レノボ・ジャパンは2026年7月22日、「Kansai AI Hub(関西AI Hub)」を大阪市内に開設した。関西地域におけるAIイノベーション創出の中核拠点と位置づけるとともに、AIスタートアップの創出および育成、国内外への展開を支援する。

  • 7月22日に「Kansai AI Hub(関西AI Hub)」が開設した

    7月22日に「Kansai AI Hub(関西AI Hub)」が開設した

関西 AI Hubとは - 産学金連携でAIの社会実装を支援

関西AI Hubは関西エリアの大学、研究機関、大手企業、IT企業、システムインテグレータ、AIスタートアップと金融および資本市場をつなぎ、ユースケースの創出からPoC(概念実証)、社会実装、事業化、資金調達まで一気通貫で支援するAI共創プラットフォームとし、「産学金連携」による日本発のAIイノベーションの創出を加速することを目指す。

  • 関西AI Hubの概要

    関西AI Hubの概要

レノボ・ジャパン 代表取締役社長の檜山太郎氏は「レノボグループは『Smart AI for All』を掲げ、AIの恩恵をあらゆる企業や組織、個人に提供し、あらゆる人にとって利用しやすいインクルーシブなAI体験の提供を目指している。その展開において、関西は重要なエリアで事業体が連携し、一体感がある市場だ。大学を含めた研究施設や日本を代表する企業で構成する産業界、自治体、資本市場がコンパクトにまとまっている。AIを社会実装する際には、こうした連帯感が必要である。関西からイノベーションを創出し、世界に発信していきたい」と述べた。

  • レノボ・ジャパン 代表取締役社長の檜山太郎氏

    レノボ・ジャパン 代表取締役社長の檜山太郎氏

また、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 代表取締役社長の張磊(チョウ・ライ)氏は、この日の大阪の気温が36度になっていたことから「暑い大阪で、それ以上に熱いAIの未来の話をしたい」と切り出した。

  • レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 代表取締役社長の張磊(チョウ・ライ)氏

    レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 代表取締役社長の張磊(チョウ・ライ)氏

そのうえで、同氏は「関西発のAIユースケースを継続的に創出すること、スタートアップや大企業、資本市場を接続し、事業化と成長を後押しすることを目指す。これまでのスタートアップ支援と異なるのは、PoCで終わらせずにAIの社会実装を加速し、ユースケース創出から事業展開までを一気通貫で支援する点にある。優れた技術を持つAIスタートアップ企業を育て、日本のAI市場を広げることでレノボのビジネスも広がることになる。同じ想いを持つパートナーが協力し、関西や日本の成長につなげたい」と抱負を語った。

なお、説明会では関西AI Hubに参画する企業の数や、資本市場からの具体的な投資額などについては明らかにしなかった。

JPX発案で中之島クロスとJAM BASEに拠点、AIスタートアップを後押し

今回の関西AI Hubの発案者である日本取引所(JPX) 代表執行役グループCOO兼東京証券取引所 代表取締役社長の横山隆介氏は、同ハブを開設した経緯について以下のように話す。

「JPXはスタートアップ企業の育成・支援に力を入れている。また、国際金融都市を目指す大阪府と大阪市の活動にも協力している。2023年から開始した大阪・関西スタートアップ成長支援塾では50社弱が卒業し、これらの企業には将来的にはIPO(新規株公開)をしてもらいたいと考えている。大阪は産学の距離が近いという特徴がある」(横山氏)

  • 日本取引所(JPX) 代表執行役グループCOO兼東京証券取引所 代表取締役社長の横山隆介氏

    日本取引所(JPX) 代表執行役グループCOO兼東京証券取引所 代表取締役社長の横山隆介氏

そして、同氏は「レノボの提案から約半年間のスピード感で実現したものだ。AIサーバを使用でき、AIツールを利用しつつ企業や大学、行政がつながることができる。ここからイノベーションが生まれること、また大阪にあるスタートアップ企業支援の関連拠点同士の連携が進むきっかけとして期待している。関西AI Hubは、産学連携や拠点連携の接着剤としての役割を果たすことができるだろう。大阪および関西の企業が成長することが、日本の資本市場の成長にもつながる」と力を込める。

関西AI Hubは、日本生命とイノベーション施設オペレータであるCICが共同プロジェクトとして中之島クロスに設置しているライフサイエンス特化型イノベーションキャンパス「Osaka Life Science Nexus」の9階フロアに拠点を開設。

  • 中之島クロスの外観

    中之島クロスの外観

  • 中之島クロスの9階に設置された「関西AI Hub」

    中之島クロスの9階に設置された「関西AI Hub」

入居しているライフサイエンス関連企業ととともに、AIを活用した新たな事業の創出などを支援する。また、大阪駅北側のうめきたエリアにある共創施設「JAM BASE」にも、同様の拠点を設置し、ライフサイエンス分野以外のAIスタートアップ企業などとの連携を図る。

関西AI Hubの運営はレノボとインテルが中心となり、最新AI技術と産業課題を結びつけ、新たなソリューションと市場機会を創出。大手企業やAIスタートアップ企業なども参画して、優れたAI技術の商用化を支援し、大企業との共創、実証、販路開拓を通じて成長の加速を支援する。

加えて、大学・研究機関は研究成果や知的財産を産業界をつなぎ、ユースケースの創出から社会実装までを支援する。さらに、行政や資本市場は事業化や資金調達、上場支援を通じて、地域経済の成長と高度人材の定着を促進する役割を担う。

業務課題や価値仮説などの「ユースケース」、AIエージェント開発などの「デベロップメント」、検証環境や効果測定を通じた「PoC」、システムインテグレーション、プロジェクトマネジメントの取り組み、そして本番導入による「インプリメンテーション」、商品化やパッケージ展開による横展開を通じた「スケール」までを支援する考えだ。

  • ユースケースの創出から事業展開までを一気通貫で支援する

    ユースケースの創出から事業展開までを一気通貫で支援する

さらに、企業間のマッチングを支援する「AI Hub Platform」を提供。大手企業が抱えるユースケースや、ビジネス課題などをサイト上に掲載し、AIスタートアップが得意領域を登録すると、自動的に候補がマッチングされる。検証環境の提供やPMO(Project Management Office)を通じた支援活動も行う。

  • AIの社会実装を加速していく

    AIの社会実装を加速していく

GPUサーバと検証環境を提供、PoC止まりのAI活用を事業化へ

一方、張氏はAI時代に企業が直面する課題として、AI活用の主体がIT部門から事業部門へ移っていくこと、ビジネス課題に基づくユースケースが不足していること、初期投資が大きく、ROI(Return on Investment:投資収益率)が見えにくいこと、PoCから本番導入、全社展開に進めないこと、新しいAIエコシステムを構築する仕組みがないこと、優れたAI技術を持っていても、販売や事業化する仕組みが弱いことを挙げる。

同氏は「特に日本企業は『実証実験王国』と言われ、そこから先に進まないという課題がある。また、AIスタートアップ企業を訪問すると、社長自らが1人で営業を担当しているというケースがほとんどだ。日本のスタートアップ企業が持つAI技術はレベルが高いが、これらの企業を支援しないのはもったいない」と指摘。

こうした状況をふまえ、張氏は「レノボでは関西AI Hubを通じて、AIソフトウェアの開発環境やGPUサーバのエンジニアリングの提供を行う。また、データセンター事業者との連携でAI検証データセンターを複数設置し、用途別にLLM(大規模言語モデル)の推論、RAG(検索拡張生成)検証に適用できる検証環境を用意する」と支援の意向を示している。

  • レノボではAI実装のエコシステムを構築していくという

    レノボではAI実装のエコシステムを構築していくという

これにより、AIスタートアップ企業は初期投資コストを抑えることができ、事業化へのスピード向上が図れるという。レノボが持つ技術力やノウハウ、営業力、マーケティング力を提供するものの、同社は側面から支援する役割であることから、名称にレノボのブランドを冠しなかったとのことだ。

レノボやインテル、大阪府らが関西発AIエコシステムへの期待を表明

7月22日午後1時からは、大阪・中之島の中之島クロスの「Qrossover Lounge 夢」において、開設記念セレモニーを開催し、約100人の関係者が参加した。

  • 開設記念セレモニーで関係者によるテープカットが行われた

    開設記念セレモニーで関係者によるテープカットが行われた

開設記念セレモニーで挨拶した、レノボ インフラストラクチャーソリューショングループ バイスプレジデント兼CMOのフリン・マロイ氏は「当社はPCなどのハードウェアベンダーというだけでなくグローバルでAI市場をリードしており、責任あるAIを提供している。テクノロジーは強力なエコシステムがあってこそのため、AIスタートアップ企業や世界各地のイノベーション創出に多くの投資をしている。関西 AI Hubはグローバルの取り組みにおいても重要な意味を持つ。大阪は昔から商業が盛んな地域であり、学術面でも技術革新の源といえる場所である。単に施設を開設するだけでなく、社会的なイノベーションを起こし、ハイブリッドAIをリードする発射台としたい。どのようなブレークスルーが生まれるのかが楽しみだ」と、期待を示した。

  • レノボ インフラストラクチャーソリューショングループ バイスプレジデント兼CMOのフリン・マロイ氏

    レノボ インフラストラクチャーソリューショングループ バイスプレジデント兼CMOのフリン・マロイ氏

また、大阪府 政策企画部戦略調整局 副理事の多田一也氏は「大阪府は、国際金融都市を目指し、大阪を強化することに取り組んでいる。金融機能は、金融機関が集まるだけでは完結しない。大阪の企業に成長をしてもらうために、投資機関や金融機関が投資をするという循環が必要。昨年の大阪・関西万博を契機に、さまざまな取り組みが広がっているなかで、今回の取り組みはレノボやインテルなどグローバル企業を巻き込んだ協業促進の機会になる。大阪のスタートアップ企業だけでなく、さまざまな企業の成長機会が生まれ、AIの社会活用の機会も増えるだろう」と語った。

  • 大阪府 政策企画部戦略調整局 副理事の多田一也氏

    大阪府 政策企画部戦略調整局 副理事の多田一也氏

さらに、関西経済連合会 常務理事の久米一郎氏は「関西AI Hubは関西経済連合会に加盟している大企業にもメリットがある。特に関西の企業が得意とする創薬・ヘルスケア・素材分野でAIの活用は重要。これまでにも、DX委員会やスタートアップエコシステム委員会を通じて、関西エリアのDXを推進してきたが、新たにAIという重要なテーマに取り組むきっかけにもなる。AIの取り組みを各企業で閉じた活動にとどめず、同時にスタートアップ企業との連携を強化することができる。関西経済連合会の会員企業にも、この施設を活用してもらい、関西のAIコミュニティとしての発展を望む」と強調した。

  • 関西経済連合会 常務理事の久米一郎氏

    関西経済連合会 常務理事の久米一郎氏

加えて、インテル 執行役員 インダストリー事業本部長の高橋大造氏は「AI活用が増えてはいるものの、トークン課金の課題が生まれていたり、すべてのお客様がAIを利用できる環境には至っていないという課題が生まれたりしている。CPU需要は、4年間で約2倍に増加しており、AIインフラの拡大は急速に進展している。今後は、国産AIサービスや日本に特化した日本らしいAIの活用が増加することを期待している。実証実験だけで終わらせない活動は重要である。AIを推進する企業の1社として、関西AI Hubを通じて、関西発のAIスタートアップ企業が、世界に広がっていくことを期待している」と述べた。

  • インテル 執行役員 インダストリー事業本部長の高橋大造氏

    インテル 執行役員 インダストリー事業本部長の高橋大造氏

そのほか、レノボ・ジャパン 常務執行役員 ソリューション&サービス事業部の山口仁史氏は「大阪でAIスタートアップ企業を支援する産学が集まった。日本の企業は、PoCは多いが、実装には遅れが見られている。また、事業化しなくては何も始まらないのも事実だ。AIは進化が激しく、PoCをやっているうちに内容が陳腐化する場合もある。失敗も許容しながら、進化していく必要がある。関西AI Hubを通じて、AIスタートアップの成果を、大阪から世界に発信していきたい」と展望を示していた。

  • レノボ・ジャパン 常務執行役員 ソリューション&サービス事業部の山口仁史氏

    レノボ・ジャパン 常務執行役員 ソリューション&サービス事業部の山口仁史氏