NTTドコモは2021年2月3日に「5GオープンRANエコシステム」と「海外法人5Gソリューションコンソーシアム」を発表、同社の5G技術を海外に展開していくことを発表しています。そこにはどのような狙いがあるのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

先行する技術知見を生かしてオープンRANを普及

NTTの完全子会社となったNTTドコモは、これまで携帯電話会社への出資など、さまざまな形で海外での事業拡大を進めてきました。ですが大きな損害を被ったり、撤退に際して泥沼の裁判となったりするなど、決してよい成果を収めたとは言えません。

その同社が2021年2月3日、海外での5Gに関する事業展開の説明会を実施しました。そこで発表されたのが「5GオープンRANエコシステム」と「海外法人5Gソリューションコンソーシアム」という2つの施策なのですが、NTTドコモは5Gを活用し、どのような方法で海外展開を成功させようとしているのでしょうか。

その鍵の1つとなるのが5GオープンRANエコシステムです。これは5Gで注目を集めるようになった、基地局などの無線アクセスネットワーク(RAN)を、複数のメーカーの機器が混在しても動作させられるようオープン化する「オープンRAN」の技術を、パートナー企業と協力して海外の通信事業者に提供するというものになります。

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    「5GオープンRANエコシステム」の概要

そもそも、なぜNTTドコモがオープンRANの技術を海外の事業者に提供できるのか?と言いますと、同社はオープンRANを推進する団体の1つ「O-RAN Alliance」(第20回参照)の設立メンバーでありその推進に向けた中心的な役割を果たしているとともに、早い段階からオープンRANの導入に取り組んできたため。実際、5GではNTTドコモが世界で初めてオープンRANを導入したとしています。

具体的には、RANのうち無線通信をやり取りする“子局”と、無線通信を実際に処理する基地局装置などを持つ“親局”とを接続する、フロントホールと呼ばれる部分のインターフェースのオープン化をすでに実現したとしています。

さらに、同社では親局の装置内のインタフェースをオープン化する「仮想化RAN」(vRAN)にも取り組んでおり、これが実現すれば、親局の機能を汎用サーバと専用ソフトウェアで実現できることから、親局の低コスト化やMEC(モバイルエッジコンピューティング)の機能を持たせるなど、多機能化が実現できるとしています(第29回参照)。

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    NTTドコモは既に5Gネットワークで、親局・子局間のインターフェースのオープン化を実現。現在は親局側のvRAN化に向けた取り組みを進めているという

そうしたオープンRANの導入で培った知見やノウハウを生かし、海外の通信会社に技術協力という形でサービスを提供することでビジネスを拡大するというのが、NTTドコモの狙いとなるようです。

しかし、そもそも携帯電話のネットワーク設備はエリクソンやファーウェイ・テクノロジーズなどの大手による寡占状態であることから、5GオープンRANエコシステムの推進は単に自社の売り上げを伸ばすだけでなく、それらネットワーク機器ベンダーの寡占を崩したいという狙いも大きいと言えそうです。

実際、5GオープンRANエコシステムに参加しているのはNTTドコモのほか、米デルテクノロジーズや米クアルコム、米エヌビディアなど、オープン化が有益に働くと考えられる企業に加え、日本電気(NEC)や富士通といった、シェアが小さくオープン化に積極的な日本の通信機器ベンダーも含まれています。それゆえ子の取り組みは、RANのオープン化によって大手の寡占を崩すとともに、NTTが出資しているNECなどの進出を後押しする狙いもあるといえそうです。

ローカル5Gに類する取り組みを海外で展開

一方、海外法人5Gソリューションコンソーシアムは、やはりパートナー企業と協力して、海外に工場などを持つ法人に向けてプライベートな5Gネットワークを構築し、その上で利用するソリューションをワンストップで提供するというもの。日本でいう所の「ローカル5G」や「プライベート5G」に近い取り組みと言えるでしょう。

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    「海外法人5Gソリューションコンソーシアム」の概要。パートナー企業と協力し、プライベートな5G網を活用したソリューションを海外で提供していくとしている

NTTドコモとしてはまず、そのターゲットを日系企業が多く進出している東南アジアに定めて展開していく方針としており、当面は海外に拠点を持つ日系企業が対象となるようです。最初の取り組みとしては、タイに拠点を持つ日系企業、そして現地の通信大手であるAISと協力して2021年度の下期に実証実験を実施。2022年度以降に商用サービスを開始するとしています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第36回

    当初は日系企業と協力してタイで実証実験を実施し、2022年度以降の商用化を目指すとしている

5Gでは通信だけでなく、それを活用したソリューションが注目されており、国内では多くの通信企業が5Gソリューション拡大を目指していますが、海外の携帯電話事業者が必ずしも、それを自社で展開できるとは限りません。

一方、NTTドコモは5Gのサービス開始以前より5Gを活用したさまざまなソリューションの実証実験を進めてきた実績があることから、それを生かして海外での具体的なビジネスにつなげる狙いがあると言えるでしょう。

また、同社は5GオープンRANエコシステムと、海外法人5Gソリューションコンソーシアムを相互に連携して取り組みを進めていく考えを示しています。海外の携帯電話事業者の多くは、通信機器やその運用がベンダー任せになっている点も少なからずあると思われるので、そうした環境を変えながらも、自社ビジネスにつなげていきたい同社の狙いを見て取ることができそうです。

もちろん、RANに関しては既存の大手ベンダーの影響力が非常に強いだけに、どこまで開拓できるのかということは未知数ですし、ソリューションビジネスに関してもやはり大手ベンダーなどが、世界的に取り組みを進めつつあることから、容易に進むとは限りません。どのような策をもってそれらに対抗しながら、オープンRANとソリューションビジネスを拡大していけるのかは、今後大いに注目される所ではないでしょうか。