重力波望遠鏡を使って重力波を観測している、米国と欧州の共同研究グループは2017年10月16日、今年8月に2つの中性子星からなる連星が合体して放出されたと考えられる重力波を観測したと発表した

重力波の観測は今回で5例目となるが、これまではブラックホールの合体によるもので、中性子星同士の合体によって放出された重力波が観測されたのは今回が初めてとなった。

さらにこの重力波源に向けて、世界各国と宇宙空間にある合計70か所以上の天文台が目を向け、追跡観測を実施。そこでもさまざまな大きな成果を残すことに成功した。

重力波は2015年に初めて観測され、つい先日の10月3日には、この功績が2017年のノーベル物理学賞に選ばれたことは記憶に新しい。その興奮冷めやらぬうちに発表された今回の大成果について、6つのポイントに分けて紹介したい。

第1回では「そもそも重力波とはどんなものなのか」、そして「今回観測された『中性子星の合体』とはどんなものなのか」という2つについて見ていきたい。

今回観測された、連星中性子星の合体と、そこから重力波が出る様子の想像図 (C) NSF/LIGO/Sonoma State University/A. Simonnet

そもそも重力波ってどんなもの?

まずそもそも、重力波とはどんなものなのだろうか。

いまからさかのぼること約100年前の1915年、物理学者のアルベルト・アインシュタインは、「一般相対性理論」を生み出した。この中でアインシュタインは、「重力とは力ではなく、時間と空間(時空)の歪みである」と説明した。

私たちは普段、地球の重力に引かれて立っているように感じる。ニュートンがりんごが木から落ちる様子を見て重力を発見したという逸話もあるように、重力とは長らく物が物を引っ張る"力"だと考えられていた。

しかしアインシュタインは、重力とは力ではなく、たとえば太陽のような重い天体があると、その周囲の時空が歪み、そのせいで地球が太陽に引きつけられる、それこそが重力である、と考えたのである。

さらにアインシュタインはその翌年の1916年、その天体が運動をすると、時空の歪みが波のように周囲に伝わっていくのではないかと考えた。これが"重力波"であり、重力波がよく「時空のさざなみ」という枕詞と共に語られる理由でもある。

しかし、時空やその歪みは人間の目では見えないため、本当に実在するのかは議論の的になり、アインシュタインでさえ一時期は、自分の説が間違っていたのではないかと考えたほどだった。

その後、アインシュタインのあとを継いだ多くの科学者によって、どうやら重力波は本当に存在するらしい、という考えが積み上がっていき、1974年には連星パルサーという天体の観測から、重力波が存在することが間接的に確認された。

それと並行して、重力波を直接的に捉えようという試みも行われた。最初のうちは技術的な困難などから失敗の連続だったが、1980年代に入ると「レーザー干渉計」という装置の技術が発達し、いよいよ重力波が捉えられるようになると考えられた。そして1990年、米国ワシントン州とルイジアナ州の2か所で、重力波望遠鏡「LIGO」の建設がスタートする。

ルイジアナ州リビングストンに建設されたLIGOの重力波望遠鏡。もうひとつ、ワシントン州にもこれと似た望遠鏡がある (C) Caltech/MIT/LIGO Lab

重力波が地球に届くとしたら、私たちのいる銀河系とは違う遠い別の銀河で発生した、中性子星と呼ばれる質量の大きな天体の合体や、恒星が死ぬ間際に起こす超新星爆発と呼ばれる爆発といった、ダイナミックな天体現象で生まれたものになると考えられていた。しかし、いくらダイナミックでも、その重力波が地球に届くときの信号の大きさは、"地球と太陽の間の距離がわずか水素原子1個分動く程度"という、ごくごく小さいものになってしまう。この小さな信号を捉えるため、LIGOには徐々に改良が重ねられた。

そして2015年9月14日、その最新の改良を終えた「Advanced LIGO」が稼働を始めてわずか2日後、アインシュタインが重力波の存在を唱えてから約100年後にして、人類はついに初めて重力波を直接観測することに成功したのである。

このとき観測された重力波は、地球から約13億光年離れた場所で、2つのブラックホールからなる連星が合体し、太陽の62倍もの質量をもつ巨大なブラックホールが誕生したときに生み出されたものだった。

この重力波の初観測に対して、主に理論面で貢献したキップ・ソーン博士、技術面で貢献したレイナー・ワイス博士、そしてLIGOをはじめとする、重力波を観測、研究するための国際的なプロジェクトを取りまとめたことでバリー・バリッシュ博士が、それぞれ2017年のノーベル物理学賞を受賞したのは記憶に新しい。

連星ブラックホールの合体の想像図 (C) SXS

中性子星の合体ってどんなもの?

LIGOによる重力波の初観測後、LIGOは2015年12月にさらに1回、2017年1月にも1回の観測に成功。さらに同年8月14日には、LIGOと同時に欧州の重力波望遠鏡「VIRGO」でも観測に成功するなど、重力波を使って宇宙を見る「重力波天文学」は、その幕開けから順調に成果を積み重ねていった。

この4回の観測はどれもブラックホールの連星が合体したときに生まれた重力波だったが、科学者たちはもうひとつ、LIGOなどで観測できるほどの重力波が生まれる現象として有力な可能性を考えていた。それが連星中性子星の合体である。

中性子星というのは、恒星が死ぬときになる姿のひとつのことで、密度がきわめて高く、半径が10km程度という小ささながら太陽ほどの質量をもつ。もし中性子星を、砂糖のようにティースプーンですくったら、そこに10億トンもの物質がのっかるほどである。

また、すべての恒星が中性子星になるというわけではなく、たとえば太陽ほどの質量をもった天体が死ぬときには白色矮星という天体になるが、太陽より8~10倍ほど大きな大質量の恒星だと、最終段階で超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こす。このとき、その質量がある程度までなら中性子星として残る。もし質量がその限界を超えていると、天体がもつ重力でつぶれていき、ブラックホールになると考えられている。

存在するかすらわからなかったブラックホールとは違い、中性子星や、2つの中性子星からなる「連星」と呼ばれる状態の中性子星は、これまでいくつか見つかっており、その数や分布などもおおよそわかっていた。そして中性子星はブラックホールほどではないにせよ質量が大きいため、2つの中性子星が合体すれば大きな重力波が生み出されるとも予想されていた。

そのため、もし重力波が観測できるとすれば、まず連星中性子星の合体によるものだろう、と考えられていた。ところが実際には、連星ブラックホール同士の合体ばかりが観測されたのである。

中性子星合体の想像図。今回観測された重力波は、このような現象から発生したものと考えられている (C) 国立天文台

しかし2017年8月17日、LIGOとVIRGOは、これまでに検出したことのない波形の重力波を受信した。「GW170817」と名づけられたこの信号を詳しく分析をしたところ、それぞれが太陽の約1.1~1.6倍の質量をもつ、2つの中性子星の合体によって生み出されたと考えられることが判明。ついに待望の、連星中性子星の合体からの重力波を捉えることに成功したのである。

ここで特筆すべきは、このとき受信された信号が、科学者らが「中性子星合体から重力波が届くとしたら、こういう信号だろう」と考えていたものと同じだったということである。中性子星はブラックホールより質量が軽いなど、ブラックホールとは異なる天体であることから、その合体から出る重力波もまた異なり、「波の振幅が小さい」、「周波数が高くなっていくのが遅い」、「より高い周波数まで波形が続く」といった違いがあると考えられていた。そして実際に観測された信号は、その予測とほぼ一致していた。

さらに、米国のLIGOだけでなく、欧州にあるVIRGOも観測に参加していたことで、より確実な観測ができたばかりでなく、この重力波がどこからやってきたのか、つまり重力波源の位置を、ある程度絞り込むこともできた。そしてその結果、単に重力波が観測できただけでなく、さらにもうひとつの大きな成果を生み出すことにも成功したのである。

LIGOが捉えた連星中性子星合体からの重力波の信号。Chirp(チャープ、さえずり)と呼ばれる (C) LIGO Laboratory

次回に続く

> ####参考 > ・[GW170817 Press Release | LIGO Lab | Caltech]( https://www.ligo.caltech.edu/page/press-release-gw170817 )
> ・[重力波天体が放つ光を初観測:日本の望遠鏡群が捉えた重元素の誕生の現場 -重力波を追いかけた天文学者たちは宝物を見つけた- | 国立天文台(NAOJ)]( https://www.nao.ac.jp/news/science/2017/20171016-j-gem.html )
> ・安東正樹. 重力波とはなにか 「時空のさざなみ」が拓く新たな宇宙論.第2版, 講談社, 2016, 320p.
> ・ジャンナ・レヴィン (著), 田沢恭子 (翻訳), 松井 信彦 (翻訳). 重力波は歌う――アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち. 早川書房, 2017, 328p.
> ・真貝寿明. ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開. 光文社, 2015, 340p.

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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