2026年6月、米海軍でひとつの時代が終わった。空母から発着し、人員や物資を運んできた固定翼輸送機「C-2グレイハウンド」が退役したのだ。なぜ空母には専用の輸送機が必要だったのか。そして、その後継がV-22オスプレイになったのはなぜなのか。今回は、空母を陰で支えてきた特殊な輸送機「COD」の技術と役割を見ていこう。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
空母にはなぜ「専用の輸送機」が必要なのか
米海軍では、空母からの発着艦ができる輸送機をCOD(Carrier Onboard Delivery)と呼んでいる。当然、「カタパルトで発艦できる離陸重量に収めること」「着艦拘束装置の能力に見合った着艦時重量に収めること」「空母のエレベーターで上げ下げできるサイズにまとめること」「主翼折り畳み機構を備えること」といった条件が付く。
しかも、COD機は戦闘任務に使用する機体と違って所帯が小さい。C-2は当初に17機、その後で39機、合計56機しか製造しなかった。前任のC-1トレーダーも、83機しか製造しなかった。
数が出ないことが明らか、しかも空母で運用するために特殊な構造・設計を必要とするCOD機を、まっさらの新規設計にするのは、調達の面でも維持管理の面でも不経済。何か既存の機体をベースにして開発するのでもなければ成立しない。
しかし一方で、搭載能力に関して妥協ができない。第384回でも少し触れたが、米海軍のCOD機には「空母搭載機が使用するエンジンを載せられる」という条件が課せられている。
いったん空母がデプロイメントに出れば、半年、ときには1年近く航海が続く。もちろん、予備品・補用品は搭載していくが、足りなくなる場面も考えられる。特にエンジンは大物かつ高価なものだから、そんな大量の予備を搭載していくわけにも行かない。
ということは、重量の面でもスペースの面でも、必要なキャパシティは確保しなければならないということである。
C-2は早期警戒機E-2から生まれた
そこで米海軍のCOD機は、C-2にしろC-1にしろ、既存の機体を改設計して貨物機に作り直す形をとった。
まずC-1だが、艦載対潜哨戒機のS2Fトラッカーがベースになっている。外観はS2FもC-1も似ているが、胴体は改設計されている。S2Fは後部胴体を細く絞り、そこに垂直尾翼を立てて、水平尾翼は垂直尾翼の付根より少し上に取り付けた。C-1もこのレイアウトを引き継いだ上で機内を貨物室に改めた。
そのため、軍用輸送機によくある後部カーゴドアとカーゴランプは備えていない。よって貨物の出し入れは側面に設けた扉を使わざるを得ず、大きな貨物の搭載・卸下には制約がある。搭載量は約1.6トン、機内に座席を設置して9人を載せることもできる。
ちなみに、早期警戒機のE-1トレイサーもS2Fの派生モデルである。
一方、C-2はE-1の後継機・E-2ホークアイから派生させた。ただし胴体をごっそり再設計して太くしており、断面形状は下ぶくれのおむすび型に近い。限られたスペースの中で機内容積を最大限に稼ぐための設計で、胴体と地上のクリアランスもE-2より少なくなった。それだけ床面が地面に近い。
そしてC-1との最大の違いは、水平尾翼の位置をE-2よりも高くして、胴体後部にカーゴドアとカーゴランプを設けたこと。これにより、エンジンみたいな大物でも搭載・卸下が容易にできる。
また、搭載量は約7.7トンに増加、463Lパレットによる貨物搭載も可能になった(最大3枚分)。人員輸送も可能で、最大39名の搭乗が可能。なお、主翼の面積はE-2もC-2も同じ65平方メートル。最大離陸重量もだいたい同じで約25~26トンぐらいになる。
C-2の後継は「オスプレイ」に
そのC-2の後任はV-22オスプレイの派生モデル、CMV-22B。ティルトローター機だからC-1やC-2とはカテゴリーが異なり、それ故に「空母からの発着艦が可能な “通常型の” 固定翼軍用輸送機は終わった」と書いた。
もちろん、CMV-22Bの貨物室にはF/A-18ホーネットのF404エンジンやF414エンジン、F-35のF135エンジンも載せられる。後部カーゴドアとカーゴランプもあるので揚搭に問題はないし、463Lパレットにも対応する。
このほか、S-3ヴァイキング対潜哨戒機を改造して間に合わせのCOD機に仕立てたUS-3Aという機体が6機あった。胴体はS-3Aそのままだったので、もちろん後部カーゴドアやカーゴランプは持たない。
乗客は後ろ向きに座らせる
前述したように、COD機は貨物輸送だけでなく人員輸送もできる。空母がデプロイメントに出ていてもお構いなしに人事異動は行われるので、新たに着任する人を陸地から空母に運んだり、離任する人を空母から陸地に運んだりする。また、取材のために空母を訪れる報道関係者を乗せて飛ぶこともある(筆者は経験したことがないが)。
人を乗せるときには当然ながら椅子を設置するのだが、その設置要領が他の軍用輸送機と異なる。普通は機内の両側面に、それぞれ内側に向けて「お見合い」する形で座席を設置するものだが、C-1やC-2では椅子は横方向、それも後ろ向きである。C-2の場合、左右に2列ずつ。
そして、元が貨物輸送機だから窓は小さなものが少しあるだけ。乗客の立場からすると、カーゴドアを閉められた後はどこで何がどうなっているのかさっぱり分からず、いきなりドカンと接地あるいは着艦の衝撃が伝わってくると「ああ着いたのか」ということになるらしい。外部の状況が分かりにくいので、あまり気分がいいものではないと聞く。
どっこい生きてるC-1トレーダー
実は、米海軍ではとうの昔に退役したC-1トレーダーだが、退役した中古機をブラジル海軍が購入している。エンジンを空冷星形ガソリン・エンジンのライト・サイクロンR-1820からハネウェルTPE311ターボプロップに換装したため、ガソリンではなくJP-5ジェット燃料を使える。
ただ、ブラジル海軍の空母はすでに退役してしまい、C-1が発着艦できる艦がない。だから陸上での発着しかできず、「COD機として作られた機体」としては現役だが、「COD機として運用する機体」とはいえない。




