1895 年に丸山商会として創業し、農業用機械、環境衛生用機械、工業用機械など多様な製品の製造・販売を展開してきた丸山製作所は、先進 IT 技術の活用にも積極的に取り組んでいます。製造業としては他社に先駆けて仮想デスクトップ基盤を導入しており、7 年ほど前からは、働き方改革の一環として Hyper-V を利用した VDI 環境を運用してきました。同社では、オンプレミス上に構築した基盤の更新期限を機に VDI 環境の刷新を検討。IT インフラのクラウド移行も視野に入れ、Microsoft Azure 上で提供されるクラウド型の VDI サービス Azure Virtual Desktop を採用しました。
Azure の VDI サービスを採用し、既存 VDI 環境の課題解決と運用・保守の負担軽減を図る
昨今の新型コロナウイルス感染症拡大への対策として、リモートワーク環境の構築に取り組む企業は増加傾向にありますが、丸山製作所では、コロナ禍以前から働き方改革の一環として仮想デスクトップ基盤(以下、VDI)の導入を進めてきました。株式会社丸山製作所 経理部 IT企画課長の水藤 健雄 氏は、VDI 導入の背景をこう語ります。
「社内システムにアクセスする業務があるため、各営業所に数台ずつ PC を設置していたのですが、営業担当者はほとんど現場に行っているため稼働率は低く、更新や運用の負荷を考えるとムダなリソースが費やされていました。こうした課題を解消するために VDI を導入したのがきっかけです。その後、営業担当者が営業ツールとしてタブレット端末を携帯するようになった際にも、VDI を活用することで出先から社内のリソースにアクセスできるようになりました」(水藤 氏)。
当初は、ハイパーバイザーベースの仮想化システム「Hyper-V」をオンプレミス上に導入して VDI を運用していましたが、Hyper-V はプロファイルのアタッチメントに不安があり、IT企画課への問い合わせが絶えない状況だったといいます。そこで丸山製作所では、システムのリプレースタイミングで、VDI 環境の刷新を検討します。既存のオンプレミス環境の更新から、VMware Horizon など他の VDI への切り替え、HCI の導入まで多様な選択肢を比較検討し、最終的に採用したのはマイクロソフトが Microsoft Azure(以下、Azure)上で提供する「Azure Virtual Desktop」(以下、AVD)でした。今回のプロジェクトを担当した同社 経理部 IT企画課の関口 義訓 氏は、AVD を採用した経緯を解説します。
「既存システムの継続利用や、オンプレミス環境での VDI 刷新なども検討しましたが、オンプレミスでは運用・保守の負担が大きいこともあり、クラウドの VDI サービスを利用するのが効率的と判断しました。マイクロソフトとの付き合いが長く、サーバーシステムを主に Windows で構築していることもあり、シナジー効果が期待できる Azure の VDI サービス『AVD』の採用を決定したという経緯です」(関口 氏)。
Classic 版でシステム構築後に、Azure Resource Manager 版への切り替えを行う
丸山製作所では、IT インフラ全体のクラウド移行を検討しており、今回の AVD 採用は、クラウド基盤としての Azure の価値を図る試金石としての意味合いもあったと関口 氏。水藤 氏も「BCP の観点からもクラウドへの移行は不可欠と捉えており、その意味でも Azure 上で提供される AVD は有効な選択肢となりました」と語ります。
AVD の導入を決定した同社はプロジェクトを始動。マイクロソフトの紹介により日本ビジネスシステムズ株式会社(以下、JBS)が参画し、システム構築は 2020 年 5 月に完了します。プロジェクトに携わった JBS クラウドプラットフォーム本部 クラウドプラットフォーム4部 2グループ エキスパートの野中 邦政 氏は、AVD の導入はスムーズに進められたと振り返ります。
「プロジェクトの始動時に、既存 Office365 テナントに新規 Azure サブスクリプションを紐づけした形でご契約をいただき、Azure 上の構築作業に着手しました。丸山製作所では Azure の利用が初めてということで、用語や各リソースの役割などサポートを手厚くしてシステム構築を進めさせていただきました」(野中 氏)。
JBS の丁寧なサポートもあり、Azure への理解を深めることができたと関口 氏。今回の AVD 導入による VDI 環境の構築はもちろん、同社の目指すクラウド移行の基盤としても十分に使えるという手応えを感じたと話します。
2020 年 5 月からは社内での運用テストが実施されました。システムを構築した段階では Classic 版の AVD を採用しており、PowerShell のコマンドベースで仮想マシンの増減やネットワーク帯域の負荷、利用状況の管理などを行っていたといいます。ところが 2020 年 7 月には、Azure ポータルの GUI から各種設定が行える Azure Resource Manager(以下、ARM)版の一般提供が開始されます。運用負荷の大幅な軽減が期待できることもあり、丸山製作所では ARM 版の導入を決定。JBS のサポートを受けながら、自社開発で Classic 版から ARM 版への切り替えを実現しています。
「すでに完成したものに手を加えるということで、ARM 版への切り替えは躊躇しました。まったく別のシステムになるようなら、もう一度 JBS に構築してもらうことも考えていましたが大きな問題はなく、2020 年 10 月には ARM 版への切り替えが完了しました」(関口 氏)。
Azure NetApp Files の採用でパフォーマンスを担保、マルチセッションのユーザー数を調整してコストも最適化
ARM 版への切り替えに成功した本プロジェクトは、2020 年 11 月に社内プレリリースを行い、同 12 月から本社(管理本部)への導入を開始。2021 年 1 月からは全営業所に向けて順次展開を進めている状況にあり、2021 年 5 月時における利用ユーザーは 100 名以上、ユーザープロファイル数は 200 を超えているといいます。
「一部の営業所では、そもそもインターネットにつながらないといったケースもあり、現在、AVD を利用するため通信インフラを整備しているところです。環境整備が進めば、利用ユーザーはもっと増えていく予定です」(関口 氏)。
100 名以上の利用を想定した本プロジェクトでは、快適に利用できるパフォーマンスを維持するために、高性能なストレージサービス「Azure NetApp Files」(以下、ANF)が採用されています。その結果、ログインが集中する始業時においても、ログインできないといった問題が起こらなくなったと水藤 氏は語ります。
「Hyper-V の VDI 環境では、アクセスが集中する時間帯でタイムアウトするユーザーが頻出。セッションが残っていてサインインが行えないといった問い合わせが多数ありました。AVD に切り替えてからは、こうした問い合わせはゼロになりました」(水藤 氏)。
AVD 環境では、主に Microsoft 365 のオフィス系アプリケーションと自社開発の業務アプリケーションが利用されていますが、社内 PC と遜色のないパフォーマンスが実現できているといいます。また、AVD を導入したことで接続性の問題も解消され、「外出先でのプレゼンでもスムーズに社内リソースにアクセスできるようになった」と営業担当者からも喜びの声があがっています。関口 氏も「VDI 関連の問い合わせは明らかに減っており、サインインにかかる時間は圧倒的に短くなりました。AVD の導入で本来の業務に集中できる環境が実現したと感じています」と、導入効果を実感しています。
なお、丸山製作所では AVD をマルチセッションで利用しています。設計段階では 1 VM あたり 10 ユーザーで構築していましたが、運用を開始してリソースに余裕があることを確認し、1 VM あたり 15 ユーザーに変更したといいます。このように、利用状況に合わせてコストを最適化できるのも大きなメリットと水藤 氏は喜びます。
加えて、テレワークを活用し本社社員を対象に出社率を削減する取り組みを実施しており、2021 年 5 月には 72.7%の削減率を達成しています。その実現に、今回の AVD 導入プロジェクトは大きな役割を担っているといいます。
「現在の AVD 利用ユーザー 100 名の半数程度は在宅勤務での利用となっています。本社の管理部門だけでなく、工場の事務担当者も活用するようになっており、すでになくてはならない存在になっています」(関口 氏)。
Azure 基盤の効果的な活用を模索し、IT インフラのクラウド移行を推進していく
今後は、AVD の利用拡大を進めるとともに、Azure 基盤の効果的な活用に取り組んでいきたいと関口 氏。直近ではオンプレミスのサーバーを Azure に移行することを検討していると話します。
「昨今は人材不足が深刻化し、工場などの現場での技術継承も大きな問題となっています。もちろん、管理部門の効率化も急務といえます。今後もマイクロソフトと密接に連携し、Azure をはじめとしたソリューションを使って課題を解決していきたいと考えています」(関口 氏)。
また丸山製作所では、工場の DX 化にも着手しており、IT を利用して業務改善や生産性向上を図っていく予定です。将来的にはデータ分析基盤の構築や AI 活用も視野に入れており、Power BI をはじめとする Azure が提供するサービスにも注目しているといいます。
今回の、AVD 導入を皮切りにAzure 活用を推進する丸山製作所の取り組みは、製造業の IT 活用における 1 つの“解”になるかもしれません。
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