この環境技術分野ニュースのまとめ
・Helical Fusionが2030年代に核融合の「実用発電」を目指す「ヘリックス計画」の詳細を説明
・最終実証装置「Helix HARUKA」で高温超伝導マグネットやブランケットを統合実証し、その後に発電初号機「Helix KANATA」へ進む二段階構想を採用
・同社はヘリカル方式の強みを、正味発電、定常運転、保守性という発電所要件を満たしやすい点にあると位置付け、日本主導の産業化も狙う
Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)は6月17日に、ヘリカル型核融合炉の実用化を目指す「ヘリックス計画(Helix Program)」の全体像に関する説明会を開催した。ヘリックス計画は、2030年代に「通年稼働」と「正味発電」を備えた実用発電の実現を目指す核融合炉開発計画で、最終実証装置「Helix HARUKA」と、その先に位置付ける発電初号機「Helix KANATA」の二段階で進める構想だ。Helical Fusionは、核融合科学研究所(NIFS)を中心に、日本の大学や研究機関で積み重ねられてきた約70年のヘリカル研究の知見を土台に、発電所として成立する要件から逆算して技術選定を行っている点を特徴としている。
同社は2021年10月、NIFSの研究成果を活用する形で設立された。説明会では、核融合は海水由来の重水素を燃料として使えること、連鎖反応を伴わないため暴走しないこと、再生可能エネルギーのように天候変動に左右されにくいことなどから、新時代のベースロード電源として期待されていると説明したほか、核分裂を用いる従来の原子力発電とは原理が異なり、燃料や炉設計、材料を工夫することで、長期管理が必要な放射性廃棄物の負担を相対的に抑えられる点も強調した。
国際協力から国際競争へ、核融合開発は産業化フェーズに
説明会では、核融合開発を巡る国際環境の変化についても説明があった。従来はITERに代表される国際協力案件が中心だったが、この10~15年ほどで民間企業の台頭が進み、実現時期も2050年ごろから2030年代へと前倒しを狙う流れが主流になってきたという。Helical Fusionは、もはや「みんなで1つの実験装置を作る」段階ではなく、「どの国や企業が先に産業として確立するか」を競う局面に入ったと位置付ける。
主要各国の動向としては、米国が民間主導で多方式を並行開発し、中国も国家主導を軸にしながら多方式化を進めていると説明。英国もトカマク中心からステラレーター系を含む複線化へと動きつつあり、ドイツでは発電所向きとみられるステラレーター系の産業化支援が強まっているとした。日本でもフュージョンエネルギーは成長分野として位置付けられ、研究政策から産業政策・エネルギー政策へと文脈が移ってきたという認識を示した。
その一例として、経済産業省所管で、民間主導の発電実証を支援する3年間600億円規模の制度にも触れた。従来のITER中心の単一路線ではなく、スタートアップを含む多方式を公平にレビューして、勝ち筋のある技術を育てる方向へ政策が変わってきたという見方だ。公募はすでに締め切られており、書類審査と面接審査を経て、採択決定は7月中、交付決定は8月が予定されているとした。
「実用発電」の三要件を満たせるかが勝負
Helical Fusionがいう「実用発電」は、単に核融合反応を起こすことではない。同社は、発電所として社会に受け入れられるための条件として、「正味発電」、「定常運転」、「保守性」の3要件を挙げる。正味発電は、プラントに投入する電力を上回る電力を外部へ供給できること、定常運転は1年を通じて安定稼働できること、保守性は短期間のメンテナンスで高い稼働率を維持できる構造を指す。
同社の説明によると、仮に100のエネルギーを投入した場合、そのうち核融合反応に直接使われるのは約30で、残りの70は加熱や冷却などプラント運転に使われる。核融合反応で増幅されたエネルギーは380ほどとなるが、これを熱として取り出し、タービンで発電すると、電力として得られるのは130程度になる。このうち100はプラント維持に必要なため、外部へ供給できる正味電力は約30になる計算だという。こうしたエネルギー収支の中で、正味発電を実現しつつ、長時間安定運転できることが実用化の核心になる。
Helical Fusionは、その3要件を満たしやすい方式としてヘリカル方式を選んだと説明する。ヘリカル方式は、二重らせん状のコイルによって高温プラズマを安定して閉じ込めるのが特徴で、NIFSの大型ヘリカル装置(LHD)などを通じて、1億度超のプラズマ温度や長時間運転に関する知見が蓄積されてきた。同社は、核融合反応を起こして長時間維持する部分は、ヘリカル方式ではすでに大きな山を越えており、残された中核課題はブランケットと高温超伝導マグネットに絞られてきたという認識を示した。
一方で、なぜヘリカル方式が世界で広く採用されてこなかったのかという点については、40年前に国際協力プロジェクトの中核技術としてトカマク方式が採用され、当時はこちらの方が高温プラズマ到達で先行していたことが影響したと説明。その後、ヘリカル方式は日本で大型化と運転実績を積み上げ、近年になって発電方式としての優位性が見えやすくなったが、欧米ではすでに研究基盤が細っていたため、現在は日本が相対的に優位な立場にあるという見方を示した。
HARUKAで高温超伝導マグネットとブランケットを統合実証
その最終実証段階に位置付けるのが「Helix HARUKA」である。HARUKAは直径4~5m程度の装置で、核融合反応や発電は行わないが、プラズマ技術、高温超伝導マグネット、ブランケットといったコア技術を、同じ装置で同時に実証する役割を担う。発電プラントへ大型化する前に、技術的不確実性を一度ここで潰しておく狙いだ。
説明会では、HARUKAをフェーズ1とフェーズ2に分けて進めると説明した。フェーズ1は予備試験に近い位置付けで、高温超伝導マグネットの実証が中心になる。NIFS敷地内の専用スペースで、三次元らせん構造の高温超伝導コイルを組み立て、通電試験を行う計画で、2027年の試験を目指して建設を進めている。説明会時点では、フェーズ1の進捗は約20%、スケジュールは概ねオンスケジュールだという。
フェーズ2では、磁石だけでなく、プラズマやブランケットを含めたフルスペックの統合実証に進む。場所については現時点で未公表だが、この段階で初めて、核融合発電所に必要な主要要素をまとめて検証できることになる。
同社によると、残る二大開発課題の1つであるブランケットについては、耐熱性と耐放射線性を備えた材料・構造の開発が必要で、あと3年程度で仕上げる計画だという。もう1つの高温超伝導マグネットは、従来技術では大型化と高コスト化が課題だったが、最新鋭の高温超伝導ケーブルを使うことで、商用発電所向け磁石の見通しが立ってきたとした。なお、同社はコア技術については、社会実装に向けてどこかで技術進化を止める必要があるとし、超伝導ケーブルも含め、現時点で採用する中核技術はほぼフィックスしているという。
安全面についての質疑では、1億度級のプラズマは超高温ではあるものの、非常に希薄なガスであり、真空中に保持されるため、壁材に接触すると逆にプラズマの方が急速に冷えて消失する方向に働くと説明した。したがって、装置全体が熱暴走するような性格の熱源ではなく、原理的にも「暴走しない」ことが核融合固有の安全性につながるとした。
また燃料については、重水素は国内から調達可能で、必要量も発電所建設費に比べれば無視できるほど小さいとするほか、三重水素については、核融合反応で発生した中性子をブランケット内のリチウムに衝突させることで炉内生成し、それを再利用する構造を想定しているという。
KANATAで狙うのは、通年稼働する正味発電プラント
HARUKAの先に位置付けるのが発電初号機「Helix KANATA」である。Helix Programの公式ページによると、KANATAは2030年代に「正味発電」「定常性」「保守性」を確立する発電プラントとして構想されており、ヘリカルコイル主半径は約10m以上、磁場強度は約7T、1年以上の連続運転期間、80%超の稼働率、高温超伝導(REBCO)マグネット、液体金属ブランケットなどを想定している。
一方、HARUKAは主半径約1m以上、磁場強度約2T級の小型統合実証装置で、KANATAの発電に向けた技術的見通しを得ることが目的である。説明会の質疑応答では、HARUKAで仮に発電を行ったとしても、サイズに起因するプラズマ性能の制約から、正味のプラス電力は得られないとの説明があった。つまり、HARUKAで技術を確認し、KANATAで初めて発電所として成立させるという役割分担になる。
産業化の主戦場は「設計・統合」
Helical Fusionが強調したもう1つのポイントが、産業化戦略である。同社は、自らを特定素材や単体コンポーネントの企業ではなく、「核融合発電所全体を成立させるインテグレーター」と位置付ける。半導体、スマートフォン、宇宙産業などの成長分野では、部品サプライヤーよりも、設計・統合・プラットフォームを握る企業がマーケットを主導してきたが、日本はそこを十分に取り切れず、結果として価格決定権を持ちにくかったという問題意識が背景にある。
核融合でも同じことが起こり得る。素材、部品、加工、組み立てといった日本の強みだけではなく、設計と統合も日本側が握ることで、サプライチェーンとバリューチェーンの中核を国内に置きたいというのが同社の狙いだ。4月には、その考え方を具体化する枠組みとして「Helix Program Official Partners」を立ち上げた。これは単なるスポンサー制度ではなく、技術・事業連携に加え、一定額以上の資本コミットも伴う形で、核融合産業そのものを一緒に育てるパートナー企業の枠組みとして位置付けている。
また、産業化に際し、海外の競合が進めているモジュラー型ステラレーターとヘリカル方式の差として、最後に効いてくるのは保守性だと説明。年1回程度の交換が必要になる可能性があるブランケットを、コイルの隙間から抜き差ししやすい構造にできる点がヘリカル方式の強みであり、そこが発電所としての成立性を左右すると見る。
なお足元では、HARUKAの建設費を約400億円と見込み、累計調達額は98億円まで積み上がっているという。政府支援については審査中のため具体額は示さなかったが、代表的方式の1つとして相応の支援を期待しているとの見方を示した。
核融合は長らく「夢のエネルギー」と呼ばれてきたが、Helical Fusionはその議論を、研究開発から発電所設計、さらに産業構造へと引き上げようとしている。HARUKA建設が計画通り進み、ブランケットと高温超伝導マグネットという最後の工学課題を仕上げられるか。そして、その先のKANATAで本当に通年稼働と正味発電を実証できるのか。ヘリカル方式が世界初の実用発電へ到達できるかどうかは、ここから数年の進捗にかかっている。




