前回に引き続き、「IMDEX Asia 2025」展示会で拾ってきたネタを。今回のお題は、前回に取り上げた中国海軍の054A型フリゲート「許昌」とともにシンガポールに来ていた、082II型掃海艇「赤水」。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
掃海艇のお仕事
厳密にいうと、対機雷戦(MCM : Mine Countermeasures)は「掃海」(mine sweeping)と「掃討」(mine hunting)に分けられる。さらに掃海については、対象となる機雷の種類に応じて、複数の手法がある。
機雷というと、「角」がいっぱい生えている球体、というイメージがある。昔ながらの触発機雷がこのタイプで、「角」に当たると起爆装置が作動する。これはさらに、海面にプカプカ浮いている「浮遊機雷」と、海中に敷設する「係維機雷」に分類される。
係維機雷は、過程に沈めた箱とケーブルでつながっており、機雷自身の浮力で浮き上がる。ただしケーブルの長さを深度に合わせて調整することで、機雷は海中に留まるようにしている。そうすれば機雷の存在を目視できないし、水線下にダメージを与えやすい。
だから、そのケーブルを切ってしまえば機雷は海面に浮上してきて、浮遊機雷と同じことになる。それをひとつずつ、機関砲で銃撃処分する。そこで、掃海艇でケーブル・カッターを曳航しながら対象海面を走り回る。
このほか、磁気、音響、水圧を検知して起爆する「感応機雷」がある。磁気機雷や音響機雷なら、本物の船が発するものと似た磁力や音響を発する「掃海具」を曳航しながら対象海面を走り回り、機雷をだまして起爆させる方法がある。これも掃海の一種。
ところが機雷が賢くなってくると、音響掃海具や磁気掃海具ではだまされなくなってくる。そのことと、感応機雷は沈低機雷といって海底に鎮座する形が一般的であることから、掃海から掃討に主流が変化してきた。
掃海艇、あるいはUSV(Unmanned Surface Vehicle)やUUV(Unmanned Underwater Vehicle)に高周波・高解像度の機雷探知ソナーを搭載して、対象海面を走り回らせながら海底を捜索する。そして「機雷らしきもの」を見つけたら、そこに遠隔操縦式の機雷処分具を送り込んだり、ダイバーを潜らせたりして、機雷に爆薬を仕掛けて吹き飛ばす。
つまり1発ずつ個別に見つけて破壊しなければならないので、掃討は手間がかかる。その代わり、機雷が賢くなって対処しようとしても無理がある。機雷はいったん仕掛けたら「それっきり」だからだ。そこで、ソナー探知を避けようとして形状に工夫をしたり、表面を音波吸収材で覆ったりする。
082II型は掃討が主体
といったところで中国海軍の掃海艇である。082型(渦蔵型)が先にあり、その改良型として082II型が登場した。上構後部に設けた格納庫に遠隔操縦式の機雷処分具を格納しているほか、無人掃海艇を遠隔管制する能力があるとされる。
その格納庫を見て気になったのは、上に換気塔らしきものがニョキニョキと突き出ていること。格納庫の中でエンジンを回すのなら、排気ガスを外に出さなければならないから、換気塔を設けるのは分かる。
しかし、水中を航行する機雷処分具が大気吸入型のエンジンを備えていても仕事にならない。すると、「格納庫の中で機雷処分具を試運転するために換気塔を設けた」とは考えにくい。機雷処分具とは別に、何かエンジン駆動の捜索・掃討手段を搭載している可能性はないか。
また、前甲板には遠隔操作式の機関砲を備える。当初の艦では25mmだったそうだが、途中から30mmに大口径化された。浮遊機雷の出現に備えて銃撃処分用に、というだけでなく、自衛用という意味合いもあろう。これでミサイルを撃ち落とすのは無理があるが、小艇ぐらいなら相手にできる。
遠隔操作式機関砲と電子光学センサーの関係
その機関砲塔を見ると、機関砲の横に電子光学センサーのターレットが付いている様子が分かる。
このセンサー、独立して旋回・俯仰が可能な構造になっていて、左右方向は180度程度、上下方向は真上ぐらいまでカバーできそうだ。
米海軍が小艇対策として多用するようになった25mm機関砲Mk.38は、遠隔操作式の機関砲塔に電子光学センサーを組み合わせている。それと似た構成だ。
海上自衛隊の掃海艇、あるいは海上保安庁の巡視船でも、遠隔操作式の機関砲とともに電子光学センサーを備えている事例がある。ただし、機関砲塔とは独立して艦橋または船橋の上部に設置している。
監視・捜索に使用するのであれば、機関砲とは独立して動かせる方が使いやすいだろうし、視界が広い高所に設置したいところ。対して、電子光学センサーを機関砲塔に取り付けるのは、機関砲とワンセットで使用する前提だからではないか。
実は、082II型については「哨戒艦艇としての運用も想定している」とする資料がある。すると、同級の機関砲がMk.38と似た構成になっているのも、なんとなく納得がいく。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。





