2026年のノーベル賞。サイエンスの3部門が決定しました。いずれもおもしろいのですが、ここでは宇宙を主戦場とする東明が得意な物理学賞、フランシス先生がとった「アイスキューブでニュートリノ」について紹介します。ビッグサイエンスとしてムネアツなものでございますよ。

2026年ノーベル賞、サイエンスの3賞が決まりました

毎年おなじみ、10月上旬のノーベル賞週間。生理学・医学、物理学、化学のサイエンス3賞が決まりましたねー。正しくはスウェーデンのノーベル財団のホームページを。

化学賞は日本人の硤合先生が受賞

日本でのニュースはなんといっても、東京理科大学の硤合憲三(そあいけんそう)先生が「有機合成における不斉自己触媒」いわゆるSoai(そあい)反応の発見で、化学賞に輝いたことです。関連した「非線形効果」をしていたパリ・サクレー大学のアンリ・カガンさんと2人での受賞で、研究そのものは30年前です。

ざっくり説明すると。私たち人間をふくむ生き物や食べ物の材料である「アミノ酸」には、鏡に映したような左右の関係の2種類があり、それを「左手系」「右手系」といいます。どういうわけか生き物は「左手系」ばかり使っているのです。化学合成すると両方同じ分量できちゃうのに、なぜというのが疑問です。硤合先生たちは、ほんのちょっと差があると、それが増幅してどちらかばっかりになるという反応を見つけたのです。人工と自然で違いがあるの(生命の左右性の起源)を解明する大きな手がかりを与える大発見だったので、そりゃノーベル賞にふさわしいよね。という感じですな。ちなみに2001年のノーベル賞もキラリティ(といいます)の関係で野依先生が受賞していますね。

生理学・医学賞の「光遺伝学」もすごい!

一方。生理学・医学賞は、光をピンポイントで脳の組織にあてると、特定の神経細胞だけをオンオフできる、脳のプログラミングみたいなことができるというものでございます。これで記憶・感情・行動の仕組みを解明することができる光遺伝学という新しい学問が開かれ、アルツハイマーや鬱など脳に関する様々な病気の解明に光明が見えてきました。

3人の受賞者の中で一番若い米スタンフォード大のカール・ダイセロスさんは臨床にも関わる精神科のお医者さんでもあり、医師としての現場の強い思いが、最先端の研究領域を立ち上げたのですな。

受賞がわかったとき、家族と喜びをわかちあう様子が大学のインスタグラムで公開され話題になりましたが、カール博士に飛びつくお嬢さんや、「すげー、すげー」といいながら、表情を大きく変える息子さんの表情など、いやー、こっちが嬉しくなっちゃうような光景です。

両方とも、ほんとおもしろく、サイエンスが問題を解決し、未来を明るくする力を持つことを示す素晴らしい研究だと思います。ノーベル賞にふさわしいですなー。

なんといっても、物理学賞の「アイスキューブ」がムネアツなのです

そして、東明的には、なんといっても物理学賞でございます。生理学・医学賞や化学賞は、実験室でコツコツと作業して成し遂げた研究ですが、物理学賞の「アイスキューブ」は、1キロ四方におよぶ巨大な観測装置を作り、稼働させ、それによってはるか彼方の銀河のブラックホールを観測するというもので、文字通り「ビッグサイエンス!」なのです。

受賞は「アイスキューブ・ニュートリノ観測所への決定的な貢献、および天体起源の高エネルギーニュートリノの発見」でございまして、受賞したのは、このアイスキューブプロジェクトをたちあげ、推進した米ウィスコンシン大学のフランシス・ハルツェンさんです。

日本の千葉大学も参加している、多国籍の国際プロジェクトをまとめ上げ、その意義をとき、予算をとり、世界で一式しかない観測装置を組み上げる……うん、先日ご紹介した宇宙望遠鏡のようなビッグサイエンスなのですが、いや、極北といっていいすごさです。

通常こういう受賞では、発見された事実(たとえば重力波だとLIGO観測装置ではなく、重力波の検)が受賞理由ですが、こちらは観測装置を作ったこともセットですね。というのはこれは、すんごいものだからです。

巨大です。1キロメートル四方の観測装置です

  • 地下2450mまで86本の穴を掘り、それぞれ60個、合計5160個の光センサーを吊り入れてます。
  • 光センサーは、この深さに広がる 厚さ1kmの氷の層 に展開されています。
  • アイスキューブ

    Image credit: IceCube Collaboration (icecube.wisc.edu)

大きすぎてなんだかわかりませんな。ペーパークラフトの型紙もあるので作ってみてはどうでしょうか。ビデオなどもたくさんホームページにあるし、観測所の雰囲気などもよくわかりますよ。

あ、そうだ、日本にもニュートリノ観測でノーベル賞をとった、カミオカンデ、スーパーカミオカンデがあるじゃあないですか。連載第61回で紹介しましたなー。編集部に下のような絵を書いてもらいましたが。

  • スーパーカミオカンデの水タンクの大きさ

アイスキューブはこうです。

  • アイスキューブの大きさ

東京近辺の人以外には、わかりにくいたとえですみませんが、まあこんな感じになります。

しかし、このでかさだけではないのです。

南極点に観測装置があります。人も常駐しますが半年間はどこにも行けません

おい、なにそれ? と思いますが本当です。

南極点には、アメリカがアムンゼン・スコット基地という観測基地を持っているのですが、これが、維持が大変で、世界最強国家アメリカだからやれるということでございます。

冬はアクセス不能になるので、宇宙基地のように半年間100人の隊員は閉じ込められます。標高は約2800mです。輸送は米軍の軍用輸送機が使われます。寒くて、しかも高地で初速を稼ぐためにロケットで加速するなどします。かつて急患が出たときはその救出「作戦」が話題になったほどです。

さて、このアムンゼン・スコット基地のすぐ横にアイスキューブ観測所はあるのです。

もちろんメンテナンス要員がいなければいけません。アメリカ人がやるんだろう? いや、このプロジェクトは国際プロジェクトです。実は日本人でそのメンテナンス要員になった人がいるのです。日本物理学会では、今回のノーベル賞に関係してたくさんの記事や論文を無償公開していますが、この中にメンテナンス要員となった牧野友耶さんの、とってもおもしろいエッセイがあります。おすすめ!

なぜ南極点?

さて、なぜ南極点なんでしょう。穴ほってセンサー作るだけなら、もっとやりやすいところがありそうなものです。その理由は。

  • そこにキレーな氷が大量にあるからー。

アイスキューブは、ニュートリノという幽霊粒子ともよばれる、超絶見えにくい素粒子が物質にぶつかった反応で生じた粒子が出す光(チェレンコフ光)をとらえます。ニュートリノは、地球そのものを貫通するくらい、ぶつからない素粒子なので、できるだけたくさんの物質を用意する必要があります。しかも透明でないと、そこで発生した光が観測できません。

そこで氷なのです。南極なら氷は売るほどあります。しかも南極点は2000mをこえる分厚い氷の上にあるのです。そして、地下深くで圧縮された氷は内部の気泡が押しつぶさ…

  • 非常に透明になり、なんと、100m向こうが見えるほど

だというのです。

これを利用することで、ニュートリノを測定しよう。しかも、めったに発生しない強力なニュートリノを観測して、宇宙の謎を解こうというのがこのプロジェクトなのですね。

天の川銀河の外からやってくるニュートリノを捉えた

ニュートリノはなんか特別な感じですが、実は太陽の核融合反応で毎日大量に発生しています。そして、太陽のニュートリノは様々な方法で測定されています。しかし、これは太陽が特別近くにあるからできることなのでございます。また、ニュートリノは加速器などで人工的に作ることができますので、それを使った測定なども行われています。

それに対し、1987年には10万光年以上離れた、大マゼラン雲からのニュートリノが10粒あまりですが測定されました。これは超新星爆発という肉眼で見えるのは100年に1回くらいしかおこらない(実際400年ぶりだった)、星全体が一気に吹き飛ぶ大事件だから可能だったのです。

アイスキューブは、さらにずっと遠い宇宙で起こる、超巨大ブラックホール周辺でおこる現象などの超高エネルギーニュートリノをとらえました。めったにおこらないので、スーパーカミオカンデやいま建設中のハイパーカミオカンデでもキャッチできません。超巨大な装置が必要なのです。

アイスキューブは、こうしたはるか宇宙の彼方からくる高エネルギーニュートリノを捉えることに成功しました。しかも、2013年の初検出、2017年にブレーザー起源、2022年活動銀河核からがわかるなど、様々な現象をとらえていますし、これからも捉え続けられるはずです。そして1912年の高エネルギー宇宙線の発見以来の、起源の謎を解く大きな手がかりが得られているのです。

ムネアツなアイスキューブ。ノーベル賞によって私も楽しく知ることができました。ありがとうノーベル賞。おめでとうフランシス博士と、千葉大学をふくむ、世界のアイスキューブチームの皆さん!