ウナギが食べられなくなるかも。という話を最近よく聞きます。なんと食べ尽くして絶滅するっていうんですな。あんなにたーくさんスーパーにならんでるのに、ありえるの? 土用の丑の日(2016年は7月30日)には、食べましょうってやってるじゃないってなもんです。それに恐竜やトキじゃあるまいし、絶滅なんて大げさと思うわけでございます。養殖だってやってるじゃんってなものです。ただ、人類は似たようなことを100年前にやらかしているんですな。リョコウバトの絶滅です。今回は、絶滅なお話でございます。

ニホンカワウソ、トキ、ニホンオオカミなど、絶滅寸前あるいは絶滅したどうぶつはいろいろあります。そういうものの一覧が、レッドデータブックですな。これをみると、かなりの種類が絶滅あるいは絶滅寸前となっています。メダカやヤマメなども絶滅寸前とされております。悲しいことですが、なんとか保護できればとも思うわけですし、実際、そういう活動もされていますな。国際的にはゾウのハンティングはダメだとか、パンダは保護しましょうとか、そんなヤツでございますな。

で、なんで絶滅しそうなのか? ってお話です。自然環境が変わったとか、薬剤散布のせいだとか、病気が蔓延したとか、まあいろいろなんでございます。時代は違いますが、巨大隕石の衝突による恐竜の絶滅なんてのもありますな。そして、人間に追われてなんてのもあります。

ただ、恐竜はともかく、絶滅するどうぶつはもともとそんなに数が多くなかった。だから、ちょっと何かあると、全体としてもたなかったというイメージがどこかしらあるわけです。そうすると、スーパーに大量に並び、定食屋でも食べられるウナギなんぞは、絶滅危惧といわれても、そうなんかいなー? といいたくもなります。たしかに水産庁のホームページにも特設ページがあり、ウナギの漁獲量は激減していて、稀少さが増しているのはわかります。が、まあさすがに絶滅はいいすぎなんじゃね? といいたくもなります。実際、水産庁も「持続的利用を確保」なんていっています。利用を続けるということであって、保護しましょうとかそんなんじゃない、パンダやトキと並べるのはいくらなんでもおおげさなんじゃね? 食べる量が減るから大丈夫なんじゃね。なんて思っちゃうわけですな。

ウナギの漁業生産量の推移(単位はトン) (出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」)

ところで、人間が食べつくして絶滅したものなんか、あるんか? といえばあります。たとえば、「不思議の国のアリス」に登場するドードーがそうですな。18世紀に絶滅したドードーは「のろま」という意味の、不恰好な飛べない鳥です。インド洋のアフリカ沖に浮かぶレユニオン諸島などに生息していて、17世紀に発見されました。ドードーはノタノタと歩き回る巨大な鳥でした。そして美味しく、簡単に取れたのでございます。で、島に立ち寄った船乗りたちが、片端から取って、食べつくしてしまったのです。わずかな標本が博物館におくられ、アリスの作者ルイスが存在を知ることになったんですな。ドードーは近代文明が絶滅を知った初めてのどうぶつで、欧米では「滅びたもの」の代名詞として使うことがあるそうでございます、日本では、まああんまりそんな言い方しませんからピンときませんけどね。ドラえもんの一話で『モアよドードーよ、永遠に』があります。日本人は正しくドラえもんで学びます。藤子先生ありがとう。

ただ、ドードーは弱いし、数もすくないから絶滅しやすかったといえますね。別の例をだしましょう。強い、デカイ、数も多くて絶滅しそうになったのは牛の仲間のバイソンでございます。バイソンそのものは、もともとヨーロッパにも分布していました。氷河期を生き残ったこの貴重ないきものに、2000年前にローマ人のシーザーが遠征中に遭遇。少しずつ狩られていきます。ただ、19世紀にはちょっと少なくなったのではということで保護がはじまります。現在ではポーランドを中心に世界で4000頭が生息しています。

このヨーロッパバイソンの近縁種がアメリカバイソンですな。これはアメリカ先住民の食料であり、毛皮や道具をもたらすどうぶつでした。16世紀にアメリカへヨーロッパ人がやってきたころには、数千万頭が生息していたようです。ところが、19世紀末、先住民と鉄道を通すための土地の奪いあいをした入植者が「兵糧攻め」にするために取りつくしたのだそうです。鉄砲で無差別に撃ちまくったんですな。なんと、数千万頭が、みるみるうちに減って千頭にまでなったんだそうです。ここでテディ・ベアのルーツにもなった、自然愛好家の"テディ"ことセオドア・ルーズベルト大統領が介入。保護獣となり絶滅はまぬがれました。現在は、1万数千頭が保護区で生息しています。しかし、数千万頭が千頭になるのですから、その気になると人間恐ろしいですね。

ところで、ウナギはどうでしょう? 数は多い、簡単にとれるわけではない、害獣ではない、そして絶滅をだれものぞんでない。であれば、大丈夫かなと思うわけです。ただ、イヤーな先例があるんですね。20世紀のはじめに絶滅したリョコウバトです。

リョコウバトの若鳥(左)、成鳥のオス(中央)とメス(右) (出典:Wikipedia)

リョコウバトは、北アメリカに生息していたハトです。ドードーみたいに鈍重ではありませんし、先住民にとっては、その脂肪でバターをつくるために利用するくらいで主食ではなかったんですね。

そしてなによりメチャクチャ数が多かったのだそうです。それは、鳥類最大といわれ、19世紀の初頭に50億羽と推定されています。50億……ちょっとピンときませんなー。リョコウバトはその名のとおり、渡り鳥だったのですが、ある記録では「渡りの群れが空を真っ暗に染め、それが三日間続いた」なんてあるくらいなのです。それが20世紀の初頭には一羽残さず絶滅しました。人間が狩り尽くしたのです。

なぜリョコウバトはそんなに狩られたのでしょうか。それは、美味しかったからです。「空を黒く染めるほど」大量に飛ぶリョコウバトは簡単にとれました。棒でたたき落とすこともできたそうですし、鉄砲で撃てば目をつぶっていても当たったのだそうです。そこで、アメリカ人は、渡りの季節になるとリョコウバトを大量にとりはじめます。美しい羽根も利用したそうです。

また、リョコウバトは、ひとつの森を占領して巣作りをおこないました。狭い範囲に何千万羽が集中したのだそうです。そこでも網をかぶせたり、巣をつくる木を切り倒すなどすると、手軽に大量の、トン単位のリョコウバトを取ることができました。あまりにたくさん簡単にとれるので、ブタのエサにしたりもしたそうなんですな。ブタのエサですよ。なんともかんともですな。当初は1羽1セント、まあ1円! で取引されていたそうです。ところが、その味がうまいという話がだんだん広がると、数年後にこれが1ダース1ドル、10倍くらいに値上がりしたんですね。そうなると商売としてうまみがでてきますので、遠征してでもハンティングするという話になります。

そうこうしているうちに、リョコウバトはみるみる減っていきます。「なんか最近あまり見かけなくなったよねー」と一部ではいわれていたのですな。で、1羽1セントだった時代から50年後の19世紀半ばには、保護がいわれるようになったのですが「いや、たくさんいるし、その必要はないでしょう」という意見が、多数が占めたのだそうでございますな。

しかし、さらにもう10年立った1867年には、各州が保護法を成立させはじめます。本当に少なくなったのですね。それでもその10年後の1878年には、10億羽の群が確認されていました。ハンターは1日300トンのハトを狩ったのだそうです。さらにその4年後の1881年には、100万羽の群がいました。しかし1893年以降は、ハンティングしても商売としてなりたたないまで数が減ったのです。せいぜいが自分用にちょっと狩ろうというくらいになったのです。

1896年には、100羽くらいの小さな群がなんとか確認できる程度になりました。そして1907年には、最後の1羽が撃ち殺されました。あとは動物園にいたハトが1914年に生き延びてそれが最後になりました(以上、ロバート・シルヴァーバーグ『地上から消えた動物』早川書房参照)。50億羽が、たった100年で絶滅してしまったのです。なんだそりゃー、でございます。

リョコウバトの絶滅は、過度のハンティングによるものです。ただ、一方で保護も試みられていたのですが、ダメでした。なぜかというと、リョコウバトの繁殖方法がよくわかっておらず、その環境を人間が作り出せなかったのです。リョコウバトは、いまでは何千万羽という大量の群があってはじめて繁殖できる生き物だったことがわかっています。1年に生む卵は1個。それを集団で守ってようやく数を維持していたのですな。また群を収容できる巨大な森や、渡りの途中でエサを取るための森が必要だったのですが、これが開拓とともに急速に失われたのです。ハンティングはそれにトドメを指した格好になります。

ここでウナギです。ウナギは平安時代にはもう食べる習慣があったそうですが、まあ、川に遡上してくるのをちょいととって食べるくらいでした。それが、江戸時代には「土用の丑の日」のキャンペーンがはじまり、ウナギを盛んに食べるという風習が生まれました。いまではスーパーが大量に仕入れるようになりましたね。これは養殖による大量飼育が可能になったのが大きいですな。現在、ウナギの99%までが養殖ウナギです。養殖は100年ほど前に静岡の浜名湖周辺などではじまります。

で、養殖なんだから天然資源をとらないじゃない? といいたいのですが、養殖といってもタマゴから作っているんじゃなくて、シラスウナギという稚魚をとってきて、それを育てているんですね。タマゴからシラスウナギにする方法や、どうしたらタマゴを産ませることができるか、ということは、最近までわかっていませんでした。そもそもウナギが自然にタマゴを産み育てる場所も、ちょっと前までナゾだったのです。2009年に「うなぎ博士」こと塚本勝巳先生(当時東大、現在日本大学)が、日本のはるか南方沖合の深海で天然のタマゴを初めて発見して、ようやくウナギのナゾが解明されようとしているところです。

一方で、ウナギの卵からの養殖も試みられていますが、「何を食うのか」「どうすればよく育つのか」などが手探りの状態で、いまのところシラスウナギ、つまり稚魚1匹つくるのに1000円以上かかるのだそうです。これを育てたら、ウナギ一匹何千円になるのはまちがいなく、蒲焼きになると1万円以上にはなるでしょうね。まあ、ひきあわないわけです。

ニホンウナギは、2013年にレッドデータブックに、2014年には国際自然保護連合(IUCN)により、絶滅危惧種の指定を受けています。うなぎ博士の塚本先生は、ウナギはハレの日だけ食べて、絶滅しないよう守ろうとよびかけています。私も、実はウナギは大好物なんでございますが、でも、まあ、大切なときにだけかみしめていただこうくらいに思っております。繁殖環境がよくわからないまま、保護できず、おいしいから取り尽くす。100年前のリョコウバトの二の舞にしたら、取り返しがつきません。

ちょっと社会派なお話でございましたが、絶滅のサイエンスということでご容赦くださいませ。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。