クルマの整備やメンテナンスがこれまでよりも簡単に、SDメモリカードを差し換えるだけで済むようになるかもしれない。ただ、それ以上にNAND型フラッシュメモリ(NANDフラッシュ)の需要が増えそうだ。特にクルマが通信ネットワークにつながるにつれ、大容量のNANDフラッシュが必要になることが見えてきた。

サンディスクが、新たに車載用のNANDフラッシュSDカード(図1)を4月に発売するが、その狙いはこれからのクルマには大容量のNANDフラッシュが使われるという見込みを持ったからだ。大容量の不揮発性フラッシュメモリは現在NANDしかない。フラッシュメモリとしてはNANDよりも高速なNOR型もあるが、メモリ容量が小さい。手頃な価格で大容量の不揮発性メモリはNANDフラッシュしかないのである。

図1 サンディスクの車載用SDカード

NANDフラッシュを搭載したSDカードはこれまでもカメラやビデオ、パソコン、プリンタなどに搭載されてきており、実績を有している。今度はこのSDカードをクルマ用に展開しようという訳だ。クルマ用の半導体ICにはAEC-Q100というAEC(Automotive Electronics Council)が定めた標準規格があり、この規格の求める品質基準を満たさなければならない。AECは大手自動車メーカーと米国の電子部品メーカーが設立した車載用電子部品信頼性の標準化団体で、自動車用の品質管理規格を定めている。半導体ICにはAEC-Q100、ディスクリート半導体にはAEC-Q101といった規格がある。今回、SanDiskが販売するSDカードはこのAEC-Q100認定を取得している。

なぜ、クルマに大容量のNANDフラッシュが求められるようになってきたのか。それはクルマがコネクテッドカーと呼ばれるように、外部のワイヤレスネットワークや、車車間通信、路車間通信など車外とワイヤレスでつながることで、クルマ側に大容量ストレージを載せるべきだという新たな要求が出てきたからだ(図2)。

図2 通信ネットワークとつながるほどストレージも拡大 (出典:サンディスク)

例えば、地図データをもっと高精細にしたり、3次元情報を取り入れたりするなどデータ量が大幅に増える方向にある。加えて、インターネットを通じてクラウドとつながるようになれば、クルマのコンピュータにOSやミドルウェア、あるいはアプリケーションソフトウェアでさえ、更新できるようになる。このため、大容量ストレージを持つ必要が出てきた。OTA(On-The-Air)と呼ばれるようにワイヤレスネットワークで新しいソフトウェアをインストールする場合には、ストレージにデータを保存しておき、インストール後に引き出せるように一時的にせよ、大容量のストレージが必要となる。

さらにクラウドとつながるようになれば、クラウドを通じてすべてやり取りするのでは間に合わない用途も出てくる。例えば、ADAS(先進ドライバ支援システム)や車車間通信、認識が必要な処理など、クルマの中にある程度十分なメモリを積んでキャッシュ動作に備えなければ、リアルタイムで応答できなくなってしまう。だからクルマ側に大容量のメモリが必要になる。

さらに今回のクルマ用SDカードには、「スマート機能」と呼ぶセキュアな6つの機能を搭載した(図3)。

  1. ヘルスステータス
  2. 電源遮断機能
  3. リードリフレッシュ
  4. プログラム可能なストリングを内蔵
  5. ホストロック
  6. 安全なファームウエア更新

図3 セキュリティを上げた「スマート機能」 (出典:サンディスク)

1の機能は、カードの健康状態を見る機能である。NANDフラッシュは、同じ場所のメモリセルを多数回書き換えているとメモリセルが劣化してしまうことがある。このため、できるだけ、いろいろなメモリセルに書き込むようにしている。ここでは、メモリセルが劣化しているかどうかを検出する。まだ劣化していないのに交換すればコストの無駄になる。正確に診断し、劣化を検出してからカードを交換すると、コストを節約できる。

次の2の機能は、突然予期せず電源が遮断されてもデータを保護する機能である。突然遮断されると、オンからオフに移る時に大きなサージを発生することがあり、メモリエラーにつながる恐れがある。ここではデータを保護してエラーを防いでいる。

3の地図データなどで同じ場所を何度も読み出す場合、読み出しディスターブ現象が起こり、最初に蓄積したはずの電荷が減ってしまうことがある。そのような場合は再書き込みしてセルをリフレッシュする。ここでは自動的にリフレッシュするようなアルゴリズムを開発、読み出し耐性を強化している。

4のプログラム可能なストリングとは、シリアルメモリにSDカードの特性を書き込んでおき、IDとして使うためのメモリ列のことである。ここにOEMの名前やプロジェクト名、日付などをビット列(ストリング)でIDをふっておく。固有のIDとして認証に使える。ストリング値の長さは32バイト。もし、SDカードの中身を粗悪品に取り換えられたとしても、そのカードのIDを調べればすぐに偽物とわかる。また犯罪者がこのSDカードを盗んだとしても、カギを知らない限り使うことはできない。

5のホストロックとは、カードそのものをセキュアに保護するため、パスワードでカギをかけておくこと。これによりカードを他の機器に差し込んでも使えないようにする。

最後の6となる安全なファームウェア更新とは、OTAなどを通してファームウェアを更新する場合、フィールドでもセキュリティが保たれるように、暗号キーと認証キーを使った二重の保護機能を採用したことを指している。

これらのスマート機能は、NANDフラッシュ内のメモリを制御するコントローラIC内に集積している。これら6つの機能は、新たにプロセッサチップを開発して実現した訳ではないという。クルマにもNANDフラッシュが搭載される時代が来たと言えよう。