飛行機に限らず、例えば部屋でも何でも同じだが、スペースが少なくなれば、収納できるものは少なくなる。物理的に当然の話である。ところがときとして、「スペースはないけれども、どうしても積みたいものがある」ということが起きる。そんな難題に対する工夫の一例を、スウェーデンでJAS39グリペンを見ていて発見した。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
フレア散布祭り
2026年8月22~23日に、スウェーデンのリンシェーピンにあるマルメン空軍基地で行われたスウェーデン空軍100周年を祝うエアショーは、当然ながらサーブJAS39グリペンが主役。同機だけでも複数回の展示飛行が行われた。
その中でも見ていてしびれたのは、4機でダイヤモンド編隊を組んだグリペンが上昇あるいは旋回しながら、フレアをバンバン散布する場面。さながら在庫一掃セールの趣がある(そんなわけがない)。
バンバン散布するには、それに見合った大量のフレア・カートリッジを搭載できなければならない。しかしグリペンは小さな機体である。
小さなグリペン、でも必要な装備は減らせない
「余計なものを積めないように小さく作った」といわれるのがゼネラル・ダイナミクス(現ロッキード・マーティン)のF-16ファイティングファルコンだが、グリペンはもっと小さい。しかし、戦闘機としての任務を果たし、かつ、生き残るために必要な道具立ては積まなければならない。
まず、左右の翼端に空対空ミサイル専用のランチャー・レール、翼下に2ヶ所ずつの兵装ステーション、胴体下面のセンターラインに兵装ステーションを備えており、これで合計7ヶ所。さらに、右側空気取入口の下にステーションがひとつあるが、これはターゲティング・ポッド専用のようだ。
これらは直接的な交戦の手段だが、それに加えて我が身を護る自衛用電子戦システムも必要になる。
まず、敵レーダー電波を逆探知して脅威の存在を知るためのBOW-21レーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)。ところがRWRのアンテナは、位相差をとって脅威の方位を割り出せないと仕事にならないし、全周をカバーできる必要もある。
そこで、翼端に取り付けたランチャー・レールの前後端にアンテナを組み込んだ。妨害装置の方は、垂直尾翼の前後に突き出たブームに組み込んでいるようだ。
新しいJAS39E/F型は新型のAREXIS電子戦システムを搭載するが、それの機器を組み込んだ関係で翼端のランチャー・レールが大型化した。この方法なら、兵装搭載能力は損なわない。
また、囮となるチャフやフレアを散布する手段として、尾部の右舷側にBOP/C(BOY403とも)ディスペンサーを組み込んでいる。上向きに3台、下向きに1台。セル数は1台につき20あり、それぞれ20~40発のデコイ・カートリッジを積める。
兵装パイロンにディスペンサーを組み込む
しかし、これだけではデコイの数が心許ないと考えたようだ。実は、グリペンは一般的なチャフ/フレア・ディスペンサーに加えて、ユニークなディスペンサーを2種類搭載できる。
まず、翼下に2カ所ずつある兵装ステーションのうち外舷側で、パイロンの後端にBOP/B(BOY402とも)というディスペンサーを組み込める。これはパイロン後端に直径55mmの発射筒を6本(2列×3段)組み込んだもの。チャフ/フレアのカートリッジを12~18発搭載できるというから、個々の発射筒には前後に2~3個ずつ並べるのだと分かる。
このBOP/B(BOY402)からは、曳航式デコイBO2Dを繰り出すこともできる。ワイヤーで母機とつないだまま飛行するため、後方向きの開口がないと具合がわるい。すると、兵装パイロンの後端部は好適な搭載位置となる。それに、外翼から後方に繰り出せば、エンジン排気の直撃も避けやすそうだ。
なお、このBOP/B(BOY402)は、フィンランドのサーブ35ドラケンも装備していたそうだが、こちらは後部胴体の両側面に取り付けていた由。
もうひとつが、AIM-120 AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile。スウェーデン空軍ではRb99という)空対空ミサイル用のランチャー・レールと一体化する、BOLディスペンサー。
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AMRAAMを吊っている外舷側兵装パイロンとミサイル本体の間に、ランチャー・レールを介している。そのランチャー・レールの後端に付いているのがBOLディスペンサー。これなら場所をとらないし、空気抵抗の増加もほとんどないだろう 撮影:井上孝司
普通、チャフ/フレア・ディスペンサーといえば火工品(ひらたくいえば火薬)を用いてカートリッジを撃ち出すが、それをしないのがBOLの面白いところ。BOLは左右に張り出しを備えていて、その前端に空気取入口がある。ここから取り込んだ空気の流れを用いて、カートリッジを後方に放出する。
しかも、張り出しの後端を見ると互いに向かい合うように曲げて排出する構造で、かつ、左右で段差を付けてある。すると、左右から吹き付ける気流によって渦が発生する。そのただ中にチャフやフレアが押し出されるから、渦流によって広く拡散する。
機体を横転させながらチャフやフレアを散布する方法でも拡散はできるが(これはエアショーの現場で観たことがある)、いちいちそこまでやっていられる余裕があるかどうか。しかしBOLは、水平直線飛行をしていても、自ら渦流を作り出してデコイを拡散する。
そのカートリッジは四角く薄い板状で、それを立てて160枚並べた状態でケースに入れて、後方から装填する。繰り返すが、160枚である。ひとつのディスペンサーで、こんな多数のデコイをばらまけるのは珍しい。
再装填の際には、レバーを回してロックを解除して、後方からケースを装填して、レバーを回してロックし直せば終了。1分とかからずに再装填できるとされる。
パイロンと一体化、兵装ステーションをつぶさない工夫
BOP/B(BOY402)にしろBOLにしろ、兵装パイロンの後端に組み込む構造だから、チャフやフレアを追加搭載するために貴重な兵装ステーションを使わなくてもいい。しかも、この構造なら空気抵抗の増加も最小限に抑えられる。
実は、兵装パイロンにディスペンサーを組み込むのはサーブだけの話ではなくて、デンマークのテルマでも同じようなことをF-16向けにやっている。ただしこちらは、火工品を使用する一般的なディスペンサーを兵装パイロン内部に、横向きに組み込む構造。
だから設置位置は翼下の外舷側パイロンに限定され、かつ、外向きに放出するように設置する必要がある。内側に向けたり内舷側パイロンに設置したりしたら、自機にぶつかってしまう。
設置位置は制約されるし、火工品も必要になるが、一般的なチャフ/フレア・カートリッジを使用できるし、側方に向けて放出すれば広い範囲にばらまくにも具合がよい。この辺は思想の違いというべきか。



