとえば、50kgあったとして45kgにしたいなら、ニーズは5kg痩せること。お客様のニーズを知るには、望ましい状態と今を具体的にすることが重要」として、必要性と感情的な欲求を把握するための手法を紹介した。

山中氏によると、商品を購入する状態とは、その商品の必要性と、その商品を欲しいという感情的な欲求の双方が高い状態である。例えば、高級腕時計であれば、感情的な欲求は高いが、その必要性は低いことが多い。そのため、顧客にとっての高級腕時計の必要性を高めることが重要であるとした。

また、「反論されるとすごくうれしいと思え」と山中氏。「興味がないと反論されない。反論はイエスのサイン。進展の大きなサインだと思って」と話した。反論時には「なるほど、~」「そして、~」「だから、~」というような表現が有効だと指摘し「反論に反論を返すと喧嘩になる。『なるほど、そういう風に思われたんですね』『だから、必要性がないと思われたんですね』と話すことが大事」だと語った。

最後に、契約に結びつけるための「クロージング」の段階では、「最後はゆっくりと自信を持って語ること、体の表現もプラスすることで自分を信用してもらうことができる」と語った。「最後に焦ってしまうと、『やっぱりいいわ、女房と相談するわ』と引かれてしまう。『ほんとにいい買い物をされましたね、ほんとうに私から買っていただいてありがとうございます』と伝えた方がいい」と話した。また、決断までに十分な時間を与えないと、キャンセルの可能性が高まることを指摘。「沈黙することはお客様が考えているということ。沈黙は怖くない」と笑顔を見せた。そして、不安を解消するために改めて肯定し、感謝の気持ちを込めることで選択が正しかったことを実感させ、「選択が正しかったとお客様に思っていただけるよう最後の念を押すことが大事」だと述べた。

最後に山中氏は、アメリカン・エキスプレスが行っているフォローアップの体制「First 100 Days」についても言及した。リサーチ会社ギャラップがMRIを使って、理論的な満足度と感情的な満足度を測ったところ、あるカードの平均利用額は感情的満足度が理論的満足度を上回ったことに触れ「カードを売るには、お客様の感情的満足度を高める方がいい。そのために、アメリカン・エキスプレスでは入会から100日前後にサービス・センターの担当からお客様に電話をしている。お客様にきちんとフォローをして感情的満足度を上げることでよりカードを長く使っていただける。また、電話の受け答えも大事。ぶっきらぼうだったり電話にでなかったり、不愉快だったりすると使いたくなくなる」と顧客の感情にいかにフォーカスできるかを重視していることも紹介した。

翌日には、ホームレスの自立を支援する雑誌『ビッグイシュー日本版』を実際に販売するフィールドワークが行われた。参加者は山中氏が講演中話した商品の売り方を参考に新宿駅前で道往く人に購入を呼びかけた