米サンフランシスコで年次カンファレンス「Data + AI Summit 2026」を開催中のDatabricks(データブリックス)。2日目のキーノートでは、同社共同創業者 CTO(最高技術責任者)のMatei Zaharia(マテイ・ザハリア)氏が新たなオープンソースプロジェクト「Omnigent」についてプレゼンテーションを行った。
米サンフランシスコで年次カンファレンス「Data + AI Summit 2026」を開催中のDatabricks(データブリックス)では、2日目のキーノートにおいて同社共同創業者 CTO(最高技術責任者)のMatei Zaharia(マテイ・ザハリア)氏が新たなオープンソースプロジェクト「Omnigent」についてプレゼンテーションを行った。エージェントの活用が急速に広がるなか、運用を阻む構造的な問題に対処する新しいレイヤとして位置付けられいてる。
エージェント活用は実用段階も広がる現場の課題
冒頭、ザハリア氏は「エージェントはすでに動き始めています」と述べ、特にコーディングエージェントが開発者の間で広く浸透している現状を説明した。同氏は「ほぼすべての開発者がすでに利用しており、非常に強力なツールになりつつあります」とし、AI活用が実験段階を超えて実用フェーズに入ったとの認識を示す。
一方で、その裏側には新たな課題も浮上している。ザハリア氏は「エージェントを使うと、実際には煩雑さやフラストレーションを感じる場面が多い」と語り、特に管理者にとってはセキュリティの観点から懸念が大きいことを指摘する。
こうした問題の背景として挙げられたのが「エージェントハーネス」の存在だ。同氏によると、ハーネスとは言語モデルをファイルやUI(ユーザーインタフェース)、セキュリティ機構などと接続するソフトウェア層のことを指す。
Claude CodeやCodexといったコーディングエージェントに加え、CursorやAntiGravityといった開発ツール、さらにOpenAI Agent SDKのようなカスタム開発基盤など、それぞれが独自のエージェントハーネスとして機能している。
Claude Codeの場合、モデル自体は単にトークンを生成するだけであり、その周囲のハーネスが実際の動作を可能にしている。ザハリア氏は、その構造について「エージェントハーネスは、言語モデルを外部世界とつなぐインタフェースそのものです」と述べており、このハーネスが容易に構築できることが、新たな問題を招いているという。
同氏は「非常に簡単に作れるため、誰もが独自のハーネスを作っている。その結果として膨大な数が存在しています。まるでペットショップで、好きな形や色のハーネスを選ぶような世界になっているのです」と現在の状況を表現している。
乱立する「エージェントハーネス」がもたらす分断と非効率
このようにハーネスが乱立することで、エージェント同士の連携は困難になる。ザハリア氏は「異なるハーネス間でエージェントを組み合わせて使うのは非常に難しい。実際には、複数のエージェントを同時に使いながら、状況に応じて別のエージェントに質問し直しています」と指摘しつつ、現場の実態についても言及した。
さらに、コラボレーションの問題も深刻だ。PCには複数のエージェントウィンドウやSlack、Google Docsが並ぶ状況を示して、同氏は「ひたすらコピー&ペーストを繰り返しています。なぜ、セッションをそのまま別のエンジニアに引き継ぎ、全体のコンテキストを共有できないのか」と問題提起した。
加えて、統制やセキュリティも課題となる。同氏は「エージェントはコンテキストインジェクションによって攻撃される可能性があり、常に信用できるとは限らないです。現在のツールは許可・拒否・確認といった静的な制御に頼っており、ユーザーにとって大きな負担になっています」との認識を示した。
こうした状況をふまえ、ザハリア氏が新たに提案したのが「メタ・ハーネス」という概念だ。ザハリア氏は「ハーネスの上位に新しいレイヤが必要だと考えました。それを具現化したものがOmnigentです」と説明した
Omnigentとは何か?エージェントを統合するメタ・ハーネス構想
Omnigentは、6月13日にオープンソース化された。既存のエージェントやハーネスの上に共通のインタフェースを提供することで、それらを横断的に統合する仕組みだ。同氏は「メッセージの送受信、イベントのストリーミング、ツールの呼び出しといった機能を統一的に扱えるようにする」と述べる。
構造としては、エージェントをラップする「Runner」と、中央管理機能を持つ「Server(任意)」で構成される。Runnerはエージェントを個別に実行するほか、サンドボックス化でセキュリティと制御を担保。Serverはエージェントの履歴共有やポリシー、スキル管理などを担う中央管理レイヤであり、必須ではないが接続することで複数エージェントの統合管理や協働、ガバナンスを実現するという。
さらに、どのエージェントであっても、同じインタフェースでWebやモバイルからアクセスできるなど、ユーザー体験を統一。また、Databricksに依存せず、DockerやPostgresなど標準技術で動作し、オープンソース性を備えている。
機能面では「構成」「コラボレーション」「統制・ガバナンス」の3つの柱が示された。まず、構成に関しては異なるハーネスやモデルを組み合わせたエージェントをYAMLで簡単に定義でき、タスク途中で別のエージェントに切り替えることも可能としている。
次にコラボレーションについては、複数人が同一セッションに参加し、リアルタイムでエージェントとやり取りできるという。ザハリア氏は「このような機能があれば、自分の作業をそのまま別の人に引き継ぐことが可能になります」と説明する。
統制・ガバナンスでは「従来のような静的な権限制御ではなく、エージェントの行動履歴に応じた動的なポリシーを適用できる。機密文書にアクセスした後は外部送信を制限する、といった制御も可能になる」と説明した。
また、コスト面でも「このタスクで5ドル以上使わないといった制限の設定を可能とし、運用を意識した設計となっている。同氏は「こうしたコスト制御はこれまでのエージェントフレームワークにはほとんど存在しなかった」とも付け加えた。
最後にザハリア氏は「エージェントは確実に広がっていくが、そのままでは扱いづらい存在でもあります。そのうえに共通レイヤを設けることで、はじめて実用的な基盤になるのです」とまとめた。Omnigentは、エージェント時代における基盤技術の一端を担う試みといえそうだ。



