ある寒い冬の日の昼下がり、肉まん作りに精を出す。せっせと生地をこねてひき肉のあんを包み蒸すこと数分。セイロから肉まんを取り出す。作った肉まんの数は4つ。私が一度に食べられる量は2つなので作りすぎた。ここに彼氏がいれば、一緒においしく食べられるのに。って、これってマズくない? 肉まんを一緒に食べてくれる彼氏すらいないなんて。負け犬のままでアラサーどころかアラフォーに突入しちゃう!!……と、肉まんをほおばりつつ今更あせる私。旅好きな私がすぐにできる策として考え付いたのは、神頼みをしながらの恋愛スポットめぐり!
日本全国に数々の恋愛スポットやパワースポットと言われている地はあれ、今回は宮崎県を選択。あまり知られていないが、宮崎県は「神話と伝説のふるさと」とも言われる場所だ。古事記や日本書紀に記されている日向(ひむか)神話をはじめとした数多くの伝説や史跡があり、恋愛にまつわるスポットも多い。さらに寒い冬でも、南国気分で気持ちが上がるはず……(実際はかなり冷え込むので、冬に訪れる際は防寒をお忘れなく)。我ながら単純で恐縮だが、さっそく宮崎の恋愛スポットに出かけ、女子力アップを図ってみることにした。
神話と伝説のさと「高千穂」を巡る
まず訪れたのは、宮崎県の北に位置する高千穂。高千穂には、古事記や日本書紀に記される伝説や神話を伝える神社が数多く存在しており、天孫降臨の神話が息づくさととしても有名だ。そんな背景からスピリチュアルスポットとしても名高い高千穂だが、恋愛にまつわるスポットもある。中でも高い人気を誇るのが「高千穂峡」の手こぎボート。艶やかに切り立つ岩と、その間から流れる滝が生み出す美しい風景を見ながら水上遊覧が楽しめる。
カップルだらけの手こぎボートを横目に見ると、やはり気持ちは焦る一方。そんな思いを静めるために、高千穂のランドマーク「高千穂神社」へ向かった。高千穂神社は、約1800年前の垂仁天皇時代に創建された高千穂八十八社の総社だ。社殿に安置されている「鉄造狛犬一体」と本殿は、国の重要文化財に指定されている。高千穂のどの神社にもしっかりとした杉が多いが、高千穂神社の境内にも立派な杉の大木が存在し、荘厳で厳粛な雰囲気を湛えている。
その1つに2本の杉の根元がつながっている「夫婦杉」がある。恋人はもちろん、家族や友人など、"好きな人"と手をつないで杉を3回まわればずっと仲良しでいられるという。悲しいことに私は1人で訪れてしまったためまわれない……。とりあえず、次に来たときには必ずと思いながら夫婦杉を写真に収める。
(上)高千穂神社の拝殿正面。高千穂の神社は鳥居などを含めて塗りがほとんど施されておらず、年代を経てもなお素朴な表情を見せる(右)鉄造狛犬一体の片割れ。狛犬の口は対で仏教の呪文「阿吽(あ・うん)」を表わすが、こちらは阿形。本殿には畠山重忠によって奉納された木造の狛犬も安置されている |
2本の根元が1つになっている「夫婦杉」。このほか、樹齢800年といわれる秩父杉もある。秩父杉は鎌倉時代に源頼朝が天下泰平の祈願を畠山重忠に代参させた際に、忠信が手植えしたというもの |
高千穂神社は夫婦杉のご利益の影響から、縁結びの神様としても有名。縁結びのお守りを見せてもらったが、携帯電話のストラップ型や夫婦杉をモチーフにしたものが人気だそう |
そろそろ日が暮れてきたので、おいしいお酒が飲みたくなってきた。高千穂町の隣町である五ヶ瀬町には、地元のぶどうだけを使ったワインを製造している「五ヶ瀬ワイナリー」があると聞き、さっそく訪れてみることにした。車で30分ほど走ってある橋に差し掛かると、ちょうど夕日が沈むのが見えた。車を路肩に止めて橋を確認すると「夕日の里大橋」とある。誰にも邪魔されず、美しい景色を楽しんでいると「誰かと一緒だったらよかったのに……」と惨めになってきたので、それを打ち消すようにワイナリーへと車を進めた。