今年の4大会で終了することが決定されている、空を駆けるモータースポーツ「レッドブル・エアレース」。最終戦となる千葉大会を残してラスト2戦、ヨーロッパでは最後の開催となるバラトン湖(ハンガリー)での大会が7月13日、14日に開催された。アブダビの初戦から2大会連続優勝の快進撃を続けてきた室屋義秀選手は、バラトン湖大会の1回戦ラウンド・オブ14で敗退。年間ランキングを1位から3位に落とす結果となった。

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    (c)RedbullContentPool

筆者はこの歴史的な大会の現地取材を敢行。この連載では最終戦へ向けて正念場を迎えた室屋選手をはじめとする各選手や、ヨーロッパ最後の開催地バラトン湖の様子を、お届けしていきたい。

2戦優勝の快進撃、「千葉でチャンピオン」も視野

レッドブル・エアレースが今年で終了することが発表され、しかも例年の8大会に対して4大会と少ない2019年シーズン。短期決戦の前半2戦で連続優勝という快挙を成し遂げた室屋選手は、明るい表情で第3戦を迎えていた。第3戦を好成績で突破すれば、すべてのレッドブル・エアレースの最終戦となる千葉大会へ首位で凱旋し、日本のファンの目の前で「最後のチャンピオン」になるという究極のフィナーレが視野に入る。

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  • 予選を前にリラックスした、ランキング上位3人の室屋選手、ソンカ選手、ホール選手 (撮影:大貫剛)

昨年までハンガリーの首都、ブダペスト市の中心部で開催されていたレッドブル・エアレースだったが、今年は急遽、郊外のバラトン湖に面する観光地、ザマルディに移動しての開催。理由はブダペスト市中心部での騒音や、交通規制による交通渋滞と報じられている。

バラトン湖周辺はヒマワリや小麦の畑が広がる乾燥した高原で、湖畔にはホテルや別荘などが建ち並ぶ、気持ちのいい観光地だ。最寄りのブダペスト空港から車で2時間程度と交通の便は少し悪いが、このように快適な会場での開催が今回1回きりで終わってしまうのは、残念に思える。

大会公式練習日の金曜から本戦の日曜にかけて、天気予報は雨時々曇りと芳しくなく、大会の開催自体も危ぶまれた。しかし予選の始まった土曜日午後以降は晴れ間が見え、高原の保養地らしく気温も低い、観客にとっては絶好の天気となった。ただ、東西に細長いバラトン湖を横切って会場へ吹き付けるような北風が強く入る。断続的な雨雲の通過は風向きに影響するし、油断できない気象条件だ。

レッドブル・エアレース2019 第3戦 予選前の室屋選手へのインタビュー

「今日、明日とも荒れ模様の戦いになる。ペナルティを受けないよう丁寧に飛ばす」と語った室屋選手の話の通りに、予選は始まった。

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  • 垂直尾翼付け根に新たに追加されたカバー。改造前は尾翼を操作するワイヤーがむき出しだが、カーボン製のカバーで覆われた。尾輪の構造も変わっている(改造前の写真は2017年10月に筆者撮影) (c)RedbullContentPool

予選3位のはずが、まさかの9位へ

バラトン湖のコースは湖岸に沿って細長く、千葉大会と似ている。コース両端での折り返しでどのようなコースをとるか、その選択が勝負を分ける。宙返りのように垂直に折り返すか、水平に大きく旋回するか、その中間をとって斜めに回るかは選手の自由なのだ。ただ、水平旋回では大きく横へ回るコースになるため、規定のコース幅をはみ出す「クロッシング・ザ・トラック・リミット・ライン」のペナルティを受ける選手も続出した。

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  • 会場右手の折り返しでは、室屋選手は2種類のターンを試した。予選1回目は垂直に近い上昇からの宙返り。2回目はほぼ水平の左旋回 (撮影:大貫剛)

予選の飛行順はランキングの逆順のため、首位の室屋選手は最後に飛行。予選は2回ずつ飛行して良い方のタイムが採用される。室屋選手は1本目で、丁寧な飛行でペナルティなしの58.846秒を記録して3位に。2本目ではさらに攻めたコースを試したため3つのペナルティを受けたが、実タイムでは1本目を上回った。上々の滑り出しだ。

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  • 会場右手の折り返しでは、室屋選手は2種類のターンを試した。予選1回目は垂直に近い上昇からの宙返り。2回目はほぼ水平の左旋回 (撮影:大貫剛)

3位以上の選手は記者会見に出席するため、筆者も室屋選手も記者会見場への移動を始めた。ところがそこへ、室屋選手は記者会見に出席しないとの報が入る。1本目の飛行に「クロッシング・ザ・トラック・リミット・ライン」のペナルティ1秒が加算され、9位になったというのだ。

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    予選トップはソンカ選手(右)。室屋選手の順位変更で、3位にはミカ・ブラジョー選手(フランス)が入った(左) (撮影:大貫剛)

原因は技術的問題? 嫌な流れの始まり

実は室屋選手の予選フライトは、少しおかしなところがあった。機体の位置を地上へ送るGPSシステムの問題で、会場のスクリーンにラップタイムが表示されていなかったのだ。ペナルティの判定もこのGPSのデータをもとに行われているので、1本目の飛行のあと判定が出なかったのは、運営側のGPSデータのチェックに時間がかかった可能性が高い。しかしこういう場合、通常は審議中という扱いになって次の飛行を遅らせる。しかし今回レースコントロールは、1本目はペナルティなしとしてそのまま2本目へ進んでしまい、そのあとでペナルティを加算した。

これには室屋選手も憤慨した。通常、このような判定は飛行の直後に知らされる。1本目は確実に良いタイムを出す「押さえのフライト」であって、そこで3位を確保したからこそ、室屋選手は2本目ではより攻めた飛行を試したのだ。1本目でペナルティを受けたことを知っていれば、2本目ではコース取りを修正して、確実に飛べるコースを習得しつつ順位を上げる選択をしていたはず。着陸してからペナルティの判定を伝えるのはアンフェアだ。室屋選手は運営側に抗議したが、判定が覆ることはなかった。

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  • ソンカ選手は同じ東欧のチェコ人のため、ハンガリーは「準地元」。観客には数多くのソンカ応援団の姿が (撮影:大貫剛)

この結果室屋選手は、予選6位で年間ランキング3位のマット・ホール選手(オーストラリア)と、1回戦ラウンド・オブ14で対決することになってしまった。ホール選手は室屋選手と同期参戦の親友。ラウンド・オブ14は、対決で敗退しても敗者のうち最速の1人が次のラウンド・オブ8に進出できる。両選手が揃って勝ち抜ける可能性は低くない。

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  • 記者会見場の外に詰め掛けたソンカ応援団と、自撮り撮影に応じるソンカ選手 (撮影:大貫剛)

ただ、筆者の胸には嫌な記憶が微かによみがえる。昨年の千葉大会でも、室屋選手とホール選手はラウンド・オブ14で対決。「一緒に勝ち抜こう」と誓い合ったにもかかわらず、室屋選手はオーバーGで失格して1回戦敗退し、ホール選手は優勝した。あのパターンの繰り返しにならなければ良いのだが。

(次回は7月29日に掲載します)