今回も前回に引き続き、2025年5月にシンガポールで開催された「IMDEX Asia」展示会の艦艇展示で拾ってきた話題を。お題は、中国海軍の054A型フリゲートである。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
054A型とは
054A型は、江凱 Jiangkai II型とも呼ばれる。ちなみに、防衛省のリリースではカタカナで「ジャンカイII型」と書いている。いわゆる汎用水上戦闘艦のカテゴリーに属しており、中国海軍では絶賛建造中。呆れるぐらいのペースで数を増やしている。
主機はディーゼルで、たぶんガスタービンより経済性は高い。そのこともあってか使い勝手がいいようで、遠隔地への派遣任務でよく出てくるし、「IMDEX Asia」展示会では毎度のように出てくる常連だ。2017年にも同型艦「黄山」が来ていた。このときが、中国の軍艦を生で見た初めての機会だった。
艦橋とヘリ格納庫の上に何かある
さて。2025年の「IMDEX Asia」に登場した054A型は24番艦の「許昌」である。就役は2017年だから8年前。出来たてホヤホヤというわけではないが、古いフネではない。艦内は撮影禁止だったが、外から見えるところは撮ってよろしいということだったので、遠慮なく撮りまくってきた。
2017年に来ていた同型3番艦の「黄山」と比較すると、基本的には搭載している装備類は同じようだったが、ひとつ、決定的に異なる部分があり、これが「IMDEX Asia」からこちら、頭を悩ませる原因になっている。
それが、艦橋上部の左右、それとヘリ格納庫上部の左右に取り付けられている、サーチライト状の物体。乗組員も「サーチライト」といっているのだが。
しかしである。レーダーがない時代の戦艦同士の照射夜戦なら、探照灯で敵艦を照らす必要があるから、大きな探照灯を載せていたものだ。しかし当節、そんな海戦が行われるとは思えない。054A型はちゃんとYJ-83艦対艦ミサイルを8発載せているのである。
警戒監視任務では照明の必要があるかもしれないが、それにしてもこんな大がかりな仕掛けが要るかどうか。
この「謎の物体」を見ると、表面がヒートシンク状になっていて、放熱に配慮した設計になっているように見える。架台の左右に四角い箱が付いており、そこから本体に向けて太いケーブルが延びているのだが、その四角い箱の方も、表面はヒートシンク状になっている。
また、本体の後ろ側はパンチングメタルで覆われているのだが、そこを透かして、内部に何か小さな物体が多数並べられている様子が見て取れる。
レーザーというわけでもないらしい
前面がガラス張りで、何らかの「光」を発するのは間違いなさそうだったので、最初はレーザー兵器かと考えた。しかし、「ヒートシンクで放熱しないといけないようなレーザー兵器だったら、壊れてしまうよ」との意見もある。
実のところ、他の艦載レーザー兵器をいくつか見たことはあるが、054A型の謎の物体みたいな外見になっているものは記憶にない。また、別件で報じられている「中国の艦載レーザー兵器」の写真に映っているモノとも外見が異なる。
ちなみに、この謎の物体に隣接して、電子光学センサーらしきターレットが設置されている。謎の物体が載っていない「黄山」には、このターレットもない。してみると、この両者が連動して動く可能性が考えられよう。単なる状況証拠だが。
そしてこの謎の物体、日本の近海に出没している054A型には搭載されていないようである。統合幕僚監部がリリースを出す度に写真を調べているが、2025年5月以降の分についていえば、搭載している艦は見つかっていない。
ただ、052D型駆逐艦の「銀川」で、艦橋ウィングに似たような外見の物体を載せた写真を見つけている。
なんにしても、特定の艦だけが、何らかの目的で、何らかの「光」を発する物体を2~4基載せている、というところまでしか分かっていない。この件、面白そうなので今後も注視していきたい。
ところで、他国のレーザー兵器はどうなの?
では、先にちょっと触れた「他の艦載レーザー兵器」はどうなのか。
その一例として、ロッキード・マーティンのMk.5 mod.0 HELIOS(High Energy Laser with Integrated Optical-dazzler with Surveillance)がある。イージス戦闘システム ベースライン 9.2.3と連接する設計で、出力は60kW級。C-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)など、キネティックな破壊も視野に入れている。
そのHELIOSを見ると、旋回・俯仰が可能なターレットの中央下部に大きな光学窓があり、これがレーザー本体と思われる。その上方に小さな窓がふたつあり、こちらは目標の捕捉に使用する光学センサー、あるいは赤外線センサーか何かと思われる。そのほか、側面にもなにやら光学センサーらしきものが付いている。
そして、HELIOSの表面は平らで、054A型の謎の物体みたいにヒートシンク状にはなっていない。
また、イギリスでMBDA、レオナルドUK、キネティックが組んで開発している50kW級の艦載レーザー兵器「ドラゴンファイア」も、やはり旋回・俯仰が可能なターレットを用意して、レーザー本体用、それと目標捕捉用と思われる、複数の窓が開いた構造になっている。
ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズの「アイアン・ビーム艦載型」も、配置は異なるが、やはり似たような造りになっている。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。



