レノボは7月28日、同社エグゼクティブバイスプレジデント兼インフラストラクチャ ソリューションズ グループ(ISG) プレジデントのAshley Gorakhpurwalla(アシュリー・ゴラクプルワラ)氏が来日し、メディア向けにラウンドテーブルを開催した。
レノボISGの成長とAI戦略、「Smarter AI for All」を推進
冒頭、ゴラクプルワラ氏は「当社は引き続き“Smarter AI for All(すべての人のための、より賢いAI)”に注力している。for Allの部分が重要なのは、われわれがユニークな企業だからであり、スマートフォンからクラウドまでを一貫してカバーできる企業は実質的にレノボだけで、そのすべての領域で世界水準の製品・サービスを提供している。われわれがSmarter AI for Allと言うとき、それは消費者の利用体験から世界最大規模のハイパースケーラーまで、あらゆる顧客を支援できるという意味だ」と話す。
全社の事業は好調に推移しており、直近の年間売上高は過去最高を更新する830億ドルとデバイス事業、インフラ事業、サーバ事業、ソリューション事業のすべてで成長を実現しているという。ISGは、現在の市場ニーズに対して世界最高水準で応えることに注力しており、AI対応デバイスやソフトウェア、AIスタックを顧客やパートナーに提供するとともに、財務、人事、製造、製品開発など、自社のあらゆる業務領域にAIを導入している。
ゴラクプルワラ氏は「ISGのルーツはIBMにあり、レノボがIBMのx86サーバ事業を買収したのは約11年前。その後、クラウド事業を構築し、レノボの製造規模を活用するとともに、研究開発投資を拡大してきた。また、DLC(Direct Liquid Cooling:直接液冷)技術も開発している。液冷技術自体はAI向けに始まったものではなく、メインフレーム、HPC(スパコン)、そして現在のAIへと発展してきた。このため、当社は液冷技術に関する豊富な経験と高い技術力を持つ。最近では、エンタープライズAI戦略を本格的に立ち上げ、AIの発展方向についても明確な見方を示している」と説明した。
AIの市場に関しては同氏は「大きく変化している」とし、従来は大きなモデル、多くのパラメータを持つモデルの開発を支援するモデル開発向けインフラが中心だったが、その後はチャットボット型AIで人々はAIに質問し、答えを得るようになった。現在では、本番業務への導入が進み、特にコールセンターやソフトウェア開発、検索・回答システムなどの領域が先行しているほか、「Agentic AI」の段階へ移行していることを挙げた。
同氏は「つまり、人間から指示を受けるだけではなく、自律的に判断して別のエージェントや業務プロセスの代理として動作するAIであり、非常に大きな変化だ。また、スケールの重要性も急速に高まる一方で、市場では需要に対して供給が追いついていない。さらに、AIは特定部門だけの話ではなく、人事、業界ごとの業務、小企業から大企業まで、あらゆる議論にAIが組み込まれており、普遍的な存在になりつつある」との見方を示した。
企業が直面するデータ活用とAI運用の課題
しかし、AIを組織で活用していくためにはデータは重要な部分を占める。特に大企業は「Data Gravity(デーータ重力)」の影響で自社の独自データによってAIモデルが賢くなる一方、その恩恵を競合他社が受けてしまうのではないかと懸念している。企業内に価値をとどめるための出発点がデータだという。
また「Distributed Compute(分散コンピューティング)」も重要であり、大規模ワークロードはクラウドで動かすべきか、それともホテルのように現場で生成されるデータは現地で処理すべきかなど、エッジ、データセンター、クラウドを組み合わせ、最適な場所にワークロードを配置することが重要になっているとのことだ。
さらに「Trusted Autonomy(信頼できる自律性)」として、AIエージェントがどのデータへアクセスでき、何を変更できるのか、企業システム内でどの権限を持つのかといった管理が企業では重要視されている。加えて、スタック全体の統合性では、異なるシステムとの互換性があるのか、他のエージェントと連携できるのかなどもポイントとなる。
昨今の大企業では「Token Economics(トークン経済性)」の議論も活発化の傾向があり、AI導入にかかるコストやROI(Return On Investment:投資収益率)ではなく、「どれだけのトークンを消費しているのか?」「それは費用対効果が高いのか?」という観点も必要だという。
加えて、AI導入を支援するには「Stack Integration(包括的な技術スタック)」を備えている必要がある。顧客の中には単にインフラだけを求める企業もあり、AIソフトウェアやアプリケーションの選択はすでに終えており、残る課題は最高の性能、信頼性、そして液冷技術を備えたインフラを導入することだけ、というケースもあるからだ。同社ではエッジ環境でAIを運用することも可能としている。
NVIDIA連携と液冷「Neptune」でAIインフラを強化
他方、NVIDIAとの共同開発による最先端のラックスケールシステムも提供しており、その中間に位置するあらゆる規模のソリューションも揃えている。同氏は「AI推論が新しい市場カテゴリーを生み出すと考え、技術開発においてすでに先行している」と説く。
また、データセンターやインフラ、ストレージの管理を支援するLenovoのソフトウェア「XClarity」にはAI機能も組み込まれ、ユーザーが効率的かつ高度にインフラを運用できるように支援している。
さらに、DLCの「Neptune」は密閉された冷却ループで冷却水を直接チップへ送り込み、発生した熱を効率的に排出。これにより、高密度な電力消費を伴うシステムでも効率的な運用が可能になり、空冷と比較して最大50%高い冷却効率を実現できるという。
そして、セキュリティの観点では顧客がデータを保護し、適切に管理できるためのツールを提供していることに加え、顧客ごとに管理ソフトウェア、プロセッサ、OS、データベースなどの選択は異なるため、互換性も有している点を強調していた。
ニデック連携や関西AIハブ、日本市場向け取り組みを加速
日本市場に関して、まずゴラクプルワラ氏が紹介したものが総合モーターメーカーのニデックとの協業についてだ。この協業でレノボのNeptuneとニデックのCDU(Cooling Distribution Unit:冷却水分配装置)を組み合わせることで、データセンター全体の消費電力削減と環境負荷の低減を目指している。
さらに、直近に開設した「Kansai AI Hub(関西AIハブ)」は大学や学術機関、テクノロジーパートナー、行政機関を結び付け、日本市場におけるAI開発、AI技術の実証、検証環境の構築を推進するエコシステムを形成する取り組みだ。
レノボの強みは真にグローバルな事業体制にあり、世界規模の事業展開と地域密着型の顧客支援、その両立を実現しているという。
同氏は「両立には強力な製造ネットワークが必要となり、AIシステムやエンタープライズ向け製品の大半は北米、欧州、アジア太平洋地域の主要工場で製造している。先週には、米国で最新のAI工場の開設を発表しており、AIシステム製造の旗艦拠点となる。こうした体制がもたらす、もう1つの利点は変化への対応力。世界は非常に速いスピードで変化し、さまざまな要因がサプライチェーンに影響を与える。私たちはグローバルな製造基盤で顧客へ高いレジリエンスを備えたサプライチェーンを提供している」と胸を張る。
AI市場1兆ドル時代へ、インフラ事業を成長エンジンに
最後に、同社の成長をけん引するインフラ事業について、ゴラクプルワラ氏は解説した。同氏は「当社はPC市場におけるトップ企業だが、インフラ事業で私たちは顧客に対する総合テクノロジープロバイダーになることができる」と話す。
同社ではAI関連のインフラ、データセンター、ソフトウェア、サービスを含めたAI市場全体が2030年までに1兆ドル規模へ成長すると見込んでいる。2年前と比較すれば2~3倍、そして現在の市場規模と比較しても約2倍になる可能性があるという。
同氏は「当社にとって非常に大きな成長機会だ。私たちはまさに適切な市場に存在し、顧客に対して、エッジからクラウドまで、その中間も含めたあらゆる領域をカバーできる能力を持っている。これは業界内でも限られた企業しか持たない強み。また、11カ国・地域にまたがる13カ所の製造拠点による高いレジリエンスも備え、重要な差別化要因となっている」と語っている。
そして、ゴラクプルワラ氏は「イノベーションは極めて重要だ。AIインフラは企業の業務プロセスを変革するが、その基盤ではテクノロジーの利用方法そのものを変えていく。だからこそ、私たちは継続的に技術革新を進めなくてはなりません。日本市場を例に挙げれば、仮に私たちが液冷技術や電力効率を改善できなければ、日本市場でのAI普及は難しくなる。なぜなら、日本の電力コストは米国やその他の市場と比べて高いからだ。そのため、日本においてAI導入が不利にならないよう、私たちには優れた電力効率を提供する責任がある」と述べ、プレゼンテーションを締めくくった。
AI市場が急速に拡大する中で、レノボは単なるハードウェアベンダーではなく、エッジからクラウドまでをカバーする総合テクノロジープロバイダーへの転換を進めている。ゴラクプルワラ氏は、AIの活用領域がチャットボットからAgentic AIへと進化し、今後はデータ管理や電力効率、インフラ最適化が企業競争力を左右するとの見立てだ。日本市場についても、Neptuneや関西AIハブなどを通じて取り組みを強化する考えで、同社はAI時代の成長市場を取り込む姿勢を鮮明にしている。



