ソフトバンクとTOPPANホールディングスは、成層圏通信プラットフォーム(HAPS)の機体向けの超軽量・高耐久性の翼用膜材を共同開発したと4月27日に発表。今後、この翼用膜材の試験製造を進め、2029年以降にソフトバンクが商用サービスで活用予定の飛行機型HAPSに使うことにしている。
この記事の注目ポイント
- ソフトバンクとTOPPAN HD、“空飛ぶ基地局”向けの軽くて丈夫な翼の材料を共同開発
- 成層圏環境を再現した、翼の材料の評価手法もあわせて確立
- HAPS運用などの知見持つソフトバンクと、要件に合った膜材開発・評価手法を提案できるTOPPANが連携
- HAPSでは高度約20kmの成層圏から通信サービスを提供予定
- 地上基地局よりも広いカバーエリア、衛星通信よりも高速大容量で低遅延の通信を提供できるのが強み
従来の汎用フィルムは“極限環境”の成層圏では劣化しやすく、新開発の翼用膜材とその評価手法が必要
ソフトバンクが2029年以降に商用サービスで活用予定の、飛行機型HAPSに採用へ
軽くて丈夫なHAPS向け翼用膜材、新開発の目的
今回、2社が共同開発したのは、“空飛ぶ基地局”とも呼ばれるHAPS(High Altitude Platform Station)向けの翼用膜材と、成層圏環境を再現した評価手法。
従来の翼用膜材で課題だった、成層圏における強い紫外線の照射や、マイナス100度近くにも達する極低温環境での強度の低下を抑え、HAPSの長期運用を可能にするというものだ。
ソフトバンクがもつ、HAPSの運用に関する知見と、TOPPANがこれまで培ってきた包装材向けフィルムの高機能化技術や、建装材のオリジナル耐候評価技術などを融合させて実現した。
より詳細な役割として、ソフトバンクは膜材の適性評価やHAPSの運用に関する知見を提供し、HAPS機体でその膜材の活用を推進・実用化していく。一方、TOPPANは機体要件に適合する膜材を開発しソフトバンクに提供。成層圏環境を想定した評価手法もあわせて提案する。
両社は2027年度までに、今回開発した翼用膜材のさらなる軽量化と強度の向上を進め、成層圏での耐久性能を検証。2028年度までに、安定した品質と十分な供給量を確保できる量産技術の確立をめざす。
その後、性能試験の結果を踏まえてさらに必要な機能を付加し、ソフトバンクが2029年以降に商用サービスでの活用を予定しているHTA(Heavier Than Air)型のHAPSで使用する予定だ。
将来的には、高い耐久性が求められる他の分野にも応用していく計画だという。なおHTA型HAPSとは、飛行機などのように揚力を持って滞空するタイプのものを指す。
開発の背景と、翼用膜材・評価手法の詳細
成層圏を滞空する無人航空機などに通信基地局を載せ、長期間飛ばしながら通信サービスを提供するHAPS。大規模災害時における通信復旧のほか、既存の通信ネットワークの電波が届きにくい山岳部や離島などでのサービス提供が予定されている。
HAPSは高度約20kmの成層圏から通信サービスを提供するため、地上の基地局よりもカバーエリアが広く、衛星通信よりも高速・大容量、低遅延の通信を提供できるという特長がある。
一方で、成層圏はマイナス100度近くにも達する極低温、かつ強い紫外線や高濃度オゾンにさらされる極限環境であり、従来の汎用フィルムなどでは強度が低下してしまうことが大きな課題だったという。
今回、ソフトバンクとTOPPANが新たに共同開発した翼用膜材と、その評価手法の詳細は以下の通り。
1. 耐衝撃性の高い特殊樹脂と独自構造で、軽量化と安全性を両立
TOPPANが包装材で培ってきた「コンバーティング技術」を活用し、極低温環境での衝撃に強い特殊樹脂に独自素材を緻密に積層することで、膜材の構造を最適化。重量を従来の汎用フィルムの同等以下に抑えながら、万が一膜材に傷が生じても荷重下で裂けが広がらない機能性を実現し、HAPSの機体の軽量化と安全性を両立するという。
なおコンバーティング技術とは、フィルムなどの素材を、印刷や貼り合わせなどの加工によって高度な機能を付加し、最終製品に仕立てる技術のことを指す。
2. 成層圏の過酷な環境に対応する高い耐久性
ソフトバンクは、成層圏でのHAPSの飛行から得られた、温度や短波長紫外線(UV-C)の曝露条件といった実環境のデータを提供し、軽量化をはじめとする翼用膜材の性能要件も定義。TOPPANはこうした実環境データを基に、建装材の技術を応用することで、成層圏の過酷な環境に対応する高耐久設計を追求した。
具体的には、マイナス50〜95度にもなるという成層圏特有の極低温から、直射日光による100度前後の高温まで、幅広い温度変化においても性質が変わらず、地上より強力な短波長紫外線や、10~20ppmという高い濃度(1ppm=100万分の1)のオゾンに対する耐候性も備えた。これにより、長期にわたるHAPSの運用が可能になるとのこと。
3. 成層圏環境を再現した評価手法による信頼性の担保
TOPPANは、包装材のフィルム評価技術と、建装材の耐候加速試験に関する知見を生かし、成層圏環境を再現した極低温環境での膜材評価や、短波長紫外線とオゾンの同時暴露が可能な試験環境を新たに構築。この環境を活用することで、成層圏特有の劣化メカニズムを事前に詳細に把握し、製品設計に反映させられるようになる。その結果、従来の試験では難しかった、より高度で信頼性の高い評価を実現したとのこと。
