軍用輸送機の話は前回で終わりにするつもりだった。ところが先日、スウェーデンでポルトガル空軍のKC-390を見ていて、あるものが目に留まった。APU(Auxiliary Power Unit)の排気口である。旅客機ではAPUを尾部に組み込むのが一般的だが、KC-390ではまったく違う場所にある。では、他の軍用輸送機ではAPUをどこに搭載しているのだろうか。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • エアバスA350の尾部(報道公開時に撮影)。民航機ならこのように、尾部にAPUを組み込むのが一般的だが、軍用輸送機は事情が異なる 撮影:井上孝司

    エアバスA350の尾部(報道公開時に撮影)。民航機ならこのように、尾部にAPUを組み込むのが一般的だが、軍用輸送機は事情が異なる 撮影:井上孝司

KC-390で見つけた「APUらしきもの」

2026年8月22~23日にかけて、スウェーデンのリンシェーピンにあるマルメン空軍基地で、スウェーデン空軍100周年を祝うエアショーが行われたので見に行ってきた。

従来、スウェーデン空軍のエアショーというと自国以外の国から来る、いわゆる外来機は割と限られていたようだ。2019年に訪れたときには、外来機といえば、中立国仲間のスイスとフィンランドが送り込んできたF/A-18など、限られた顔ぶれだった。

ところが現在、スウェーデンはNATOの一員である。そのことと100周年というイベント性からか、今回の100周年エアショーでは、他のNATO加盟国から多数の外来機がやってきた。その中に含まれていたのが、ポルトガル空軍のエンブラエルKC-390輸送機/給油機である。

この機体、地上展示しかしていなかったが、APUを作動させて騒音を振りまいており、会話もままならなかった。途中で止めてくれたのでホッとしたが、そこで気付いたのがAPUの排気口らしきもの。なんと、主翼付根の後方右舷側に、上方向きに排気管が突き出ている。

外見からすればAPUの排気口くさいし、ここに設置すれば貨物室への張り出しを抑えられるという点でも合理性がある。だから筋は通っているのだが、そこから「はて、他の軍用輸送機はどうしてる?」という話になった。そして、まだこのことを書いていないことに気付いた次第。

  • ポルトガル空軍のKC-390。ちなみにこの機体のエンジンは、日本のメーカーも製造に参画しているIAE V2500である 撮影:井上孝司

    ポルトガル空軍のKC-390。ちなみにこの機体のエンジンは、日本のメーカーも製造に参画しているIAE V2500である 撮影:井上孝司

  • KC-390は翼胴結合部フェアリングの右舷側にAPUを内蔵しているようで、それらしき排気口があるのが分かる 撮影:井上孝司

    KC-390は翼胴結合部フェアリングの右舷側にAPUを内蔵しているようで、それらしき排気口があるのが分かる 撮影:井上孝司

旅客機のAPUはなぜ尾部にある?

そもそもAPUは小型のガスタービン・エンジンであり、発電機や油圧ポンプを回すための回転力を得たり、エンジン始動などで必要となる圧縮空気を供給したりするためのもの。それ自体が機体を推進する力を発揮する訳ではない。だから、APUの排気口は主エンジンの排気口みたいに真後ろに向けて設置するものとは限らない。

旅客機を見ると、APUはたいてい尾部に組み込んでおり、真後ろに向けて排気口を設置している。あえて側面に向ける必然性がないからだが、左舷側に排気口の開口を設けたボーイング777みたいな例外もある。双発機や四発機なら胴体の尾部にエンジンを設置することはないので、そこがAPU設置の適地となる。

マクドネルダグラスDC-10は、777とは反対に、右舷側に排気口の開口を設けている。DC-10は三発機だが、中央の2番エンジンは垂直尾翼をぶち抜くように設置しており、胴体内は空いている。だから尾部にAPUを組み込むことに問題はない。

  • DC-10を空中給油機に仕立て直したKC-10のAPU排気口。APUは尾部に内蔵しており、排気口を右舷側に突き出している 撮影:井上孝司

    DC-10を空中給油機に仕立て直したKC-10のAPU排気口。APUは尾部に内蔵しており、排気口を右舷側に突き出している 撮影:井上孝司

  • この機体では、APU排気口の周囲だけ外板が煤けているので分かりやすい 撮影:井上孝司

    この機体では、APU排気口の周囲だけ外板が煤けているので分かりやすい 撮影:井上孝司

それなら、胴体内に2番エンジンを設置してS字ダクトで吸入空気を導いているロッキードL-1011トライスターは、尾部にAPUを収める場所がないのでは? と思ったら、2番エンジンより前方の胴体下部・左舷側にAPUを組み込んでいた。

軍用輸送機では「尾部」が使えない

ところが軍用輸送機の場合、民航機のように尾部にAPUを組み込むのは難しい。現物の写真を御覧いただくとお分かりの通り、みんな尾部が細かったり薄かったりするし、しかも尾端に近いところまで貨物室になっていることが多い。これではAPUを設置する場所がない。

そして、貨物室はできるだけ凸凹が少ないシンプルな大箱にしたいから、機内側に張り出しができるような設置場所は好ましくない。すでに過去の回で書いているように、降着装置も翼胴結合部も、できるだけ外に押し出して貨物室に張り出しができないようにするのが軍用輸送機である。

そこで調べ回った結果、大きく分けると二通りの派閥があることが分かった。「主脚収納用バルジ」と「胴体上部の翼胴結合部付近」である。主脚収納部バルジについては、さらに「右舷側」「左舷側」など複数の分派がある。

以前にも書いたように、軍用輸送機は支援設備・支援機材が整っていない飛行場、ときには飛行場ではない場所で離着陸することもある。だから可能な限り高い自己完結性が求められる。エンジンをかけるのに、いちいち地上の支援機材に頼らなければならないようでは困る。

よって、APUは不可欠のアイテムであるが、前述した制約があるので、それをどこに押し込めるかが課題になるわけだ。

C-17、C-2、C-130……APUはどこにある?

ここからは百の能書きよりひとつの写真。実機の写真を御覧いただこう。たいていの場合、排気口の開口がAPUの存在を明瞭に示してくれている。

  • C-17Aは右舷側主脚収納部バルジの前方側。丸で囲んだ部分が排気口 撮影:井上孝司

    C-17Aは右舷側主脚収納部バルジの前方側。丸で囲んだ部分が排気口 撮影:井上孝司

  • C-2も同様に、右舷側主脚収納部バルジの前方側。丸で囲んだ部分が排気口 撮影:井上孝司

    C-2も同様に、右舷側主脚収納部バルジの前方側。丸で囲んだ部分が排気口 撮影:井上孝司

  • C-130のうち、C-130H以降のモデルでは、左舷側主脚収納部バルジの前方側にAPUを組み込んでいる。上の、機体全体を撮った写真だとよく分からないが…… 撮影:井上孝司

    C-130のうち、C-130H以降のモデルでは、左舷側主脚収納部バルジの前方側にAPUを組み込んでいる。上の、機体全体を撮った写真だとよく分からないが…… 撮影:井上孝司

  • 問題の主脚収納用バルジを拡大して見ると「WARNING - KEEP CLEAR APU EXHAUST」という注意書きが分かる。「(高温の排気ガスが出てくる)APU排気口があるから周囲を空けろ」という意味 撮影:井上孝司

    問題の主脚収納用バルジを拡大して見ると「WARNING - KEEP CLEAR APU EXHAUST」という注意書きが分かる。「(高温の排気ガスが出てくる)APU排気口があるから周囲を空けろ」という意味 撮影:井上孝司

なお、C-130Hより前のモデルでは、同じ場所にGTC/ATM(Gas Turbine Compressor/Air Turbine Motor)と20kVAの発電機を搭載していたという。APUを搭載するようになったのに併せて、発電機を40kVAに増強したのだそうだ。

  • C-27JもC-130H以降と同様に、APUの設置位置は左舷側主脚収納部バルジの前方側。主脚収納室扉の前方に排気口が突き出ているのが、この角度からでも辛うじてわかる(楕円で囲んだ部分) 撮影:井上孝司

    C-27JもC-130H以降と同様に、APUの設置位置は左舷側主脚収納部バルジの前方側。主脚収納室扉の前方に排気口が突き出ているのが、この角度からでも辛うじてわかる(楕円で囲んだ部分) 撮影:井上孝司

  • 面白いのはC-5ギャラクシーで、なんと両舷の主脚収納部バルジにそれぞれひとつずつのAPUを組み込んでいる。また、他の機体と違い、主脚の後方側に組み込んでいる点にも特徴がある(楕円で囲んだ部分) 撮影:井上孝司

    面白いのはC-5ギャラクシーで、なんと両舷の主脚収納部バルジにそれぞれひとつずつのAPUを組み込んでいる。また、他の機体と違い、主脚の後方側に組み込んでいる点にも特徴がある(楕円で囲んだ部分) 撮影:井上孝司

なお、エアバスA400MはKC-390と同様、翼胴結合部にAPUを組み込んでいるらしい。スペインで組み立て中の現場を見ているのにどうして分からなかったのか、と突っ込まれそうだが、間近な地べたから見上げるとよく見えない位置なのだ。と言い訳しておく。