裁量トレードと売買システムは「生身の人間対ガンダムの戦いみたいなもの」

今の時代、投資とまったく無縁という人は少ないはずだ。定期預金や拠出型年金、積立て型生命保険だって、投資といえば投資。そして、せっかく投資するなら、だれだって利益を得たいと考えるはずだ。ところが利益の大きな投資にはリスクが伴う。そこでどこに投資するかを慎重に判断しなければならない。どのファンドに投資するか、いつどの株を買い、いつ売るのか、これが投資判断だ。

インディ・パの本郷喜千代表取締役

「投資をするには、一定のルールに従って投資判断をしなければなりません。でも、そのルールに従えないのが人間なのです」。と、インディ・パの本郷喜千代表取締役はいう。

本郷氏は元ファンドトレーダー。自身でもシステムトレードの手法を取り入れてきた。「システムトレードとは、まずルールがあること。そして、そのルールに従って売買を行うこと」(本郷)。ところが、人間はそのルールを往々にして無視してしまう。たとえば、為替取引の場合、取引期間の8割の間はドローダウンという「損をしている期間」。合理的なルールに基づけば、この期間は動いてはいけないのだが、人間は辛抱ができない。怖くなって損切りに走って、被害を最小限にとどめようとしてしまう。

しかし、もうちょっと辛抱すれば、大きな利益をとれる期間がやってくるのだ。また、成功体験もやっかいなもので、過去大成功した状況と似た状況が訪れると、ルール上は動いてはいけないことになっているのに「この大きな波に乗らなければ」と動いてしまう。いくら合理的で優れた投資ルールを作っても、人間の裁量がじゃまをするわけだ。「当時、周りのトレーダーを見ていると、ファンダメンタル投資家よりもシステムトレーダーの方が生き残っているように感じたのです」(本郷)。本郷氏はそこで人間の裁量が一切入らない「売買システム」に興味をもっていった。「人間の裁量トレードとルールに厳密に従う売買システム。生身の人間対ガンダムの戦いみたいなものですから、どちらが強いかは明らか」(本郷)。

伝統的な指標やテクニカル手法を捨て、市場データをゼロから統計的に解析

インディ・パの石崎文雄チーフテクノロジーオフィサー

インディ・パの石崎文雄チーフテクノロジーオフィサーはエンジニアというよりは学者や研究者の趣だ。以前は情報通信の研究職についてきた。「計算のもっている力にずっと興味をもっていました。計算や統計は科学とアートの間に存在する領域だと思っています」(石崎)。本郷氏と石崎氏は、共通のシステムトレーダーの知人を通じて知りあい、すぐに意気投合した。システムトレーディングを欲していた本郷氏と、システムトレーディングを設計したい石崎氏が出会った。

石崎氏のアプローチは、一般の投資家とはまったく違っていた。一般的な投資家の発想は、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析だ。ファンダメンタルズ分析は、株による企業への投資であれば業績や財務内容を見て、割安の株を探す、今後業績が伸ばせそうな企業を探すというもの。一方で、テクニカル分析は株価チャートなどを見て、特定のチャートパターンを見つけて売買のタイミングを判断しようとするもの。テクニカル分析には無数の手法があり、なかには単なる迷信じみたものや根拠がまるでないものまで含まれている。このような迷信をいくらプログラム化してシステムトレードだといばってみても、実績が上げられるはずもない。

石崎氏のアイディアは、このような伝統的な指標やテクニカル手法をいったん捨てて、市場データをゼロから統計的に解析し直してみてはどうかというものだった。その分析の結果、至った結論は「価格を予測することはできないが、変動幅は予測できる」というもの。この変動率に着目するというある意味シンプルな手法は、本郷氏の心にも響いた。

本郷氏と石崎氏(写真右から)

「ぼくはこれをEvidence Based Trade=根拠のあるトレード手法と名づけました。いくら優れたプログラム売買でも根拠が明快でないものは問題があるからです」(本郷)。実績のある売買システムであっても、それを使うのは人間だ。投資はなかなか利益の出ない苦しい時間が長く続く。そのときに「こんなに儲からないのだったら」と運用をあきらめてしまうのが人間なのだ。

しかし、トレード手法をよく理解し、確信をしていれば、そのようなときでも我慢ができる。実際、変動率をベースにした投資手法では、長い時間小さな利益と損失を繰返し、市場が大きく動いたときに大きな利益を得るというパターンになることが多い。ここでも、せっかくの利益をふいにしてしまうのは「人の弱い心」なのだ。「トレードの8割の期間は損失がかさんでいくドローダウンという期間。残りの2割の期間に利益を得る。その利益のでる期間の直前にシステムトレードをあきらめてしまわれる方がとても多いのです」(本郷)。こうして生まれたのがDynamic ARMS FXだ。

心のもろさを徹底的に排除した売買システム「Dynamic ARMS FX」

さらに、石崎氏の発想には利点があった。市場の変動率を統計的に解析して、売買アルゴリズムを決めていくという手法なので、他の市場にも応用できるのだ。現在、Dynamic ARMS FXは「ポンド円」「ポンドドル」「ユーロ円」の3種類があるが、他の通貨への応用は易しい。また、将来的には株などの通貨以外への応用も可能だという。「今は1対1の為替取引の売買システムを発表済みですが、対応通貨を増やすとともに、3通貨対応も考えていきたい」(石崎)。たとえば、ドルと円とポンドという3つの通貨を扱えば、「ドル円」「ポンド円」「ドルポンド」という3つの取引が可能になる。これを同時に行うことで、ポートフォリオ化することができ、より低リスクでリターンの大きな売買システムが構築できるわけだ。もちろん、市場データの分析は単純ではなく、まだまだ発表時期は未定だが、石崎氏はこの分析に現在熱中しているという。

Dynamic ARMS FXは、本郷氏が「生身の人間対ガンダムの戦い」というように、人の心のもろさを徹底的に排除した売買システムだ。「裁量トレードに見切りをつけた方、テクニカル分析に飽きてしまった方に使っていただきたい。Dynamic ARMS FXは、統計学に基づいた根拠のある売買システムです」(本郷)。

では、Dynamic ARMS FXのアルゴリズムとはどういうものだろうか。次回で詳しくご紹介しよう。