8. ロング・レコードの検索

(1) レコード長(メモリ長)の長さが引き起こすストレス

デジタル・オシロスコープは波形を点で描きます。見せ方の工夫により、波形は線のように見えますが、基本的に点で描かれています。点の数が多いほど表示波形は細かい表現ができ、波形の微細な形を描くことができます。この点の数をレコード長(メモリ長)と呼び、その数は多く(長く)なる一方です。今日10Mポイント(1,000万ポイント)ものレコード長も珍しくありません。

同じ細かさで描くのでしたら、長いレコード長は記録時間の拡大に直結しますし、記録時間を固定するなら、長いレコード長は波形をより細かく描くことができます。不良原因の追究(デバッグ)においては長いレコード長が効果的です。ある時点で不良が見つかれば、その時点よりさらに時間的に古い時点にその不良の原因がある訳ですので、異常を引き起こす原因をより確実に捕らえるには記録時間が長いに越したことはありません。表示する時間幅を長くしておけば、その中に不良の原因が捉えられている可能性が高くなりますので、デバッグを効率化できます。

と、ここまでは波形をレコード長に取込むまでの話です。実際問題はこの後に生じます。尋常な方法では取込んだ波形を見られないのです。初期のデジタル・オシロスコープのレコード長は512ポイントで1画面を形成していました。これを1ページとすると、2万倍もの長さのレコード長は、2万ページに等しい巨大さとなります。想像してください、2万ページもの本を読めますか? 優れたツールなしでは、ワラの山から一本の針をさがるような非効率な作業となってしまうことがお分かりになると思います。

(2) WaveInspector登場

そこで、専用のツールが必要となります。長大なページを簡単にめくる機能や、興味のあるページにはシオリをはさむ機能や、シオリから次ぎのシオリへジャンプする機能がなくてはならない機能でしょう。もっと便利なのは、全ページに対して検索をかけ、条件にかなったページをピックアップする機能でしょう。これらの機能があって初めて、2万ページもの長いレコード長が読めるわけです。これらの機能がWaveInspectorにすべて集約されています。

<使用例>
ここでは、WaveInspectorの例をとります。まず、専用のダイアルとボタンで構成されている点が特筆される特徴です。カーソルや数値代入と兼用させられる汎用ダイアルではありません。深いメニュー階層に置かれた拡大メニューではありません。使いたいと感じたときにすぐそこにある専用ダイアル/ボタンです。長いレコード長にギッシリと詰め込まれた無数の波形のどの部分をどのくらい拡大するかも、直感的に専用ツマミを回すだけでOKです。長いレコードの端から端までスクロールするのもPLAYボタンによる自動スクロールが可能です。スクロール・スピードも直感的にダイアルをネジるだけです。早くも遅くも逆方向へも思いのままにコントロールできます。

スクロール中に興味深い箇所が見つかれば、その箇所にマークを付けることができますので、後ほどマーク箇所に戻ることが簡単にできます。複数のマークが付けられた場合も、矢印ボタン1押しで簡単にマークとマークの間をジャンプできますので、興味深い箇所のみを効率的に見ることができます。

「トリガ」と「検索」の連係も完璧です。ある条件に合ったときにある処理をするという点において、「トリガ」と「検索」は似たもの同士です。「トリガ」は、流れる実波形を対象に条件を探し、「検索」は取込み終えた波形を対象に条件を探すという違いだけです。

「トリガ」がかかり、取込んだレコード長の中をさらに「検索」して、条件を探すこともありますし、逆にレコード長の中から「検索」で見つけた条件を使って、もう1度「トリガ」をかけて、波形を取込み直すこともあります。よって、「トリガ」に関する設定内容と「検索」に関する設定内容は、互いにコピーでき、効果的に運用することができます。これらの機能はすべてWaveInspectorで行うことができます。

検索により、データが03Hの箇所を探し出し、△マークを付けた例(上の画面に一部が下の画面に拡大されている)

著者
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長