この半導体ニュースのまとめ

・Vicorが大手AI分野のOEM企業に垂直給電技術「VPD」の非独占ライセンスを供与
・ライセンスの取得によりVicor以外のサプライヤからもVPDモジュールを調達可能
・複数調達と供給網の冗長化により、AIシステムの量産拡大を支援

Vicorは9月17日(米国時間)、高性能AIシステムを手掛ける大手OEM企業に対し、同社の特許で保護された垂直給電技術「Vertical Power Delivery(VPD)」の非独占ライセンスを供与したと発表した。

このOEMはライセンスの取得によりVicor製のVPD対応製品に加え、同社のライセンスを受けていないサプライヤからも、対象特許を使用したVPDモジュールを調達できるようになる。

Vicorは契約先を「大手AI OEM」と説明しているが、企業名や契約金額、対象となるAIシステム、製品への採用時期は公表していない。

AIプロセッサの「ラストインチ問題」に対応

AIアクセラレータやネットワークプロセッサでは、演算性能の向上に伴って消費電力が増加している。プロセッサの動作電圧は低いため、必要な電力が増えるほど供給電流は大きくなる。

一般的な水平給電「Lateral Power Delivery(LPD)」では、プリント基板上に配置した電圧レギュレータから配線を介してプロセッサへ電力が供給されるが、大電流化に伴って配線抵抗やインダクタンスの影響が増し、電圧降下、電力損失、発熱などが課題となる。

Vicorは、電源回路からプロセッサまでの最後の短い距離に生じるこうした制約を「ラストインチ問題」と呼んでいる。

VPDは、プロセッサの直下または近接する位置に電力変換機能を配置し、垂直方向から低電圧・大電流を供給する技術。電源からプロセッサまでの距離を短縮し、配線による損失を抑えながら、高い電流密度で電力を供給できるようにする。

マルチセルコンバータと給電ネットワークで構成

VPDシステムは、マルチセルコンバータとVPDネットワークで構成されており、複数の電圧レギュレータまたは統合型電圧レギュレータを多層構造で配置し、プロセッサの近傍から必要な電圧と電流を供給する。AIアクセラレータ周辺の電源回路を小型化し、HBMや高速インタフェースに利用できる実装面積を確保しやすくする。

VicorはVPD向け製品として、高い電流密度と電圧変換比を特徴とする「MCM Current Multiplier」を提供している。MCMは同社工場で「ChiP(Converter housed in Package)」として製造され、薄型化、電力変換効率、機械・熱設計の最適化を図ったという。

  • Vicorの「ChiP」電源モジュールとその製造パネル

    Vicorの「ChiP」電源モジュールとその製造パネル (出所:Vicor)

今回のライセンス先は、Vicor製MCMを用いる構成のほか、世界各地のサプライヤが供給するマルチセル電圧レギュレータや統合型電圧レギュレータを組み合わせたVPDシステムも構築できるようになる。

VPDモジュールの複数調達を可能に

AIサーバの量産規模が拡大する中、GPUやカスタムAIアクセラレータだけでなく、電源モジュールの供給能力もシステムの生産台数を左右するようになってきており、単一の電源サプライヤに依存した場合、需要の急増や工場の設備停止、物流の混乱などによって必要な数量を確保できなくなる可能性もある。

今回の契約により、ライセンス先のOEMはVicorと他社からVPD対応モジュールを調達できるようになり、調達先の複線化が供給網の冗長性を高め、AIシステムの需要に応じて調達規模を拡大しやすくする。

また、Vicor以外の他社から量産型VPDモジュールを調達する際のライセンス料については割引を受けられる可能性もあるという。これにより、高性能が求められる用途にはVicor製モジュールを採用し、供給規模やコストを重視する用途では他社製モジュールも利用するといった使い分けが可能になるとする。

早期契約でライセンス料を優遇

Vicorは、AIプロセッサが水平給電から垂直給電へ移行するにつれ、VPDを採用するOEMやハイパースケーラーには、対象特許のライセンスが必要になる可能性があると説明している。

同社は早期に契約する企業へ低いライセンス料を適用する制度を用意し、OEMによるVPDの採用を促すことを狙っている。

対象特許を使用するサプライヤとの供給契約に補償条項が含まれていても、輸入差し止め措置が適用された場合には製品の調達を継続できない可能性がある。そのため、OEM側でライセンスを確保することにより、知的財産上のリスクを抑えながら複数サプライヤから製品を調達できる体制を整えることを推進する。

自社生産と特許ライセンスを組み合わせて展開

VicorはVPD技術について、米国で約10年にわたって進めた研究開発を基盤とし、関連技術を基本特許で保護している。

同社は米マサチューセッツ州アンドーバーの「ChiP Fab-1」で電源モジュールを製造しているほか、AI向け需要の拡大に対応するため、米ニューハンプシャー州に「ChiP Fab-2」と「ChiP Fab-3」を整備する計画も進めている。

自社工場による高性能VPDモジュールの供給と、OEMやハイパースケーラーへの特許ライセンスを組み合わせ、VPD対応製品の供給規模を広げる方針である。

なお、Vicorでは、AIアクセラレータやネットワークプロセッサの大電流化に伴って垂直給電の採用が広がるとみており、自社製品とライセンス制度の双方からAIインフラ向け電源事業を拡大していくとしている。