フォトシンスの入退室管理システム「Akerun」が、大阪公立大学の中百舌鳥キャンパス(大阪府堺市)に導入され、スマートキャンパスの実証実験に活用されている。そこで、今回は同キャンパスで、Akerunがどのように活用されているのかを取材してきた。

  • 大阪公立大学の中百舌鳥キャンパス

    大阪公立大学の中百舌鳥キャンパス

大阪公立大学が描くスマートキャンパスの姿

人手不足やエネルギーコストの上昇、カーボンニュートラルへの対応などを背景に、大学施設の運営にもDXが求められている。中でも、施設を統合的に管理するスマートキャンパスは、運営の効率化と利用者の利便性向上を両立するプロジェクトとして、多くの大学が取り組んでいる。

大阪市立大学と大阪府立大学を統合し、2022年に設立された大阪公立大学もスマートキャンパスの実現に積極的に取り組む大学の1つだ。産学官民共創を軸とした「イノベーションアカデミー」をコンセプトに、社会課題を解決し、新しい社会の創造を推進している。

  • スマートエネルギー棟の外観

    スマートエネルギー棟の外観

特徴的なのは、同大学のキャンパスをスマートキャンパス実現に向けた実証実験のフィールドとして活用している点だ。今回、取材した中百舌鳥キャンパスのスマートエネルギー棟は2025年2月に開設し、小規模実証を試すフィールドとして位置づけられており、検証するためのさまざまな仕掛けが施されている。

  • スマートエネルギー棟の概要

    スマートエネルギー棟の概要

これにより、同大は概念検証から小規模実験(スマートエネルギー棟)・大規模実験(森之宮キャンパス)を経て、社会実装まで一気通貫で検証できる体制を整えている。「計画・設計・実装・テスト」のサイクルを短期間で繰り返す手法(アジャイル開発)にも対応している。

  • スマートエネルギー棟のステージエリア

    スマートエネルギー棟のステージエリア

そして、イノベーションアカデミーとして「産学官民共創リビングラボ」機能を、大学が持つすべてのキャンパスに配置し「ネットワーク型イノベーションエコシステム」を構築。産学官民が課題を共有したうえで、課題解決に向けたプロジェクトを設計し、リビングラボでは、社会実装に向けた実証実験を繰り返している。

  • スマートエネルギー棟のステップワークエリア

    スマートエネルギー棟のステップワークエリア

同大で大学院情報学研究科長兼学長補佐として、スマートユニバーシティを担当する阿多信吾教授は「スマート化といったとき、通信環境や各種センサ、構築したシステムを利用するためのアプリなど、基盤が必要になってきます。物理的な設備をソフトウェアから一括制御するSDN(Software Defind Network:ソフトウェア定義型ネットワーク)という考え方がありますが、それを建物に適用しようと考えています。まずは、われわれのキャンパスで検証し、それを地域に広げ、さらには都市に広げていきたいですね」と語り、スマートキャンパス実現への意欲を示す。

  • 大阪公立大学 大学院情報学研究科長 学長補佐(スマートユニバーシティ担当) 教授の阿多信吾氏

    大阪公立大学 大学院情報学研究科長 学長補佐(スマートユニバーシティ担当) 教授の阿多信吾氏

建物を効率的に運用・管理する「ビルOS」

スマートキャンパスの実現に向け、中でも同大が注力しているのが、建物を効率的に運用・管理する「ビルOS」の開発だ。

ビルOSの基本は、ビル設備に関するさまざまなデータを収集して設備の稼働状況を可視化し、ビル管理業務の効率化を図ること。より快適にビルを利用できることはもちろんだが、そのうえで光熱費の削減や設備運用の効率化といった面でも効果が求められる。

阿多教授は「中心となる考え方は、物理空間とデジタル空間を融合し、建物をソフトウェアで制御可能な環境にすることです。空調や照明はもとより、自動ドアやエレベーター、ロボットなど、ベンダーや設備ごとに制御の仕組みが異なる仕様であっても、アプリからまとめて管理できるようにするのがビルOSです。パソコンでいうWindowsやmacOSのようなオペレーティングシステムがありますよね。同じように、建物向けのオペレーティングシステムを構築していこうとしています」と語り、ビルOSが果たす役割を説明した。

  • ビルOSの概要

    ビルOSの概要

主な機能として「通信仕様変換機能」はビル設備と外部システム間でデータ連携を実現するために、通信プロトコル変換などを行い、設備ごとの通信仕様の差異を吸収するという。

また「データ管理機能」はビル設備から収集したデータに属性データを付与することで、ビル設備の追加・変更などに対して、データを柔軟に蓄積・管理できる。さらに「データ送受信機能」はビル設備と外部システム間でデータの送受信を可能とするほか、外部システム向けにAPIを提供する。

いわば、ビルOSとは建物版のオペレーティングシステムといえる存在である。従来は個別に運用していた設備の管理を統合し、一元的に管理することで、ビル全体の機能を最大限に発揮できるというわけだ。

  • スマートエネルギー棟はビルOSを中心とした実証が可能

    スマートエネルギー棟はビルOSを中心とした実証が可能

ビルOS時代の鍵を握る「Akerun Access Intelligence」

ビルOSを導入し、運用するうえで要となってくるのが「スマートロック」だ。スマートロックは入退室を管理するためのシステムで、セキュリティを強化しつつ、建物を効率的に運用できることを特徴としている。

入居企業の研究施設を備える同棟では、高いセキュリティ水準が求められる。ICカードや認証情報により、許可された人だけが必要なときに施設へ入れる仕組みが重要だ。セキュリティには万全を期さなければならない。

そこで課題となったのが、ロボットの運用だ。スマートエネルギー棟では、ICカードを利用した電子錠システムを採用しているが、そのシステムは人の利用を前提としており、ロボットが利用することは想定されていない。

  • スマートエネルギー棟の清掃ロボット

    スマートエネルギー棟の清掃ロボット

既存の仕組みでは、清掃ロボットや搬送ロボットの活動範囲が限定されてしまうのだ。その課題を解決する手段として、白羽の矢が立ったのがフォトシンスの認証技術「Akerun Access Intelligence」である。

  • 「Akerun Access Intelligence」を認証基盤に、スマートロックやスマートキー、管理を可能としている

    「Akerun Access Intelligence」を認証基盤に、スマートロックやスマートキー、管理を可能としている

Akerun Access Intelligenceは、同社が開発・提供するソリューションの基盤となる技術で、クラウド経由で「Akerun」シリーズの管理を実現する認証プラットフォームだ。

同プラットフォームでは、スマートキーの発行や権限管理に加え、遠隔地から「Akerun Pro」や「Akerun コントローラー(Akerun Ctl)」などを制御して、施設管理の無人化または省人化を推進するという。

  • 「Akerun Pro」と「Akerun コントローラー(Akerun Ctl)」の概要

    「Akerun Pro」と「Akerun コントローラー(Akerun Ctl)」の概要

スマートエネルギー棟では、自動ドアの開閉を管理する既存の電子錠システムに、自動ドアの制御に対応するAkerun コントローラーを追加導入。

  • スマートエネルギー棟に設置されているAkerunのリーダー(写真上部)

    スマートエネルギー棟に設置されているAkerunのリーダー(写真上部)

ビルOSと連携させることによって、清掃ロボットや搬送ロボットが近づいた際、電子錠システムの認証をクリアさせて自動ドアを開き、ロボットが通過できる仕組みを実現した。

  • 自動でエレベーターに乗る清掃ロボット

    自動でエレベーターに乗る清掃ロボット

ビルOSとAkerunが広げるスマートビルの可能性

ファミレスの配膳ロボットや駅構内の清掃ロボットなど、ロボットが活躍するシーンが増えている昨今、建物の中で活動するのは人間だけとは限らない。建物内で活動する主体が人だけではなくなる点に、いち早く着目して開発が進められている大阪公立大学のビルOS。今後の展開も見逃せない。

  • Akerunの導入効果

    Akerunの導入効果

また、Akerunの今後も気になるポイントだ。阿多教授は「ただ鍵を開閉するのではなく、鍵を開けた、もしくは閉めたという情報を利用します。たとえば、部屋の鍵を開けたら、自動的に照明が点いて、空調もオンになる。さらに、搬送ロボットが届いた書類や荷物を部屋まで運ぶといったことも可能です」と語り、可能性を示唆する。

Akerun ProやAkerun Ctlから送られてくる開閉情報をきっかけにして、建物や設備をコントロールしようというわけだ。Akerunが施錠・解錠や入退室権限の管理だけではなく、ビル運用のセンサとしての役割も兼ねる日が来るかもしれない。