9月7日と8日にわたって開催されたレッドブル・エアレース2019千葉最終戦で、日本の室屋義秀選手が優勝を果たした。室屋選手は千葉での5回の大会中3回目、全レッドブル・エアレースを通算して8回目、今シーズンでは4戦中3戦の優勝。年間ポイント数では前回バラトン湖戦の優勝者、マット・ホール選手(オーストラリア)にわずか1点及ばず、2位となった。
日本の千葉戦で、室屋選手が優勝という理想的なフィナーレ。しかしその戦いはすべてのレッドブル・エアレースファンが忘れることのできない、想像を絶するドラマだった。今回から数回に分けて、歴史的一線の模様をレポートする。
自力チャンピオン消滅、背水の陣の室屋選手
今シーズンの室屋選手は初戦のアブダビ戦(UAE)、第2戦のカザン戦(ロシア)で連続優勝。レッドブル・エアレースが4戦で終了することが決まったため、4戦中2戦ですでに優勝した室屋選手の年間チャンピオンは堅いかと思われた。しかし、第3戦のバラトン湖戦(ハンガリー)でまさかの初戦敗退を喫し、ここでの獲得ポイントはゼロ。なんと年間順位を3位に下げてしまった。
奇しくもレッドブル・エアレース最後の大会となった千葉戦を前に、室屋選手は1位のマルティン・ソンカ選手(チェコ)と10点差、2位のマット・ホール選手(オーストラリア)とも6点差。
もし室屋選手が千葉戦で優勝した場合、25点が加算される。しかしソンカ選手が4位になると18点が加算されて、3点差でソンカ選手がチャンピオンを防衛する。またホール選手は3位で20点を得れば、やはり1点差でホール選手が室屋選手を上回る。たとえ室屋選手が優勝しても、両選手が上位入賞すると年間チャンピオンになれないという状況に陥ってしまった。
ただ、予選でも1位は3点、2位は2点、3位は1点が加算される。同点の場合は優勝回数の多い方がチャンピオンになるため、もし千葉戦で優勝すれば4戦中3回優勝の室屋選手にとって、この点はどうしても欲しいところだ。
室屋選手、予選首位狙うも5位に
予選が行われた9月7日は好天で、会場は真夏の暑さ。会場左手から陸に吹き寄せるやや強めの風が吹き続けるコンディションになった。予選は各選手が2回ずつ飛行して良い方のタイムが採用されるため、本戦を前にコースの攻略法を試す、最終実験の場でもある。
昨年よりやや全長が短くなったコースは、速度が上がる直線がほとんどなく、両端に宙返りの「バーチカル・ターン・マニューバー」がある。前回のバラトン湖と似た構成で、各選手はターンの角度を変えながら試行錯誤する様子が見られた。
室屋選手は予選の2本ともペナルティなく飛行したが、記録は1本目の57.570秒。予選トップとなったファン・ベラルデ選手(スペイン)との差は0.810秒で、14人中5位だった。
年間ランキング首位のソンカ選手は0.119秒差の2位。ランキング2位のマット・ホール選手(オーストラリア)は1.296秒差の7位だったため、上位勢の中ではソンカ選手だけが2点を獲得。室屋選手との差を12点に広げられてしまった。
スタートが勝負を左右、テクニカルなコース
室屋選手は予選で上位に入りソンカ選手との差を詰めることを狙っていたが、逆に点差が開く結果になってしまった。自身のフライトについて「1本目はゲート1、2の速度が適切に定まらなかった。2本目は、機体のシステムが不安定だった。まだチャンスはある」と、本戦へ向けて改善の余地があることを語った。
一方、室屋選手との点差を広げたソンカ選手は、「本戦で優勝すると25点入る。まだ点差は少なくて何が起きるかはわからないので、今日のように落ち着いて飛びたい」と、冷静に語った。またレースコースについては「紙の上で見るよりタイトで、風向きも大きく変わった。ゲート1への入り方次第でかなり変わる、テクニックを要するコースだ」と説明した。
今回の予選では、1つ目の中間タイムの時点でトップから1秒程度の大きな遅れになるケースも目立った。風向きの変化に対応して、スタートのゲート1へ最適な角度で進入できるかで、差がつくようだ。本戦の勝負はどう転ぶかわからない。
背水の陣、最終決戦は台風とともに
心配なのは9月8日に関東直撃が予想されている台風15号。午後には風雨が強まる可能性が高いことから、当初は14時から開始予定だった本戦を、10時に4時間繰り上げた。レース・ディレクターのジム・ディマッティオ氏は「パイロットだけでなく、観客や関係者の安全も重要。パイロンの撤収作業もしなければいけない。観客がレースを見て楽しむための決断だ」と、安全を優先したことを強調した。
もともとギリギリだった年間チャンピオンへの道をさらに遠ざけ、背水の陣としてしまった室屋選手。「レッドブル・エアレース最後の日」は、台風を引き連れて目前まで迫っていた。