青空や青い海はいつも見えても、青い壁はあまり見ません。青色LEDは最後まで作るのが難しく、河原に真っ青な石はまずありません。赤や黄色や緑のカラフルな野菜やフルーツはありますが、青い食べ物はありません。青色は身近なのに、身近じゃない色なのでございます。今回は、話題の名画でも印象的な、青色なはなしをいたしますよ。
子供のころから青色が好きでした。絵具は青から使い、青い海を眺め、沖縄に行った時の黒いかというくらいの青い空のときめき、以来、なにかというと南国に行きたがる私でございます。三原色に登場し、ベーシックな色の青。フットボールでもサムライブルーにアズーリ(イタリア)、フランス代表も青いユニフォームでジダンですな。フットボール国別では、赤についで青ユニフォームが多いそうで、結構、みなさん青が好きなのね、ナカーマという感じでございます。
さて、青ですが、イントロで書いたように、空と海は青なのですが、自然物で絵具のような青はとんと見かけません。青魚といっても銀色で背中が青黒い感じですしね。熱帯魚には真っ青な奴もいますし、ロブスターでも青いのがいたかなあ。まああまり見かけませんが。その辺にいない熱帯魚は青いのがいて、水族館やペットショップでつい見とれてしまいます。青いバラはサントリーなどが開発しましたが、幻の花でした。ケシは青いですけどね。あ、そうそうムーミンの家の壁は青色ですが、世間ではあまり見かけませんな。
まあ、お隣の韓国の大統領府は青瓦台で、青磁を瓦として使う贅沢な建物でございます。そして中東では青色の鉱物ラピスラズリを贅沢につくったモスクなどがあるのでしたが、たしかラピスラズリは取りつくしてしまったとかそんな話でした。
さて、青色ですが、なぜそんなにないのかというと、まず非常に不安定だからです。ものが青く見えるとき、その物質は、青色を反射し、赤や黄色の光を吸収しているということになります。植物ではアントシアニンというナスや紫キャベツの色を出す物質がそれにあたりますが、いや青じゃないですよね。本当に青になるのはアントシアニンのサブグループのデルフィニジンなのですが、これが「弱アルカリ性」「アルミニウムがある」「他の色素とのコラボレーション」が同時におこらないと青にならんのでございます。だいたいほとんどの生き物の外側は弱酸性でございますから、いきなり躓くのでございますな。
モルフォチョウやアオスジアゲハのような見事な青色もあるのですが、あれは色素ではなく、CDが虹色に見えるような構造色です。そういったら空の青は大気分子のレイリー散乱が青色を散らしやすいので、太陽から離れた方向からくる光が青ばっかりになるからですし、海が青いといって、海水をすくえば透明なわけで、これまた青いのは水がわずかに赤い光を吸収しやすいからそう見えているんですな。ただ、少量だとそれが効かず、大量の水があってようやく青っぽく見えるというわけなのです。風呂くらいだと透明ですしねー。
さて、そんな中、アフガニスタンのサリ・サンガ(Sar-e-Sang:石の頂の意味)鉱山で、真っ青な石が発見されます。ラピスラズリ(瑠璃)でございます。発見は7000年前ともいわれています。アフガニスタンは国のほとんどが数千メートルの高地で、最高峰は7000メートル級のノシャック山。首都のカブールも標高1800メートルという内陸の山岳国家です。その山奥の3500~5000メートルの高地にあるサリ・サンガから青い石が産出することを、いったい誰が気が付いたのか。ともかくこれが鉱物として人類が最初に利用したものとされているのですね。綺麗な石、みんな好きでしょってわけです。
さて、このラピスラズリですが、石灰岩にマグマが突っ込んできて熱変性をして誕生した(スカルン鉱物というんですって)ことがわかっています。石灰岩はセメントの元で、そもそもがサンゴ礁。日本には太平洋から海底が移動しておしよせた石灰岩の山がわんさかあって、セメントの自給にはこまりませんし、熱なら火山がわんさかある国ですから、ラピスラズリがありそうなもんですが……ないです。あ、ついこの間、日本の糸魚川でも発見されたとニュースになっていましたな。
さて、このラピスラズリは、他にない青色(ラジュール→アズーリ)であることから珍重され、交易を通じて世界中に広がります。アフガニスタン周辺のペルシア(イラン)やインド、トルコにエジプト、ロシア、中国、そして日本でも正倉院の宝物にラピスラズリが入っています。ウズベキスタンの世界遺産「青の都」サマルカンドに見られる、ラピスラズリとトルコ石のアラベスク模様の建物は、富や権威の象徴、神聖な場と扱われました。
また硬度が6程度と中程度の硬さなので削って顔料絵具として使われます。ウルトラマリンといわれる深い青が珍重されました。同じ重さの金よりも高かったほどです。
ただ、あまりにも人気で、非常に特殊な条件でしかできない鉱物であるため、良質なものはほとんどとりつくされています。現在も産出はしているものの、かつてのように壁面全体を覆うような大量・贅沢な使い方はもはやできません。
ただ、人類はこの青をなんとかしようとして、色々試みたあげく、プルシアンブルーと言われる顔料を発見します。1706年のことでした。ベルリンの染色職人が偶然つくったのです。プルシアンブルーは、鉄と鉄(フェロ)シアン化合物が反応してできます。鉄から青ができているといってもあんまり間違いではありません。自然界にありふれている鉄でしかもそれほどややこしくなく作れるので、18世紀~19世紀にかけて ヨーロッパで大量生産され、安く、大量に、安定して供給されるようになりました。日本にももたらされ、ベロ(ベルリン)藍の名前で知られるようになります。
そしてこの青に注目したのが、葛飾北斎(1760–1849年)で1820年ごろに盛んにこの青を使って、空と海の版画を量産します。有名なのは富岳三十六景ですな。特に神奈川沖浪裏は、世界的に有名です。これが版画で大量生産されたのがヨーロッパに渡り、ゴッホにショックをあたえて、青い絵を描いたのがゴッホ(1853–1890年)ですな。ゴッホはプルシアンブルーも、人工ウルトラマリンも使っていました。そして、1802年に発明されたコバルトブルーも用いていました。それぞれに違う青を操ったゴッホは、黄色いひまわりでも有名ですが、青のイメージがある画家ですな。
ところで青といえば、今話題の「[真珠の耳飾りの少女(青いターバンをした少女)]https://nakka-art.jp/exhibition-post/vermeer2026/」、フェルメールでございます。フェルメールは1632~1675年。なんとプルシアンブルー以前の画家でございます。つまり彼が使っていたのは、ラピスラズリを砕いた高価な絵具ウルトラマリンだったのですな。当時は金より高かったんですよー。いやー。
さて、今では子供でも青い絵具を使うわけで、いや私も大好きで使いましたが、これはフタロシアニンブルーという1930年代に発明されたものである可能性が高いです。また、ウルトラマリンも1828年には合成できるようになっていますし、19世紀に発明されたセルリアンブルーも使っていると思います。
この原稿を書いている私のデスクには、青い文房具がたくさん転がっていますし、ブルーハワイは青色1号(ブリリアントブルー)という20世紀に発明された色素を使っていますが、これ、実は結構使われています。
現在では、人工の青があふれているのでございますが、自然界にはやはり希少で、CDの色のような構造によってできる色と不安定で色が変わる手品か映え演出に使える、アントシアニン由来のマロ―ブルー(レモンたらすと(酸性)ピンクへ変化)などくらいで、まあ青なら人工的というのはあまり間違っていないのでございますな。
ということで、今回は圧倒的に人工が多い、青色のはなしでした。
あ、日本人が発明した、青色LEDの話までいきつかなかったー。
