東北大学は4月14日、金星の高度約47km以下に存在する「下層ヘイズ」の構成微粒子の組成や起源は50年来の謎とされてきたが、独自に開発した雲微物理モデルを用いて同層の生成に関するシミュレーションを実施した結果、同惑星の大気へと絶えず降り注ぐ宇宙塵が、観測された下層ヘイズの性質を説明可能であることを突き止めたと発表した。

同成果は、東北大大学院 理学研究科 地球物理学専攻の狩生宏喜大学院生(現・東京科学大学 研究員)、同・黒田剛史助教、同・寺田直樹教授を中心に、ベルギー王立宇宙航空研究所などの研究者も参加した国際研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

金星が抱える50年の謎に新たな説

金星は、直径が地球の約0.95倍、質量は約0.82倍、重力は約0.9Gと、地球の「双子星」と称される惑星だ。しかし、分厚い二酸化炭素の大気に覆われた地表は約90気圧もあり、気温は460℃に達し、サイズは酷似しつつも環境は地球とは正反対の過酷な世界として知られている。

金星を覆う分厚い硫酸雲は高度約47~70kmに広がるが、その下層にあたる高度約47km以下の領域には、「下層ヘイズ」と呼ばれる微粒子の浮遊層が存在することが過去の探査で判明していた。高度50~60kmを中心に降る濃硫酸の雨は、高温の大気によって地表へ届く前に蒸発する。このため、下層ヘイズは硫酸以外の蒸発しにくい物質で構成されていると考えられてきた。

これまで下層ヘイズの微粒子の正体については、火山灰や地表の塵、硫黄結晶など、さまざまな説が提案されてきたものの、いずれも観測データを十分に説明できず、その起源は50年間にわたり未解明のままだった。そこで研究チームは今回、金星の雲形成プロセスをナノメートルスケールから再現可能な独自開発の雲微物理モデルに、新たに「宇宙塵」の流入プロセスを組み込んでシミュレーションを行ったという。

宇宙塵(惑星間塵)は惑星間を漂う微粒子であり、条件がよければ地上からも「黄道光」として観測できる。これらは、地球や金星などの惑星に絶えず降り注いでおり、大気圏突入時の空力加熱で一度蒸発した後、再凝縮することでナノメートルサイズの微細な鉱物粒子へと変化することがわかっている。

シミュレーションの結果、上層で生成された鉱物粒子が硫酸雲に取り込まれて緩やかに降下し、雲底で硫酸が蒸発した後に残留することで、下層ヘイズが形成されるメカニズムが解明された。この過程で形成される粒子のサイズや分布は、1970年代のソ連の探査機「ヴェネラ」や、米国航空宇宙局(NASA)の「パイオニア・ヴィーナス(PV)」による観測データと極めて良好に一致したという。また、この下層ヘイズは40km付近で形成された後、大気循環により再び雲層へ輸送されて雲核となり、金星の雲生成を20~30%ほど促進させる役割を担うことも示された。

  • 今回解明された下層ヘイズの形成メカニズム

    今回解明された下層ヘイズの形成メカニズム。上空から流入した宇宙塵が硫酸雲に取り込まれ、雲底での硫酸蒸発に伴って大気中に残留。それらが合体・成長することで下層ヘイズが形成される。(出所:東北大プレスリリースPDF)

  • 計算された雲の質量密度分布

    計算された雲の質量密度分布。実線が今回のシミュレーション結果、点線は過去の探査機パイオニア・ヴィーナス(PV)による観測値を示す。宇宙塵の影響を考慮することで観測結果が精度よく再現された。(出所:東北大プレスリリースPDF)

また、金星には未解明の謎が数多く残されているが、その1つが大気中で紫外線を強く吸収する“未知の吸収体”の存在だ。従来、その候補として鉄化合物や硫黄などが挙げられてきたが、いまだに特定には至っていない。

研究チームは今回の研究において、宇宙塵が鉄などの金属成分を含む点に着目し、これが未知の吸収体の正体である可能性を提唱。宇宙塵は単なる“流れ星の燃えかす”ではなく、太陽エネルギーの吸収や雲生成を介して金星の気候システムを制御する、重要な構成要素であるとの見方が示された形だ。

今回の成果は、今後の金星探査ミッションによる最新の観測データでの検証が期待されるとする。また、宇宙塵による同様のプロセスは木星や土星などの巨大ガス惑星、さらには太陽系外惑星でも起こり得るという。宇宙からの物質供給が惑星の気候を左右するという新視点は、多様な惑星の気候形成を理解する上での重要な要素として位置付けられることが期待されるとしている。