LiDAR 挿絵

今回のテーマは「LiDAR(ライダー)」だ。LiDARとは、端的に言えばレーダーに類似した技術だ。

しかし、私たちはレーダーという言葉を普段使いし、「何となく、何かを検知してくれる機能」程度の認識はあるが、それがどういう仕組みか、などはあまり考えたことがないと思う。

私が「レーダー」に初めて触れたのは、漫画「ドラゴンボール」の「ドラゴンレーダー」ではないかと思う。作りは非常に簡素で、ボタンを押すと画面にドラゴンボールがどこにあるか表示される、という物だった。当時はドラゴンボールで欲しいアイテムと言えばスカウターだったが、今ではこっちの方が欲しい。

日常生活で取引先のおじさんの戦闘能力がわかっても、殴り合いにならない限りは意味がないし、殴り合いになった時点でその取り引きはダメだろう。それよりは、いつの間にか神隠しにあう、スマホや家の鍵、財布を見つけてくれるレーダーがほしい。

現実の「レーダー」の定義からすると、ドラゴンレーダーが発した電波がドラゴンボールに当たると、その電波を反射する。その反射された電波がレーダーに返ってくる時間から、ドラゴンボールまでの距離や位置が算出できるという仕組みになる。

ただ、ドラゴンレーダーは現実のレーダーと違い、ドラゴンボールの放つ電波をキャッチしているそうだ。鳥山先生は、「背景を描くのが面倒だから、早めに街を破壊するか、荒野に移動させていた」という逸話を持つ方なので、実際のレーダーの理屈まで考慮に入れていたかは定かでないが、理屈としては現実のそれに近い。

また、作中では「ドラゴンレーダーで検知できないドラゴンボールがある」という展開もあったと思う。そして、それは現実のレーダーでもあることだ。

レーダーの電波は、特定の物質は反射せずにすり抜けてしまうし、30メートル以内の近距離だと扱いが難しくなるという。30メートル以内なら、レーダーを使わず自分で探せや、という気もしなくはないが、半径30メートル内で神隠しにあったスマホを見つけ出すのは、思ったより大変である。

自動運転で注目される「LiDAR」

うっかりレーダーの話ばかりしてしまったが、今日のテーマは昨今注目を集めている「LiDAR」だ。レーダーと「LiDAR」の違いは、レーダーは電波だが、「LiDAR」は光を使う点である。

「LiDAR」の用途はさまざまだが、注目されている理由としては、自動運転車のセンサとして重要なものになってきているからだ。自動運転には画像認識のためのカメラやミリ波レーダーなど、さまざまなセンサが使われているが、特に市街地での自動運転ではこの「LiDAR」が必要不可欠と言われているそうだ。

基本的に障害物がない高速道路と違い、市街地というのは障害物だらけであり、またいきなり障害物が現れることもある。その障害物を瞬時に検知、さらにそれが人なのか、謎の片方だけ落ちている軍手なのかを形状から判断し、減速やブレーキ、逆にアクセル、などの対応をしなければならない。

相手がおキャット様なら「自爆」をして、おキャット様を守る機能も必要だろう。

一秒あたり何百回も周囲検知を行う「LiDAR」なら、それらを素早く、かつ正確に行うことができる。もちろんそのためには高性能「LiDAR」が必要であり、そのためのコストはかかるが、この「LiDAR」をケチったがために事故を起こした、と目されている事案もある。

おそらく「LiDAR」にかかるコストより、人を轢いた方がコストはかかると思うので、ここをケチった自動運転車で市街地を走るのは、いろんな意味で自殺行為だ。

このように、自動運転技術は実用化に向けて、さまざまな面で技術が向上しているのだが、本当に実用化したら「責任の所在」がますます複雑化してしまうのではないか。

この車によって起こった事故は全部車の責任です、と言われたら、いくら車に興味がない私でもその車を買うと思うが、それでは自動車メーカーが追うリスクがあまりに高くなってしまう。海外では、「技術的な問題によって事故が起こった場合は自動車会社側が賠償する」と言っている企業もあるそうだが、現状の自動運転レベルでそれなら、もし完全自動運転車となったら、車体価格が1億円ぐらいじゃないと採算が取れない気がする。そうなったら一般に普及するのはまず無理である。

最近、高齢者の運転ミスによる事故のニュースを良く見るので、90歳以上の高齢者が運転するよりは自動運転の方が遥かに安全になるのは間違いないだろうが、それでも事故率0にはならないだろう。

それに前者なら、事故の原因は「ジジイがアクセルとブレーキを間違えた」という単純明快なものになるだろうが、自動運転車になるとそうはいかないと思う。しかし、原因を明確にしないと「自動運転車に『轢かれた』時」、困ることになる。即死なら自分が困る余地はないが、それでも残された者がどこに責任と賠償を求めていいかわからなくなってしまう。

日本は、「たとえ相手が道路の真ん中に寝ていても、轢いた車の方が悪い」とされる国である。国としても自動運転は推進したいため、実証実験をやりやすくする規制緩和も行われたそうだが、欧米のほうで所により自動運転車を公道でガンガン走らせているのと比べると、対応はかなり慎重だ。

もし自動運転技術が完璧に近づいていっても、「車に乗っている方が悪い」今の交通ルールになじんでいる層がピンピンしているうちに普及を完了させるのは、少々難しそうな気がする。

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カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)、「カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄 - 」(2018)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年7月3日(火)掲載予定です。