太陽が誕生したのは46億年前。以来、地球を照らし続け、生命をはぐくんできました。ところが100万年以内に3分の1に激減するかもというショッキングな研究が50年前に発表。以来30年以上、その懸念があり続けたのでございます。今回は「知識不足による誤診」と分かった、「太陽が、元気なのか」問題についてご紹介いたしますよ。

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太陽のエネルギーはどうなってる?

毎日、恵みの光を届けてくれる太陽。寒くなってくると、ありがたみが増しますなー。そのエネルギー量は4×1026W。1兆Wの1兆倍の4万倍。ほぼ意味不明な膨大さでございますな。一般家庭の年間電気使用量の1兆の1兆倍の10倍が1秒間で出力されます。やはり意味不明でございます。

さて、この莫大なエネルギーですが、何かを燃やすというやりかただと数千年で太陽が消滅する勢いです。恐竜が1億年前に生きていたとか、いやいや、人類の歴史だって数百万年あるぞということを考えると、こりゃダメだ、になりますなー…実際、地球はまあ46億年前に誕生したらしいということは、地球の衛星である月の岩石から割り出されております。で、太陽も光り続けていたらしいということもわかっている。46億年間輝き続けるだけのエネルギー源がほしいわけです。

これを解決する糸口を見つけたのが100年前のアインシュタインさんでございます。彼の相対性理論には、有名なe=mc2という式がでてきます。エネルギーは、質量×光速の2乗…ようは、質量とエネルギーは相互変換できる! というとんでもない式なんですな。しかも、30万km/sという光速の2乗がかかる。質量が1gでも、これがエネルギーに変換(質量は消滅)すると、90兆ジュールのエネルギーに変わります。カロリーだと20兆カロリーですな。4億リットルの冷水を温泉にするくらいのパワーです。えーお風呂はだいたい200リットルなので、お風呂200万軒分くらいですな。うひょーってなもんです。

さて、太陽ではこの質量→エネルギーがその中心で起こっています。水素4つがくっついて、ヘリウム1つに変わる核融合反応の過程で、質量が毎秒400万トン消滅してエネルギーができているんですなー。ちなみに、このエネルギーは太陽中心で発生しますが、それが太陽の表面まで届くのには100万年かかるってな話を、どこでもサイエンスの45回でご紹介しています。

太陽から飛び出すニュートリノを捕まえろ

ところで、この核融合反応の過程で、熱の他にニュートリノという素粒子が飛び出してくることがわかりました。このニュートリノは、異常に貫通力が強く、太陽の表面に出るのに5秒間しかかかりません。100万年かかる熱とはえらい違いですな。そして、太陽の表面から地球までは、ニュートリノも熱も光速度の500秒で到達します。つまりは、ニュートリノを測定すると、100万年後の太陽のパワーが予想できるわけなんですな。

ただ、ニュートリノは太陽を貫通するだけでなく、地球も貫通します。これは、なんでも突き抜けるというだけでなく、つかまえられない、感じないということでもあるんですな。センサーを一生懸命ならべても、ニュートリノは感じない。ニュートリノは理屈では発生しているのですが、とらえられない。そう考えられていたのです。

この太陽からのニュートリノをとらえることに成功したのは、アメリカのレイモンド・デイビス・ジュニアという科学者です。この業績で2002年にノーベル物理学賞を受賞しています。彼は、ニュートリノといえども、たまーには、何かと衝突して、反応を起こすはず! と考え、400トンもの洗剤(四塩化エチレン)を詰めたタンクを用意し、ひたすらニュートリノと洗剤が反応するのをまったのですな。そして20年以上もかけて数千個のニュートリノをとらえたのです。1年あたりだと100個、1日1個つかまえられるかどうかです。400トンで1個です。もう、とてつもない根気と技術としかいいようがありません。

デイビスさんはえんえんとニュートリノをとらえ続けて、問題をみつけました。太陽からはまちがいなくニュートリノが来ているのだけど、量が少なすぎる。多く見積もっても予想の半分かそれ以下しかないのですな。となると、100万年後には、太陽の熱が半減してしまうのではないかということにもなりかねないのです。一方で、太陽はかなり安定しているとも考えられていて、そんな100万年ごときで変化があるとも考えにくいわけです。

これが「太陽ニュートリノ問題」といわれ、1970年頃からデイビスのデータが明らかになりはじめると、業界をザワつかせていたネタなのでございますな。

これがなぜか? というのはもちろん100万年後にパワーがというのもありました。でもまずは「デイビスがまちがってるんじゃね?」という話になります。デイビスは根気強くエラーを取り除き、20年以上もの観測でワシのデータはまちがっとらんと主張しつづけました。一方、他の方法で太陽からのニュートリノを測定することも行われました。日本のカミオカンデ装置による観測でもやはり、量が少ないことがわかり、デイビスの正しさが明らかになったんですな。

太陽ニュートリノ問題を解決した日本人

そこで、そもそも核融合の理論がまちがっているのでは? とか太陽の中心部のモデルがまちがっているんでは? とかいろいろでたのですが、当初からいわれたのは、ニュートリノが3種類あるので、デイビスやカミオカンデの実験で測定できるニュートリノから、測定できないニュートリノに化けたのでは? ということでございました。つまり全体の量はかわらないんだけど、測定できなくなったということですね。これが「ニュートリノの振動」といわれることでございます。ただ、それが起こるには、ニュートリノは質量がないという理論を修正しないといけないので「ほんまかいな」ともいわれていたのです。

このナゾを解いたのが、日本の梶田隆章さんと戸塚洋二さんらが、スーパーカミオカンデ装置で行った観測実験です。宇宙放射線と地球大気との衝突で発生する「大気ニュートリノ」を測定し、地球の表側と裏側とでニュートリノの検出量がかわる。つまり、ニュートリノが途中で化ける「ニュートリノ振動」がおこるという証明でした。

さらに、アメリカのアーサー・マクドナルドさんが、複数の種類のニュートリノを測定し、太陽からくるニュートリノの総量は理論通りで、ニュートリノ振動による変化も梶田さんたちの実験に一致することを確認したのでございます。これが2001年のことでございました。

ということで21世紀になって、ニュートリノ振動というニュートリノ理論を修正する現象の確認のうえに、太陽ニュートリノ問題は解決したわけなのでございます。人類の未来の危機を救ってくれた…いや、安全を確かめてくれたわけですな。梶田さんとマクドナルドさんは、この功績で2015年にノーベル物理学賞を受賞しています。

ということで、この50年間ほど、科学者の間で「太陽は、元気がなくなるんじゃね(1970年ごろ~の問題、2002年ノーベル賞)」「いや、そんなことはなく誤診でした(2001年に判明~2015年ノーベル賞)」というジリジリするような研究がおこなわれてきたのでございます。もし、本当に元気がないということでも100万年後(もしかしたらより近い将来)の話ではあったわけですが、世の中結構、そういう話があるのでございます。

ということで、いろいろあったけど、とりあえず、太陽は元気なようです。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。