まさかの王者陥落、チャンピオン戦線に大波乱

6組目は別の意味で会場を騒然とさせる結果になった。先攻のニコラス・イワノフ選手(フランス)が58.518秒を記録したため、室屋選手はまたも生き残りが確定。後攻は昨年の世界王者で現在の世界ランキング1位、前日の予選では2位になり、2点を獲得して室屋選手との差を12点に広げた、マルティン・ソンカ選手(チェコ)だ。

順当にいけばソンカ選手の勝ち残りと、誰もが思っていた。2回目の中間タイムもソンカ選手の方が速かった。ところが会場左手での宙返りの最中、規定の11Gを超える11.2Gの旋回加速度が記録されてしまう。ほんの一瞬のミスで1秒のペナルティを受けてしまったソンカ選手は、記録58.808秒で敗退してしまった。

ソンカ選手はこれまでの3戦で一度も優勝はなかったが、低い順位になったことがなかったため、合計点数では1位になっていた。ここでの敗退は事実上、年間ランキングを争う上位3選手からの脱落を意味する。記者会見でソンカ選手は「一瞬の集中力の途切れですべてを失ってしまった。これがレッドブル・エアレースというスポーツなんだ」と語った。

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  • オーバーGでまさかの初戦敗退、タイムでも室屋選手に負けて脱落してしまったソンカ選手。年間ランキングを3位に落としてしまった (c)Akira Uekawa

ベテランvs予選トップ、大どんでん返しで生き残るのは?

そして最後の7組目。この組は予選最下位と1位の組み合わせになる。先攻は2003年のレッドブル・エアレース開始以来参戦している唯一のパイロットだが、予選では最下位のカービー・チャンブリス選手(アメリカ)。後攻は予選トップのファン・ベラルデ選手(スペイン)だ。

チャンブリス選手の記録が室屋選手に及ばなければ、ここで室屋選手の「最速の敗者」が確定する。しかし、室屋選手曰く「カービーは何故か、僕と当たるといい記録を出す」。直接の相手は室屋選手ではないが、最速の敗者を賭けた戦いでは確かに対戦相手だ。なんとチャンブリス選手は予選の実タイムより1秒以上速く、室屋選手よりも速い57.306秒を記録してしまった。

ベラルデ選手がチャンブリス選手を破れば、チャンブリス選手が最速の敗者として室屋選手を蹴落とす。ベラルデ選手が敗れても、室屋選手より速ければ、室屋選手は敗退する。ベラルデ選手が室屋選手より遅いタイムを記録しなければ室屋選手は敗退という、絶体絶命の場面を迎えた。

ベラルデ選手の飛行は、序盤でわずかにチャンブリス選手をリード。中盤からやや遅れるものの、室屋選手とはほぼ互角の中間タイムで最後の宙返りに突入した。しかし宙返りの頂点がやや高く、大回りをした結果、記録は58.180秒。0.268秒差で室屋選手の記録に届かなかったベラルデ選手は、ラウンド・オブ14での敗退が決定した。

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  • 予選王者ベラルデ選手、まさかの敗退。タイムでも室屋選手を下回り、「最速の敗者」の座は室屋選手に (c)Akira Uekawa

自身のフライトから40分間、12名のフライトをただ見ることしかできなかった室屋選手。ベラルデ選手の飛行では「最後のターンの間は倒れそうでしたよ。ブラックアウトしそうなくらい」と後に語ったが、実際に「最速の敗者」が決定した瞬間、室屋選手は床に崩れ落ちるように一瞬脱力したあと、チームスタッフと握手をした。

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  • ベラルデ選手の飛行を見ていた室屋選手。「最速の敗者」が確定した瞬間、机の下へ崩れ落ちるように脱力したあと、握手した (c)RedbullContentPool

余談だが同じ瞬間、観客席の大歓声の中で、筆者も膝から砂浜にへたり込んでいた。レッドブル・エアレース最終戦で室屋選手初戦敗退という悪夢は、ついに幕を開けなかった。そしてチャンピオンであったソンカ選手の初戦敗退で、年間チャンピオンは室屋選手と同期の親友で、現在6点差で首位のマット・ホール選手(オーストラリア)との一騎打ちになった。絶体絶命の立場から一気にチャンピオン争奪戦へ復活した室屋選手の戦いに、会場の熱気は最高潮に達した。

(次回に続く)