5Gのサービスを提供するMVNOが徐々に増えつつあるようですが、今後4Gのネットワークに依存せず、5Gのネットワークのみで運用するスタンドアローン(SA)運用に移行すると、コアネットワークの仕組みが変化し、携帯電話会社が従来通りのルールでMVNOにネットワークを貸し出すことが難しくなるようです。SA時代のMVNOの接続あり方について、どのような議論が進められているのでしょうか。

SAで大きく変わるMVNOとの接続方法

2020年から携帯4社が5Gのサービスを開始した一方で、5Gのサービスを提供するMVNOはまだあまり多いとは言えません。

コンシューマ向けのMVNOとして5Gのサービス提供をいち早く開始したのが、Cygamesが設立したLogicLinksです。同社がMVNOとして運営する「LinksMate」で、2020年6月に有料オプションによる5Gのサービスを提供開始し、その後は同12月にオプテージの「mineo」も、やはり有料オプションを追加する形でサービスを開始しています。

また、法人向けとしては、インターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJモバイルサービス」が、KDDIの回線を用いた「タイプK」で、2020年10月から5G回線のサービス提供を開始しています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第34回

    オプテージのプレスリリースより。同社がMVNOとして展開する「mineo」では、2020年12月1日より「5G通信オプション」の提供を開始、月額200円を追加することで5Gによる通信が可能になる

しかし、他のMVNOの5Gに対する動きは鈍いようです。携帯各社は総務省の要請を受け、MVNOに5Gのサービスを提供できるメニューを用意しているのですが、それでもMVNOが5Gのサービス提供に消極的なのは、そもそも携帯各社の5Gエリア整備が進んでおらず、4Gのサービスで十分と判断し5G対応を急いでいないからでしょう。

ただ2021年には5Gのエリアが急拡大する予定で、しかもNTTドコモの「ahamo」など携帯各社が低価格の5G対応サービスを導入してくることから、エリア拡大が進むにつれ、対応するサービスが増えてくるのではないかと考えられます。

しかしながら今後を見据えると、MVNOが5Gを利用する上で1つ大きな課題が出てきているようで、それがスタンドアローン(SA)運用とノンスタンドアローン(NSA)運用の違いに起因するものです。

携帯各社の5Gは現在、4Gのネットワークの中に5Gの基地局を設置し、5Gの一部機能を提供するNSA運用となっていますが、携帯各社は2021年度中をめどに、5Gのネットワーク設備のみで運用するSA運用へと移行する方針を打ち出しています。

そこで問題となるのが、1つにコアネットワークが4Gから5Gへと変わることで、設備の仕組みが変わってしまい、従来通りの仕組みで接続できなくなってしまうことで、新たなコアネットワークに対応した接続の仕組みを構築する必要があるようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第34回

    総務省「接続料の算定等に関する研究会(第38回)」のKDDI提出資料より。SAへの移行でコアネットワークの仕組みが変化し、従来通りの接続形態が実現できなくなる

APIによる接続では新たな議論が必要に

ですが、より大きな問題となるのが、そもそもMVNOとの接続の仕方が大きく変わってしまう可能性があることです。

第18回で触れた通り、MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会のMVNO委員会は、5G時代の新しいMVNOのあり方として「VMNO」(仮想通信事業者)という新しい業態を打ち出していますが、その中でもライトVMNOは物理的な設備を用いて接続するのではなく、APIなどを通じた仮想的な形での接続を想定しています。

現在の4G、そして4Gの設備を用いたNSA運用の5Gでは、携帯電話会社の交換機の機能を開放してMVNO側の交換機と接続する形をとっていたことから、設備に対する規定を定めて機能や料金のルール化することができました。しかし、接続方法がAPIなどに変化し、物理的な設備による接続を持たないとなると、従来通りのルールが適用できなくなってしまうのです。

そうしたことから現在、総務省の有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」において、SA時代の接続ルールに関する議論が進められているようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第34回

    「接続料の算定等に関する研究会(第37回)」の資料より。SA時代には物理的な設備同士を接続するのではなく、APIによる仮想的な接続形態も想定されるが、その場合従来通りのルールを適用できなくなる

携帯各社は、従来と同じ設備同士を接続するL2(レイヤー2)接続であれば、技術的課題はあるものの実現に向けて前向きに取り組むとする企業が多いようですが、APIなどを経由して接続する形態に関しては、相互接続のインターフェースなど技術の標準化がまだ進んでいないこともあり、慎重な検討が必要との姿勢を見せています。

ちなみに、仮想のコアネットワークを携帯電話会社の無線アクセスネットワークに直接接続する「フルVMNO」の形態に関しては、携帯電話会社側にとってある意味、コアネットワークを制御できなくなることから自社の無線ネットワークに与える負荷が高まり、品質低下につながるとの懸念が強く、一層慎重な対応や検証が必要としているようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第34回

    「接続料の算定等に関する研究会(第38回)」のソフトバンク提出資料より。ライトVMNOではAPIのセキュリティや品質管理、フルVMNOでは無線ネットワーク全体に与える影響の大きさが問題になるとしているようだ

新しい接続形態の実現には標準化の進展などを待つ必要があり、時間がかかることを考えるとSA時代の携帯電話会社とMVNOとの接続は当面は技術的に実現しやすい従来通りのL2接続で対応し、環境が整った上でVMNOやそれに類する接続形態の実現に向けた取り組みが進められるのではないかと筆者は予想します。

ただ、SA時代におけるMVNOの接続形態のあり方は、MVNOの事業そのものの存続にも大きく影響してくるだけに、今後の議論が注目される所です。