東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授

ニンテンドーDS用ソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング』を監修した東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授が大塚製薬のプレスセミナーに登場。さまざまなデータを用いて朝食の重要性について話した。また、朝食の質と脳活動の関係についての研究成果も発表。「朝ごはんは食べるだけじゃダメ、きちっと食べてほしい」と栄養バランスの大切さを力説した。

朝食は子どもたちの将来に影響する

川島教授が行った基調講演のテーマは「脳と心を育てる食育~脳の発達はバランスのとれた食事から~」。まずは、文部科学省の「平成20年度全国学力・学習状況調査」の資料から、「朝食摂取とテスト成績の関係」という調査を紹介。朝食を「毎日食べる」小学生のテストの成績の平均はすべての科目でもっとも高く、逆に「まったく食べない」という子どもではもっとも低くなっていることを指摘した。

朝食摂取とテスト成績の関係―文部科学省「平成20年度全国学力・学習状況調査」より

また、東北大学加齢医学研究所・川島隆太研究室が行った朝食に関する意識と実態についての調査結果も引用。これを見ると、「第一志望の大学に入学した」「第一希望の企業に就職した」「年収1000万円以上」などと答えた大学生やビジネスマンでは、「ほぼ毎日朝食を摂り続けている」という人の割合が高い。朝食習慣のある人とない人では、仕事のやる気や身だしなみ、生活の満足度、将来への希望といった意識面に違いがあるという調査結果(「M1F1総研 生活ラボニュースV0l.1 2009」)も出ているという。同教授は「たかが朝食とはいえない。子どもたちの将来に朝食は大きく影響する。(朝食の重要性について)親に知識がなく、教育への熱意が少ない結果、本人の能力と関係のないところで能力が上がらないことになる」と警鐘を鳴らした。

朝食習慣と就職の関係―東北大学加齢医学研究所・川島隆太研究室「朝ごはんに関する意識と実態調査」より

朝食摂取と仕事や生活の関係(成人)―M1F1総研 生活ラボニュースVol1 2009より

朝食だけじゃダメ、朝食の"質"も大事

では、いまどきの小学生の朝食摂取率ってどれくらいなのだろう。科学技術振興機構(JST)が2004~09年に全国の小学生951人に実施した調査では各学年とも「朝食毎日摂取」は9割以上。「早寝早起き朝ごはん運動」もあってか、朝ごはんを食べずに学校に来る子どもは少ない。が、問題はそのバランス。パンにジャム、ドーナツ、菓子パンなど、主食のみの家庭は40~50%もあったといい、川島教授は「背中が寒くなるデータ」と表現した。

小学生の朝食の実態―科学技術振興機構(JST)調査研究より

同機構では、脳の働きを調べる心理的なテストも実施。「朝食におかずがない、少ない」と答えた子どもは「記憶力」「空間認知」「作業力」などすべての認知機能で低い傾向がみられたという。食べればいいということではなく、その"質"も大事だということだ。

食事内容と認知機能の関係―科学技術振興機構(JST)調査研究より

最新の脳科学的研究でもわかった「栄養バランス」の重要性

最後に川島教授が紹介したのは、同教授が大塚製薬・佐賀栄養製品研究所と共同で行った研究成果。朝食習慣のある健康な6人の大学生を対象に、単純計算(U-Kテスト:内田クレペリンテスト)や記憶テスト(Nバック)などで知的作業や集中度の測定を行った後、朝食として「水だけ」「糖質のみを含む飲料」「五大栄養素を含む栄養調整食品(栄養調整流動食)」のいずれかを食べてもらい、その後に朝食前と同様の測定を3回行った。記憶力のテスト時には機能的磁気共鳴画像(fMRI)による脳活動の測定も行った。

その結果、「栄養調整食品」を摂取した後では、「水だけ」「糖質のみの飲料」のときよりも、前頭前野内側面の脳活動が高まることを画像で確認。疲労感や集中力も改善されていた。つまり、脳をより活発に活動させるには、栄養バランスが重要ということ。また「甘いものを食べると頭が良く働く」という人がいるが、甘いジュースやチョコレートを食べるだけでは十分でないともいえそうだ。同教授は「朝食の質は子どもたちのすべての認知機能に関わるもの。栄養バランスをしっかり考えてほしい」と呼びかけた。

食事タイプと脳活動の関係

ちなみに、「ダイエットしたいと朝ごはんを抜くのは言語道断」(同教授)らしい。アメリカで行われた研究では、「朝ごはんなどの食事の回数を減らすと、かえって肥満になりやすい」という結果も出ているという。大人も子どもも朝ごはんは栄養バランスを考えてしっかり採るようにしたいものだ。