サービス開始のタイミングに新型コロナウイルスの感染拡大が直撃したことで、思うように普及が進まなかった日本の5G。再始動の年となる2021年に向け、携帯電話各社は5Gに関してどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。

サービス開始にコロナ禍が直撃、最悪のスタートに

2020年にスタートした日本の5Gは、正直なところ最悪のスタートを切ったと言っても過言ではありません。「日本の5Gは遅れている」と言われてもなお、東京五輪に合わせてのサービス開始のため諸外国に追随せず、2020年を待って華々しくスタートするはずだった日本の5Gですが、そのスタートが大きくつまずいたのは言うまでもなく新型コロナウイルスの影響です。

新型コロナウイルスは、携帯大手3社が商用サービスを開始した2020年3月に感染が急拡大。その後政府が緊急事態宣言を発令したことで、東京五輪をはじめ携帯各社が5Gのアピールをする予定だった大規模なイベントがことごとく中止・延期に追い込まれてしまったのです。

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    5Gのサービス開始を発表する2020年3月に新型コロナウイルスの感染が急拡大したため、各社とも予定していた華々しい発表イベントをオンラインでの実施に移行させざるを得なくなった

そのことは、消費者に対する5Gのイメージを大きく落とす要因となりました。なぜなら2020年中の5Gエリア整備は元々あまり進まない予定で、東京都心でもまともに接続できるエリアがないくらい狭い状況にあるからです。

携帯各社はそうした事態を事前に想定していたからこそ、5Gのエリア整備がなされた場所でイベントを開催することにより、多くの人に5Gの体験を提供することに力を入れていたのです。ですがコロナ禍でそれが一切できなくなった結果、消費者は極めて狭い5Gのエリア内に行かないと5Gを体験できず、「5Gは使えない」という印象を与えてしまった感は否めないでしょう。

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    KDDIのサービスエリアマップより(2020年12月14日閲覧)。丸印が5G対応、あるいは対応予定のエリアなのだが、東京都心の山手線の内側でさえカバーエリアが点に過ぎないことが分かる

しかも当初販売された5Gスマートフォンは、一括価格で軒並み10万円を超えるなど値段が非常に高く、2019年の電気通信事業法改正でスマートフォンの値引きが規制されたこと、そしてコロナ禍で携帯電話ショップの営業時間短縮などがなされたことで販売が思うように進みませんでした。そうした複数の要因がネガティブな方向に働き、5Gの急速な普及を阻んだ訳です。

その結果、日本の5Gへの取り組みが世界から一層遅れているように見えてしまったことは残念でなりません。それだけに2021年は5Gの普及に向けた再始動の年になるといえ、携帯各社の5Gに対する取り組みの本気度が大いに問われることとなりそうです。

2021年はエリアと端末の充実が一気に進む

もっとも携帯各社のエリア整備計画は、海外でのロックダウンの影響を受け5Gのサービス開始が遅れた楽天モバイルを除けば当初の計画通りに進んでおり、コロナ禍だからといって大きな遅れが出ている訳ではありません。2021年には大手3社が全国で5Gエリアの面展開を本格化する予定であり、NTTドコモは2021年6月末、KDDIとソフトバンクは2021年3月末までに1万局の5G基地局を整備するとしています。

とりわけ4G周波数帯を積極的に5Gに転用する方針を打ち出しているKDDIとソフトバンクは、2022年3月末までに5万局の基地局を整備し、人口カバー率90%超を達成するとしていることから、全国のかなり広い場所で5Gが使えるようになると考えられます。もちろん4G周波数帯で整備した5Gのエリアでは通信速度が速くならないという問題を抱えているのですが、2021年中に5Gのエリアが急拡大することは間違いなさそうです。

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    KDDIは4G向け周波数帯を5Gに転用することで、2022年3月までに約5万局の5G基地局を設置する方針とのこと。2020年12月中に4G向けの3.5GHz帯を5Gに活用する方針も示している

一方のスマートフォンに関しても、2020年10月より販売を開始した「iPhone 12」シリーズが、4機種全機種5Gに対応していた上に販売も好調だというのは、5Gの普及を見据える上でも非常に明るい材料といえるでしょう。それに加えて明るい材料となるのが、低価格の5Gスマートフォンの増加です。

2020年後半にはクアルコムの5Gに対応したミドルハイクラスの5G対応チップセット「Snapdragon 765」シリーズが登場、それを搭載して約4~7万円台に価格を抑えた5Gスマートフォンが急増しました。2021年にはもう1つ下のクラスとなる、ミドルクラスの「Snapdragon 690 5G」を搭載するスマートフォンの販売が本格化するとみられています。

そうなれば普及価格帯となる3万円台の5G対応スマートフォンのラインアップが増え、5G対応スマートフォンが一般的な存在になることでしょう。2021年は「スマートフォンを買い替えたら5Gだった」というケースが増えてくるかもしれません。

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    NTTドコモやKDDI(au)が2020年春の発売を予定しているシャープ製の「AQUOS sense5G」は、ミドルクラス向けの「Snapdragon 690 5G」を搭載し、5G対応ながらNTTドコモでの価格は3万円台となっている

また、2021年の半ば頃から2022年の頭頃には、携帯各社が4Gと5Gのネットワークを共存して運用するノンスタンドアローン(NSA)運用から、5Gの設備だけでネットワークを構築したスタンドアローン(SA)運用への移行を進めるとみられています。SA運用に移行すれば高速大容量通信だけでなく、低遅延など5Gの実力をより発揮しやすくなるだけに、コンシューマーだけでなくビジネスでの5G活用も進むことになるでしょう。

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    NTTドコモは2021年度中にSA運用への移行を進める方針。SA運用への移行とともに4G向け周波数帯の5Gへの転用を検討する考えのようだ

新型コロナウイルスに日本だけでなく全世界が振り回された2020年でしたが、2021年は5Gが脚光を浴びる、明るい1年となることを願いたいものです。